第5話 味わえ、神の肉
俺はグチャグチャになりながら、なんだよ。はなっから、俺がたべられたんじゃねーかよォ……。
――なんて、自室のベッドに腰かけて頭を抱えて考えていた。
……ん? ……ハァア!?
おい。
なんだよこれは。
俺んちじゃねーか。
そんなわけがねえ。
待て、待て、落ち着いて思い出せ。
俺はSPACEBABY MEDITATION? だかって超体験のモニターに抽選で選ばれて……そんで?
変な夢ばっかり見せられて、ジャングルで腹が減って――女の子を、食べた……?
おいおいなに言ってんだよ、俺。大丈夫か?
チリチリチリチリチリチリチリチリ
――なんて思ってた所に、急激な吐き気が襲ってきた!
ングァッ!!
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪いつらい。気持ち悪い助けて。
さらさらの唾を何度も飲み込みながら、登ってくる嘔吐感を必死に抑えた。
おかげで顔は汗でびっしょり。
そんなことをどれだけ続けていただろう。
いきなり頭の中から、聞き覚えのある女の声が聞こえた。
「おーい、大丈夫? ずいぶん通過儀礼に苦しんでるみたいだねぇ」
……ナナ? ふざけやがって。通過儀礼ってなんだよ……?
「私の恩恵を受けるためには脳幹、嘔吐中枢のすぐそばを通り抜けたその先の脳関門まで辿りつかないといけないんだ。俺君は我慢できてるだけ、随分ましだと思うよー、後少し、頑張って。」
んだよ、
他人事だと思ってよォ。
「まあそうカリカリしなさんな。
ほら、もうすぐ来るよ。リラックスして腹式呼吸して。
私がサポートしてあげるから、俺君の内側に潜んでる、深海よりも真っ暗で、それでいて最高に神秘的で、最高にメガロマニアックな宇宙旅行へ、出発進行!!」
「い、意味わかんねーから」
俺は完全にナナに手を引っ張られながら、気づいたら、ベッドの上に腰かけてる状態で必死に腹式呼吸を繰り返していた。
ん?
……っておい!!! だから俺の家じゃねえんだって!! なんでまたここにいんだよ!!
……いや、待てよ……?
なんかおかしい。
テレビは、昨年地デジ対応の液晶に買い替えたはずだ。そもそもこのベッドも腰痛もちの俺には合わなくて、思いきってつい最近買い替えてる。
なのに、変わってねえんだよ。なんだよこれ。
おっと、さっき頼んだピザ屋が今エレベーターを上がってきているな。金を用意して、鍵を開けといてやろう。
そんなことを思いながら、玄関に向かっていく自分の後ろ姿をベッドに腰かけてボーッと眺めていた。
ん? ……っておい!!!
だから俺の家じゃねえんだって! なんでまたここにいんだよ!!
……いや、待てよ? これはさっき思ったぞ…?
あっ、ヤバイもうすぐピザ屋がエレベーターを降りるぞ。金を用意しないと……。
……なんだこれ。訳わかんねえぞ。これじゃデジタル放送見れねえじゃねえかよ。
いや、違うんだよ。そこじゃねえ。そこじゃねえんだよ。
あっ! あっ、あっあっやば……あっ
んぐァッ!!
