第24話 カイラス山へと
「シヴァがいる所と言ったらカイラス山だね。そうと決まれば、早速向かうことにしようか」
「えっ、向かうってお前場所わかるのかよ」
「わかるも何も、あれ以外無いと思うよ?」
そう言ったエラの視線の遠く先にあったのは、一際大きくそびえ立つ山だった。しかし山と言っても木々等は一切生えて無い、山頂から雪をかぶった格好でそびえ立つ、物凄く大きな岩の様な黒い塊だ。
しかしえらい遠いな、距離にして……いやもはや全然わかんないくらい遠いわ。
「え、あそこまで行くだけでも骨が折れそうなのに、まさかあれ登るっていうのかよ? 勘弁してくれよ」
「まぁまぁ、仮にあそこまでテレポートしたとしてもさ? さっきのロボの言い分だと道中に他のミッションが転がってるだろうから、それ未達のままステージクリアーは出来ないでしょ? ずるはしないで地道にやれってことだよ」
「……はいはい。そうと決まれば出発しますか」
「むぅ……」
あ……ノイはいまだにむくれていた。やっべぇ、普通に忘れてたぜ。どうやらアムとリタと行動する事が不服らしい。
さてどうしたものか……と思っていた所、リタが口を開いた。
「あのさ、俺らはお前らに対して何があっても物理的なサポートはしないという決まりなんだよ。例えば敵が出てきたら一緒に戦うとかな?そういったことはここのルールで出来ねえんだ。
だから一緒に歩いていく必要もねーし、そこのコもなんか面白くなさそーにしてっから俺らは一旦実体を消すわ。アムも起きてらんねーしな。
まぁ何かあったら頭の中からでも話かけてくれればすぐに返事は出来るからよ。そんじゃあまたあとで」
そう言って、リタは立ったまま寝ているアムを抱えて、スッと消えていった。完全に消えたのかしっかりと確認して、ノイは一つ深く息を吐いて元気を取り戻す。
「よし! 意外と空気の読める虫で良かった! さあて気を取りなおして出発しんこ~!」
む、虫ってお前……。俺は思わず引きつった苦笑いをする。
いやしかしホントに、思ったより空気の読めるヤツらで助かったわ。俺はノイにばれない様に溜息をついた。
そしてエラが仕切り直す様に言う。
「準備OKだね。それじゃあい……ッ!?」
ん?
どういうわけか、エラが喋り終わる前に固まった。どうした? まださっき小馬鹿にされた事がショックなのか?
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~エラは動揺を隠せなかった~
『なんだ? たった今、第四ステージに誰かサインインしただって?
第三ステージクリアしたのは3人だったはずだけど……ええと……ラボの人間か? いや……え、なに……』
エラは柄にも無く、混乱する。
そして混乱したまま頭の中でサインインした人物の検索をかける。
――ヒットした。
『え……C-02? 確か第二ステージで閉じ込められて……』
「――そうだよ」
ぼそぼそと声が聞こえた。
『!!!』
相手からエラの脳内に直接コンタクトがあった。
有り得ない。僕のセキュリティは世界最高峰なんだよ。
構わずその声の主は会話を続けた。
「第二ステージでトラウマから逃げ出して、赤ん坊になって、ママのお腹の中に戻って、宇宙に放り出されて……気がついたら第二ステージは終わってて、あの組織、SPACEBABY MEDITATIONの人間が何人かグチャグチャになってた。僕が宇宙から『逆逆再生』して生まれ変わった際に備わった『脳力』ってやつのせいみたい」
エラはいまだ混乱しており、C-02の話が耳に入って来ない。
「ねえ」
C-02がそういうと、エラの前の空間がゆがみ、C-02の像が現れた。
『な……ッ!?』
エラはビックリした様子を隠す事もままならない。
ノブルが懐疑そうな顔でエラを見る。
「なんだエラ、どうした?具合でも悪いのか?」
『ノブル君、見えて無いのか? ……という事は僕の脳に直接アクセスしてるっていうこと? ……そんな不正なアクセス、許可してないんだけど…・・・なんなんだよ、キミは』
C-02はぼそぼそとまた喋り始める。
「多分今何が起きているのか、いくら考えても完璧な存在である君にはきっとわからないよ。大丈夫だよ、直接会った時に種あかしするから。仲間でしょ、少なくともこのステージではさ。追っかけるから、待っててね」
エラは人生で初めて、いっぱい食わされたという言葉はこういう時に使うのか等と思わされていた。口元が上下どちらに歪めばいいのか困っている。
そして今日という日はノブルと出会えた事のみならず、ノブルの第三ステージに突如現れた『部外者』といい、今コンタクトを取ってきた『四人目』といい……今日一日が僕の今までの人生全てよりも遥かにセンセーショナルじゃないか、等と考えては呆れたように笑う。
――上等だよ。より一層、覚悟もできるってもんだ。
「僕の名前は、コーリ。またあとでね」
最後にそう言って、C-02改めコーリは消えた。
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「おい!! お前、大丈夫かよ!!」
ノブルの声で我に返った。
コーリとやらは完全に目の前から消えている。
「……はは、大丈夫だよ、ちょっと考えごとしてただけ、それじゃ、行こうか……」
「お、おう……」
そんな額から滝のように汗流しといてちょっと考えごと、じゃねえだろ。
エラは心配するなと言わんばかりに先陣を切って目的地に向かって歩き始めた。
俺は一瞬戸惑ったが、あまりごちゃごちゃいってもまたエラをイライラさせかねないなと思ったのでノイにアイコンタクトを送り、エラについていく格好で歩き始める。
×
いくらほど歩いただろう。
