第14話 母さんの施し

 え??? ドッ……ってなんだ? 何かがぶつかって来たような衝撃が走った。


 ん??? 今のはなんだ? 今自分に起きている事に対して理解が全く及ばない。とりあえず目から入る情報を基にすると、俺の古い記憶と全く変わらない母さんが目の前にいる事と、自分の胸元に鈍い光沢を放つ金属が奥深くまで進入しているということ。


 それを認識した途端、ぶわっと胸のあたりが熱くなる。そこから大分時間差で、母さんがさっきまで台所で使用していた包丁で思い切り胸を刺されていることに気付いた。刺さっている周りの筋肉が緊張し、一生懸命に包丁を捕まえようとしている。



 母さん、これは一体なんだ?

 母さん、何をしているんだ?


「あんたさっきからずっと欲しがってたでしょ、これを。」


 ――え?

 ちょっと待て。これはおかしいぞ。アマニタ? これもお前が見せてるタチの悪いまやかしだろ? さっきまでみたいに、早くこれがどういう意味なのか解説してくれよ。早く。早く!!


 気が動転した俺は過呼吸になり、声が出せない。胸のあたりがじわじわと、どんどん熱くなってくる。それと引きかえに、あっという間に手の平は手汗でびっしょりと濡れていて、その汗が手先の体温をどんどんと奪っていく。


 ズズッ……

 母さんは何も言わずに僕の胸元から包丁を引き抜いた。

「ンおォ……ッ!」

 痛みのあまり俺は自分でもなんて言ったのかわからない、情けない声を上げていた。



 そして母さんはそのまま肘を可動範囲のギリギリまで引いて、

 手に持った包丁を俺に再度突き刺した。



 ドッ


 ドッ


 ドッドッ


 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッグチャッグチャグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャグチャグチャグチャグチャグチャッグチャグチャグチャ……ッ


 俺の胸は母さんの持つ包丁によって数え切れないほど突き刺され、原型をとどめない程にひどくえぐられていった。

 母さんの手が止まる頃には、なぜか俺の胸にはとても大きな、綺麗な真っ赤な薔薇の花が咲いていた。


「うわァ、さすが母さん、やっぱり料理上手だなぁ」

 力を失っただらしない顔で、俺はぼけっとそんな事を考えてた。


「私が出来る事は、したからね」

 今のは母さんの声か? よくわかんねえけど……

 ――俺は死んだ。



 ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ



「お~い、ご飯出来たから皿の準備おねが~い!」


 ………………………。

 ……ハッ。

 聞き覚えのある声が聞こえる。

 俺は声のする方へ向かった。


 向かった先、台所にいたのは、変わらない母さんの姿だった。


「ほら何ボケっとしてんのさ、もうご飯出来たから早く準備して」


 まぎれも無く母さんだ。

 なんで?

 気持ちの整理はつかないけれど、とにかく何か話さなくては。

 俺は空気を読まずに話し始める。


「はは、久し振り。母さん俺はもう、子供じゃねえんだよ。にしても母さんはやっぱり全く変わってな……」


 ドッ


 ん?


 ……………………。

 …………………………………………。

 …………………………………………え???


 何かがぶつかって来たような衝撃が走った。


 ん??? 今のはなんだ? 今自分に起きている事に対して理解が全く及ばない。


 とりあえず目から入る情報を基にすると、俺の古い記憶と全く変わらない母さんが目の前にいる事と、自分の胸元に鈍い光沢を放つ金属が奥深くまで進入しているということ。


 それを認識した途端、ぶわっと胸のあたりが熱くなる。そこから大分時間差で、母さんがさっきまで台所で使用していた包丁で思い切り胸を刺されていることに気付いた。刺さっている周りの筋肉が緊張し、一生懸命に包丁を捕まえようとしている。この後引き抜かれるのを必死に防ごうと。


 母さん、これは一体なんだ?

 母さん、何をしているんだ?


「あんたさっきからずっと欲しがってたでしょ、これを」


 え?


 ちょっと待て。これはおかしいぞ。

 アマニタ? これもお前が見せてるタチの悪いまやかしだろ? さっきまでみたいに、早くこれがどういう意味なのか解説してくれよ。早く。早く!!


 気が動転した俺は過呼吸になり、声が出せない。胸のあたりがじわじわと、どんどん熱くなってくる。それと引きかえに、あっという間に手の平は手汗でびっしょりと濡れていて、その汗が手先の体温をどんどんと奪っていく。



 ズズッ……

 母さんは何も言わずに俺の胸元から包丁を引き抜いた。

「ンおォ……ッ!」

 痛みのあまり俺は自分でもなんて言ったのかわからない、情け無い声を上げていた。


 そして母さんはそのまま肘を可動範囲のギリギリまで引いて、手に持った包丁を俺に再度突き刺した。



 ドッ


 ドッ


 ドッドッ


 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッグチャッグチャグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャグチャグチャグチャグチャグチャッグチャグチャグチャ……ッ


 俺の胸は母さんの持つ包丁によって数え切れないほど突き刺され、原型をとどめない程にひどくえぐられていった。

 母さんの手が止まる頃には、なぜか俺の胸に綺麗な真っ赤な薔薇の花が咲いていた。


 うわァ、さすが母さん、料理上手だなぁ。今日は活け作りってかァ。

 力を失っただらしない顔で、俺はぼけっとそんな事を考えてた。


「私が出来る事は、したからね」


 気付いたんだが、今にも俺、死にそうだわ……。

 駄目だ……そうだ、タイムリープっていったか? こうなる前に戻らな…



 ――俺は死んだ。


 ハァ?




 ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ




「お~い、ご飯出来たから皿の準備おねが~い!」


 ……………………………………。

 ……ハッ。タイムリープした? これは過去だ。


 おい。

 これは違うぞ。

 タイムリープで戻った過去じゃない。

 過去に飛ぶ前に俺は死んだ。俺は失敗した。

 これはさっきも自動的に戻った地点だ。

 何故だ? 一体どういうことなんだ……


 気付くと母さんが懐疑的な表情で俺見ていた。


「おい、なにボケっとしてんのさ。飯の支度だぞ~ちゃんと手伝いなさい」


 はは、なんだよ。

 どうしろって言うんだよ。

 その包丁は台所から持ち出すもんじゃねェダロォオオオ!


 ドッ


 ……やっぱ?

 何かがぶつかって来たような衝撃が走った。

 この後俺が滅多刺しにされて俺は息絶えると言う事を俺は知っている。

 何故ならもうすでに二回体験しているからだ。

 それはいいとして、何故俺はこの体験を繰り返しているのか。

 アマニタ。いるんじゃないのか。


 ドッドッドッドッドッドッドッドッ


 俺、全然わかりそうにないから、わりい、ヒントくれ。


 ドッドッ


 頼む。


 グチャッビチャッ


 お願いだ。


 チャッグチャッ


 こんなのあんまりだよ。頼むよ。


「……ダセえナ、おまエ」

 アマニタの声が俺の鼓膜を震わせると共に、空間が歪む。


 ギイイイイイイィイイイィィィィィイインッ――――――


 久し振りに聞いた気がする、不快なそのアマニタの声とともに俺の時間は恐ろしくゆっくりになった。

「俺だっテ何回もこの空間止めらんねえゾ。じゃア、よく聞けヨ」

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