――ハッと机に目をやった。……なんだよ。
机の上の電動鉛筆削りが踊ってら。傑作だ。
俺は笑い転げた。こうしてみると、お前ってセクシーなんだなぁ。あはは。なんだかちょっとだけ興奮してきた。
ほれ、鉛筆挿れてやるよ。お前好きだろ? 知ってるぞ? あはははは。
俺はワクワクしながら鉛筆の挿入口へと鉛筆を差し込んだ。すると、鉛筆削りは勢いよく差し込まれた鉛筆を飲み込み、そして鉛筆削りの回転とリンクして、世界がものすごい勢いで七色に回りはじめる。
「わああああああすげえうれしいいいいあああアアッ!!!」
気付くと俺も、その七色の渦の一部になっていた。世界が全て、その七色に収束していくような一体感。そうして俺の精神は持って行かれ、俺の肉体から解離した。
×
時を同じくして。
じじじじじじじじじじじじじじじじじ
~B-01のステージ3~
「よし、挑戦者がログインしたみたいだな」
ステージ3は全員ある程度共通のビジョンを見る設定になっている。
その設定とは、アステカ族に神の肉と呼ばれる『テオナナカトル』と呼ばれる強い幻覚作用のあるキノコを題材とした超神秘体験を通じて深層真理の更に奥、世界(人間が脳で認知し得る全て)を体感し、真の自分の存在意義の認知及び、イメージの領域の拡大(現実世界へ実際に影響を及ぼすレベル、イメージに対する概念の昇華)を目的としている点だ。
様々な体験から、被験者が脳力に関する一定レベルの経験値を得ることがクリアーの条件となっている。
「あれ~? ログインしたはずなのに、脳波のチャネルが見当たらないなぁ。まだこの空間に定着してないのかな? もう少し待ってみるかぁ。」
と手持ち無沙汰に考えていたナナ。しかしその次の瞬間、全身が凍る。
「んで、ここではどうしたらいいワケ?」
「!?」
……挑戦者だ。いつのまにか、あたしの後ろにいた。嘘でしょ? チャネルは立ってない。
ナナは全身の毛穴という毛穴が開く感覚をゆっくり、じっくりと味あわされていた。
え……どういう事? 今だって、彼のチャネルはどこにも見当たらない。今この世界に存在する精神はあたし達以外彼しかないはずなのに。波一つ見当たらない……彼は一体何者?
私はどうすればいい? 普通に挑戦者に対する接し方をするべき? それとも今すぐ自分の身を守るべきなの? どうしよう頭が回らない……。
得体のしれないものに対する恐怖心がナナの思考及び行動を抑制する。
「おー凄いねぇ、キミ、キノコなんだよね? 随分賢いんだね~感心したよ。でも色々考えたって答えなんて出ないでしょう」
B-01が悪びれることなくさらっとかけた一言に、ナナは溜息をつき苦笑いを浮かべる。
――そっか。私の思考までお見通しなんだ……。ナナはB-01の右足の貧乏ゆすりの音を聞きながら愕然とした。
そしてその貧乏揺すりを止めることなく彼は続ける。
「ちょっと今回の計画を聞いだけでもじっとしてらんないのにさあ、スッゴく魅力的なコが『たまたま』参加する、何て言われたら運命感じずにはいらんないよね。僕が人間かどうか、そもそも僕に実態があるかないか、この世界に適合してるかどうか、そう、僕に対する他からの概念なんて、どうでもいいんだよ。ほら、今僕が息をしているんだから。そうでしょう?」
そう言ってB-01は微笑むと、右足の貧乏揺すりを続けたまま右手を上げ、手のひらを大きく開いた。
「!!! やめて!!! 私は今までたくさんの人の魂を救ってきたんだよ!? たくさんの思いを昇華させてきたんだよ!? だからお願い消さないで!!!」
「はは、キノコも概念にしばられるのかぁ。ま、それならそれで君も今までの行いを誇りに、今日僕に消される事を本望だと思いなよ! ばばい。」
B-01は開いた手のひらを一気に握りしめた。その瞬間に世界が破裂した。
壊れきるまでにどれだけの年月がかかるだろうか。彼がそんなことを他人事ながらに考えている内に、 ジリリとでかいベルの音が鳴り響いた。
ガイダンスロボがアホっぽく大声を出す。
「第三ステージクリアオメデトウゴザイマス! あなたは今回の最速クリアプレイヤーです! 第四ステージの開始までゆっくりオヤスミクダサイ!!」
はは、頼むからこんなとこでつまづかないでくれな。この僕の短い現世を充実させておくれ。
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