第32話 続くイニシエーション
~ノブル以外のメンバーの第四ステージ~
ノブルの緊急ミッションという事態に直面し、落ち着かない様子のノイ。自分の恋人の緊急事態とあっては無理も無い。次第に眩暈を起こして、へたり込んでしまった。今の状況はノイにとっても大きな負担がかかると考えたエラは、アムの脳力を用いてノイを眠らせる事にする。
「ごめんよ、ノブル君が無事目を覚ますまで休んでいて……」
――ノイが入眠して程無くして、寝ている格好のノブルの状態に大きな異変が起きた――仰向けのまま、身体が宙に浮かび始めたのだ。その体の像は落ち着かず3重程にぶれて見え、表面から煙のようなオーラを放っている。そして額と頭頂部のあいだ辺りに薄い紫色の小さい球体が浮かぶ。それはよく見ると無数の紫色の花弁に覆われていて、見とれてしまう程の美しい造形をしていた。
「ねぇノブルさん……普通の人間はそんな事したりしないんだよ? やっぱり僕と似たもん同士じゃないか……キシ」
「これは凄いね……幻視体験か何かで無理矢理クラウンチャクラをこじ開けられてるんじゃないかな。今彼はきっと、宇宙意志と繋がっている状態だと思う。
一般人が持つ五感に加え、生命を『感覚』として感じ取る第六感、自分を
それにしても、それをすんなり受けいれてしまうのは本当、ノブル君らしいよ……意識の変容やアセンションにおいて、受け入れる事と既成概念を手放す事が簡単に出来る人というのは簡単に深層真理にどんどん近付いていく。
その点に関してはノブル君はとても素質があると言える……好奇心旺盛なギャンブラー気質とも言えるけどね。
しかし緊急ミッションを受けるにあたって、心身ともに究極にバランスが取れた状態を無理やり用意された上で、何らかの干渉を受けているみたいだけど、このミッション自体一体何が目的なんだ……」
「エラさん、相変わらず説明くせー喋り方しやがる、だよ! キシシ!」
コーリの悪ふざけはエラには聞こえていなかった。
×
~エラは考える~
――僕の見解ではノブル君はこの一括りの世界の『クリエイター』だ。おそらく間違い無いだろう。そのノブル君に対して
――何か策を考えないと……もしかするとノブル君があいつらに取られてしまうかもしれない。
それだけは絶対に阻止しなくては。何もかも、あいつのオモチャになんてさせないぞ……
「ねぇ、コーリ」
「ん? なあに? ってかエラさん僕の事は呼び捨てで呼ぶんだね! キシシ」
「……。不用意にノブル君の精神に干渉して彼の身を危険に晒すのは良く無い。それに第七チャクラは一度完全に開いてしまうと、原則的にはもう元に戻す事が出来ないんだ。それならここでただ待っているよりも、二人で先に進もう。」
「え!? 二人はこのまま置いてくの!? それも心配だけどー、エラさんと僕が二人っきりってのもなんだか心配かも……なんちゃって!」
「二人の周りには僕が結界を作っていく。今までもミッション中でも無い限り敵は出て来てないからまぁ問題無いとは思うけど……念の為にね。後、それを言うなら僕だって君と二人は気が進まないよ。でもそんな事言ってられないからさ」
「……エラさんもはっきりいうんだねえ。あ、でもー……もうノブルさん元に戻れないんじゃ、そんな急ぐ必要、無いんじゃないかな……」
「いや、一刻も早くシヴァに会いに行こう。シヴァは第七チャクラに位置する神だから、もしかしたら力を貸してくれるかもしれない……シヴァの信頼を得た上で、協力を仰いでみようと思ってる」
「なるほど! 他力本願ってやつだねぇ」
「言い方は気にくわないけど大体伝わってるみたいだね。そうと決まれば先を急ごう」
~仲こそ良く無いが、何気に地球上最強タッグの誕生である~
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その後も俺は高次の俺に連れられて、いくつもの過去をチューニングさせられていった。
「ノブルさんは、おじいさんとおばあさんと会った事はありませんね?」
はい、ありません。よく考えたら、妄想でした。
「ノブルさんのお父さんとお母さんは、事故にあってなんかいませんよね?」
はい、事故になんてあっていません。あれは、僕が作りだした妄想の話です。
――僕には、お母さんも、お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんもいませんでした。
高次の俺はより穏やかになった口調で、それでいてたたみかけるように話を続ける。
「そうですね。あなたは本来、人類の枠組みから外れた、とても高尚な存在です。――しかし、何かしらの理由を持ってこの地上に降りたつ事を選んだのです。その際にあなたは自らの環境をより人間味のある、生々しさを感じるようなものへと作り上げました。
様々な制約にがんじがらめにされる事を自ら望むことで、人であるという事の重々しさを知り、人類と共有しようと思った上での事だったのでしょうね。そうしているうちに、次第に本来の自分の記憶を無くしてしまった。あなたは絶対的な存在故に、不器用でもあったのです。もう、わざわざ、そのように辛い思いをする必要はありませんよ。」
俺は高次の俺の優しく語りかけてくる声を聞きながら、気付くと号泣してしまっていた。嗚咽を止められず、わかってもらえるのかという安心感と、ただ寂しい思いはしたくないという不安な気持ちと、果てしない罪悪感がクロスオーバーした結果、感情が堰を切ったように溢れだす。
