第6話 卵が立ったのも超脳力でした

 ~ノブルのステージ3に話を戻そう~



 電動鉛筆削りの回転に連動し、勢いよく放射上に伸びる七色の世界に飲み込まれて俺の精神は肉体と解離した。

 いや、正確にはジャングルで目が覚めた時にはすでにそうだったみたいなんだけどさ。



 頭の中? から声が聞こえる。

「おい! まだ始まったばっかだよ? ちょっと酔っ払って、キツめのデジャブ体感したくらいで何フラフラしてんだよ!」


 おま、随分でかい口聞くな。はは。


「おうおう、でもさっきのはデジャブなんてもんじゃねーぞ。次に何が起こるのか、視界の及ばないところまではっきり把握できたんだよ。ピザ屋がエレベーターを上がんのが体感できたしよ、何だあれ、夢だからか?」


「デジャブって元々はそういうもんだよ。既視感って言って、一般的には今起きていることが過去に体験したような気がするって事象で認識されてるけど、デジャブの真髄は時空を超えた記憶の構成、認知、自他の共有、共感なんだ。よく阿吽の呼吸、なんて言うでしょ? あれもそう、お互いのイメージが未来から降りてきてるんだよ。

――ま、その降りてくる対象、要はイメージを受け取った本人がしっかりとそれを知覚できる事が前提なんだけどね。気のせいで終わってしまう事も多くて、それだと意味がないんだ。

巷でいう一般的なデジャブに関しては、その以前に知覚した記憶を体験することで改めて思い出すって感じで言ったらしっくりくるかな。一度も忘れずに覚えていられたりとか、体験した際に違和感無く受け入れられる人間はほんの一握りもいないんだよ。

……そんでデジャブの真髄の話に戻るけど、コロンブスがアメリカ大陸を発見できたのも、デジャブで彼は以前に脳内で発見していたからなんだ。それも、もの凄い程のイメージでね。

だからアメリカ大陸は彼が見つけるまで誰にも見つけられなかったんだ。

そりゃあそうだよ、だってコロンブスが『現実世界で発見』するまで『存在すらしなかった』んだもん。

時が来てアメリカ大陸の存在が現実に現れると共に、コロンブスが自ら発見した。

まぁ、そんなことが出来るのは神様だ英雄だなんて信仰される程の人らだけなんだけどね」



 はぁ?

「な……ナナ、いきなりべらべら喋りはじめて、お前どうしたんだよ。何ゆってっか全然わかんねえよ」



「でも君はこのステージでそのレベルまで追いつかなきゃいけないんだよ。君に着いた私には、うっすらではあるけどこの先のビジョンが見えてしまってね。

――大丈夫、私がサポートするって言ったでしょ? 深層心理の二階層下まで連れていくまでが私の役目。さて、そろそろ俺君の精神世界に戻りますよー!」


「ハァァァアア!? ってかさっきから一方的にしゃべってんじゃねえっつーの!」



 ――なんて悪態をつきつつも、俺は不安とほんの少しの良く分からない安心感に包まれながら、俺の精神とやらに戻っていく感覚を味わっていった。

 しっかし、これが俺の精神なのか。

 随分無機質で寂しいんだなァ。



   ×



 ひゅーんと居心地のいい感覚に吸い込まれて行く感覚からはっと気づくと、

 今度は自分の部屋の天井に大の字でベッタリと張り付いていた。

「わああああなんだこれはよォォォォオ!?」

 しかもまた部屋かよ!!


 必死に手を伸ばしたり足を地面に思いっきり向けてみても体が天井から剥がれてくれない。

「クソ!! こんなんどうしろっていうんだよォ!」


 そんなことを喚きながらもがき続け5分ほど経った所で、ふと部屋の違和感に気付いた。


「へっ?」

 ……おいおい、笑わせんなよ。

 天井に張り付いてなんかいなかった。

 普通にベッドに仰向けに横たわっていただけだった。

 天井見てるのに、自分が天井にくっついてると思ってたとかどんだけ!?

 そんな俺の姿を見て、目の前でナナが笑い転げていた。

 マジ恥ずかしいんですけど!


「わかってたら言えよ馬鹿!!」

「ごめんごめん、あんまりにもおっかしくてさぁ」


 俺は体を起こし、ベッドに腰掛けた。

 ため息をつく。


「いつになったらこの部屋から出られんだか……」

「大丈夫、準備できたらもう出るよ。取り敢えず、コップのお茶でも飲んで落ち着いて」


 おお、気が利くじゃねえか。

 そう思いながらテーブルの上のコップに手を伸ばした。

 すると、目の前で俺の手を嫌がるように、スススとコップが滑るようによけていく。


 ――ハァァァァァアア!?

 つかもうとしても逃げる、逃げる。

 ああイライラする!!

 ハッとナナの方を見る。

 ナナはニヤニヤだかニコニコだかよくわかんねー表情で俺の様子を見ていた。


「時間が無いから遊びも程々に。これはテレキネシス。物体にこっちからイメージでエネルギーを送って移動させてるんだ。ほら、手で引き寄せるイメージを、そのままコップに向けてごらん?」


 出た、またとんでも発言だ。

 そんなこと出来る訳ねえじゃねえかよ。

 俺は半分呆れていた。


 ――すると、突然頭の中から声が聞こえた。


「待ってるのも退屈だからちょっとテコ入れするよ。早く思い出して。因果律をぶっちぎれ。自由意思を解放するんだ」


 ――ドクン


 気付くと、俺は右手にコップを持っていた。


「……お?」

「……あ、ああ凄いじゃん! そんなにすぐできると思わなかったよ! うんもうわかってるとは思うけど、このパワーは因果律、そう全てのものに対する『原因』を何にも縛られない自由意思をもってして否定することで可能にするんだよねぇ!!」


 俺よりびっくりした様子で、ナナはなんかてんぱって一生懸命喋ってた。


 ウケる。

 ハアアア!

 さっきとは打って変わって、とっても清々しい気分だ。俺はコップのお茶を一気飲みした。

 あぁ、お茶が食道を通り抜ける感覚が気持ちよすぎてもうなんかなってるわ。



「よーし出かけんぞ。今なら空も飛べそうだぜ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る