実際の所今このステージを体験しているのは『頭の中』なワケで、それに気付いてしまうと歩いている距離や期間なんて、大した問題では無い。
ステージ内ではいくら体を使ったって疲れたような気こそすれど、実際に筋肉痛になるような物理的な疲労なんて感じないからだ。
強いて言うならぼーっと何でも考えていられる時間だ。二人にとってもきっとそうだろう。いや知らないけど。
…………あっ!! ってかそう言えば。重要っちゃあ重要な事で、すっかり見落としていた事があったわ。
「おい、ノイ?」
「ん? どしたの?」
ノイは不意に声をかけられて少しビクっとして、返事をした。
「お前さ、なんで参加してるワケ? これに。
俺は抽選で選ばれて参加が決まった段階でお前に言ったよな、こうこうこんな催しに招待されたから言ってくるわってよ。それ聞いてお前は凄いねとかお土産話待ってるとか言ってたと思うんだけどー……、実は参加するっての黙ってた感じ?」
「いや、あの、……ハハ……」
「え、なんだよそのリアクション、全然わかんないから」
「いやさ、それがアタシにも、なんで今参加してるかがわっかんないんだよねー……」
「は? なにそれどゆこと? なにお前記憶喪失にでもなったのかよ、ハハ」
「昨日普通にベッドで寝たとこまでは確かに覚えてるんだけど……気付いたら第一ステージが始まってて、正直今でも夢なんかじゃないかって思ってるくらいだよ」
「ええええなんだよそりゃあよ」
なんだかイマイチ的を射た答えが返ってこない事に少し苛立ちを覚えた所で、突然エラが口を開く。
「二人共、談笑の時間は一旦お預けだ」
突如エラの、普段よりも少しトーンを落とした声。
「え? ……え?」
そしてふと前に目をやると、さっきまで話に夢中になっていて気付かなかったが、前方に人が一人、俺らを通せんぼするような形で佇んでいた。
風貌は『ザ・インドの僧侶』と言った形で、丸刈り頭で袈裟を身に纏っている。
うーん。なんていうか、ここに来て普通の人すぎて正直リアクションに困った。
エラが溜息をついて、再度口を開く。
「次のミッションは骨が折れそうだよ」
「そうなの? この坊さんが相手?」
「そのようだね。この男の名前はラクタヴィージャ。先ほど倒したナーガと同じアスラでそのアスラ達の指揮官をしている男だ。とにかく厄介な相手だよ」
エラの話を聞いて、そのラクタヴィージャという名の男は口を開く。
「へぇ、あなたは随分物知りのようですね。いかにも、私の名前はラクタヴィージャです。
単刀直入に言いますと、シヴァにアムリタを渡されては困ります。故に、あなた方にはここで死んでもらいます。どうしてもここを通ると言うのなら、私にそれを阻止する事を諦めさせて御覧なさい」
丁寧なんだか偉そうなんだかよくわからない喋り方しやがる。
「ところで、こいつのどこが厄介なんだよ。どっから見ても普通のヒトに見えるけどな」
「見たらわかるよ」
そう言って、エラはラクタヴィージャに向かって手をかざす。
すると、手の周りの空間は空気を含んだ全ての物が取り除かれる。そうして真空状態を作った。
その間ラクタヴィージャはその様子をただ見ている――余裕の表情を浮かべて。
そしてエラはそのかざした手をそのままラクタヴィージャに向かって払って見せる。
すると次の瞬間、先ほど作りだした真空がラクタヴィージャに向かって物凄いスピードで移動し、ラクタビージャの体を切り裂いた。
「ガフッ!」
ラクタヴィージャはうめき声を上げ、そのまま大量の血を流し倒れた。
え? あっけなく倒れてるけど? これ確実に死ぬよな?
「相変わらず天才すぎるだろエラは。さすがにこんなのくらったら生きてらんねー・・・」
「待って! よく見てるんだよ」
エラが声を荒げる。なんだってんだよ。
しぶしぶ再度、じきに死ぬであろうラクタヴィージャの方を見る。
すると信じられない光景が目に飛び込んできた。
既にラクタヴィージャ自身は死にぞこないの状態で筋肉が大きく痙攣を起こしている。
ただそのラクタヴィージャの体から流れている大量の血が、蠢いているのだ。まるで独自の生命活動をしているかのように。
おい……なんだよあれ、きもちわる……
やつの血液はグニグニとどんどん激しく蠢き、次第に人のシルエットを模った。
そうしてラクタヴィージャの死骸から流れる血液から、二人のラクタヴィージャが出現した。
「なんだよこいつはよ……」
そこで、例のピンポーンという音が聞こえてきた。
「みなさんごきげんいかがでございましょうか。それでは、第三のミッションをお伝えさせていただきます。
目の前の男、ラクタヴィージャの言う通り、彼の通せんぼを諦めさせさせてください。
ただ、既にご覧いただいている通り、ラクタヴィージャは自身の血液からいくらでも増殖し完全に消滅する事はありません。
ですので、彼に通せんぼを諦めさせる条件を、彼の『一万体の討伐』とさせていただきます。
血液から蘇り続けるラクタヴィージャを一万体殲滅した時点でラクタヴィージャが手を引き、ミッションクリアーとなります。
……そして一点ルールを追加します。
ラクタヴィージャ討伐中、途中から常にアムとリタいずれかの脳力が強制的にあなた方の意識に付帯されます。それをうまく有効活用して、ミッションクリアを目指してください』
そうして時間が元通り進み始める。
一万体って、今目の前にいる時点で全部で三人だろ? ……エラの言う通り、こいつは骨が折れそうだ。
それになんだよ、その追加のルールっていうのはよ。作り雑じゃねえか?
頭の中でそんな悪態をつきつつも、意識の変容が今から起こるであろうという事に、俺は今までの経験を通じて条件反射的にワクワクを隠しきれなくなっていた。
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