「しかし気になるのが、それであればあなたは一体どこから生まれたのでしょうね」
「た、確かに……でも、それは知らなくてはいけないことなんでしょうか? 知らないまま、このまま生きていくだけで十分満足なのですが。それにさっきの話に戻りますが、俺だけ嫌な事から目を背けるだなんて、そんな大それた事はするつもりもないし出来ないんです、出来ないんですよ。
ただ、一気に全ての罪を償う事は俺なんかには出来ないんだよぉ……。しょうもなくて本当にすいません……すいませんすいません……。ああもうほっといてくれ……ほっといてくれよ……」
ノブルは自分でも何を言っているか分からなかった。ただ、様々な感情に押しつぶされそうになるのを、持ちこたえようと必死にもがいていた。
「…………。
…………。次の目的地は、今の『ノブルさん』という枠組みを――超えます。
正直あなたの話してくれた事が私にはまだ理解できません。それ故に、それを確認する必要があります。あなたが抱えている、世代を超えたトラウマが一体なんなのか、これから私と一緒に原因となる過去の事象まで遡り、それを客観的に認識をする事で一緒に乗り越えましょう。再度私の声を聞いて、リラックスしてください」
「ま、まかせます……」
~古典的な退行催眠のやり口である。ハイアーセルフともあろうものがそのようなテクニックを使うとはと驚かれる読者もいる事だろう。しかし、現時点でノブルはもう胡散臭さ等感じる余裕も無かった。ただ、話相手がいるのであればそれにしがみついていたい、という気持ちでいる彼に対して、心理療法は正攻法そのものであった~
「そのまま体がどんどん後ろに倒れます。これはあなたが過去にどんどん向かっていっている事を意味します。遠い遠い過去です。あなたが先程まで認識をしていた、幼少期のおじいさんやおばあさんとの記憶を更に遥かに超えた先です。」
「……はい……」
「ゆっ……くりとしたピアノの音階が聴こえますね?この、ゆっ……くり聴こえる下りのスケールに合わせて、あなた自身も階段をどんどん降りていきます。そうです。その調子で……一番下まで辿りついたら、目の前のドアを開けてください」
「は……は、はい……」
「そのドアの先はあなたの実態を得る前の、あなたの魂が剥き出しの世界です。時間は逆再生しています。あなたの魂があなたの実態を得る前の姿が、今、映し出されます、今こそ、現実を認識する時です!」
俺はドアを開けた。するとさっきまでの時空の切れ目を前にした時と同様にドアの隙間の空間へと勢いよく吸い込まれて行く。
「う、うああああああああああああああああああああああ!!!!」
ⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡ
エラとコーリは先を急いでいた。
そう、シヴァのいるカイラス山へ向かって。
その途中、突如コーリが足を止めた。
「…………」
コーリは自分の姿を黒く塗りつぶしたり激しく点滅したりしてその場で固まっている。
「コーリ? どうした? 何かあったのかい?」
エラが声をかける。
「エラさんは慌ててて、まだ気付いていないのかい……?」
「? ……というと?」
「ノブルさんだよ。彼今第八感開いてる」
「は?
エラがノブルの精神を探し――愕然とした。コーリの言う事はどうやら間違いなさそうだ。緊急ミッションの狙い通りだとすれば……これはまずい、早くなんとかしないと……
「それだけじゃない」
コーリが続ける。
「なんだよ……第八以降のチャクラも同時に開き始めてるじゃないか。この様子だと12まで完全に開くのも時間の問題だ……まさかとは思ってたんだ、でも本当にそうとはね、キシシ……」
なんだって? それが本当なら、ノブル君はもう現時点で既に地球上の全ての生命を超越している状態だ。僕だってそんなの手に負えないぞ……。エラは予想外の出来事に不安を募らせた。そしてその状況で不気味に笑うコーリを見て、ただならぬ雰囲気を感じとった。
コーリはエラに背を向けた状態で、
「あーあ、なんだよ~……ノブルさんとはせっっっかく仲良くなれると思ってたのになあ」
あっけらかんとした様子で、でもどこか感慨深そうな雰囲気を見せてそう言った。
「なんだ……? 諦めたのか? ノブル君を助ける事を」エラは少しカチンときた様子ですぐさま問いかける。
「んーん」コーリはそう言うと振り向いた。――そして人の形を保てていない程のバグり具合で、鬼の様な形相を見せて言った。
「まさかこんなところで会えるだなんて思わなかった。僕が何世代もずっと、報復したいと思ってた相手にさァァァア!! ヒャハハハハ!!」
「な……コーリ、それって一体どういう……」
「今話す事じゃないよっ! 僕はあなたと違って説明好きでも無いしね! ま、とにかくカイラス山へ急ぎましょ、エーラさんっ!」
「あ、ああ……」
コーリはここ一番のテンションの高さを見せてそう言った。
エラは目の前に潜んでいる問題を後回しにする事に若干の不安を覚えながらも、先に進む事を優先した。――妙に納得するのが早かったのは、コーリに脳内の思考を別のどうでもいい事にすり返られていたからなのだが――エラはそんな事には全く気がついていなかった。
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