第29話 ハイアーノブルがあ ら わ れ た ! 

 ~少し時間は巻き戻り~


 ラクタヴィージャ討伐ミッションをクリアーした一行。

 最後に思わぬ奇襲を受けたが、突如現れた被験者の一人コーリのお陰でこと無きを得た。



 そして今、ノブルを除いた三人はノブルがミッション途中から眠ったまま目を覚まさないせいで、すっかり足止めを食らっていた。


「ノン君、起きて~起きてよ~出発するよ? もーいつまで寝てるの~?」


「完全に熟睡しているね。アムの脳力の効果はもう切れているはずなんだけど……まぁ長い間一人で戦わせちゃってたみたいだし、もう少し休ませてあげよっか。タイムリミットは特に無いみたいだしさ」


「僕は早くノブルさんとお友達になりたいな……早く起きないかなあ。この人はきっと、僕に似てるところがたくさんあると思うんだあ、キシシ」


「……絶対にないと思いますけど……」


 ノイが嫌そうにコーリの発言を否定すると同時に、景色の色は消え、ゆっくりと時間が止まっていく。


「え!?」

 ノイとエラは思わず声を上げた。コーリはまだ理解していないようでニヤニヤしたまんまでいる。


 ――例のロボットの声が聞こえてくる。

「みなさん、ご機嫌いかがでしょうか。突然ですがこれより、緊急ミッションの伝達をさせていただきます。今回緊急ミッションを受けるのは、今寝ている状態の彼一名のみになります。

彼にはこれから今この寝ている状態のまま、とても強い意識の変容を体験していただきます。

その体験から無事に生還し、目を覚ます事ができれば緊急ミッションクリアーとなります。

貴方がたはただ待ってていただいてもいいですし、彼の精神にコンタクトを取ろうとしていただいても構いません。

ただいくら物理的に刺激を与えた所で彼は絶対に目を覚ますことはありませんので、それだけは頭に入れておいてください。それではミッションスタートです」



 ロボの説明が終わると同時に、景色は色を取り戻し時間も元通りになる。


「え……緊急ミッションって何それ……ノン君大丈夫かな、もう始まってるのかな……」


「そんなもの聞いてないぞ……一体どうなってるんだ……」


「へええエラさんも知らないんだったら、ほんとに緊急も緊急なんだろうね! 組織の人間がノブルさんの何かに気付いたのかなぁ? 意外と鼻が利くみたいだねえ」


「なんだって?」


「え、なんだってって? ええと、エラさんも気付いてる事だよ。だからまだ基本的な脳力すらまともに使いこなせていないノブルさんにやたらと肩入れ、えこひいきしてるんでしょう? あなたってさ!」

 コーリはとても楽しそうな様子で、エラを挑発した。

「はぁ……?」

 エラは一瞬たじろいだ後に、イライラしている様子を見せる。

「なんだ君は? 馬鹿にするのもいい加減に……」

 エラがニヤニヤしているコーリに向かってそう言いかけたところ。

「もー……なによ二人して! ノン君がなんだっていうのよ!!」

 険悪なムードが一触即発となる前に、ほったらかしにされていたノイが割って入った。ノブルの事で知った口を聞かれているのが気に入らないといった様子だ。


「あっああ、ノイさんごめんなさい。なんていうかな、ノブルさんが特別魅力的な存在だっていうことを話してたんだよう」


「なにいってんの!? そんなの当たり前でしょ!?」


「…………」


「茶番はこの辺にして、ノブル君に何かサポート出来ることは無いか考えよう、でしょ? エラさん」


「ぐっ……そうだね、それが第一優先だよ」

 言おうと思ったことをそのまま言われたエラはそのまま言葉を押しつぶして同意した。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ノブルの前に突如降り立った、ノブルに瓜二つの存在。


「ちょ……なんだよこれ……嘘だろ?」

 間違い無く顔は俺だ。俺と全く同じ顔をしている。ただ――なんつう格好してるんだ、てめえはよ……。


 目の前のもう一人の俺はギリシャのイカロスよろしく大きな白い羽を背負っており、ピエロみたいな妙な格好をしていた。

 被っていたでかいシルクハットを外すやいなや、言葉も発さぬまま俺にこれ以上無いくらいの満面の笑みを見せる。一辺の曇りの無いその笑顔は、俺の目には比喩無しに光り輝いて見えた。


「な、なあ宇宙、これがその、俺の『ハイアーセルフ』ってやつなのかよ? だとしたらよ……ちょっと面白すぎやしねえかぶっははっおあっははははっ……」


 俺は喋っている途中から、目の前の俺の最高の笑顔につられて次第に顔がほころび、笑いが止まらなくなってしまった。


「あっはっはははは! あはははははははは!!! あはは、ははっはっはっは!! ひーっ、ひーっ!」

 なおも目の前の俺は笑顔を絶やす事は無い。フルスロットルの笑顔を向け続けている。笑顔の悪用だ。もはや暴力的まである。

 本当になんなんだこれは、幸せ過ぎて辛い。頼むから、その笑顔を一回しまってくれえええ!


 そこに宇宙の優しい声が響く。

「ノブルさん。もう、おわかりですね。目の前の存在こそが、あなたのハイアーセルフなのです」

 優しい声と笑顔のコントラスト。こうなるとなぜか宇宙の声まで面白く聞こえてくる。

「あはははははははっはっはっはははははは!!! あーっ!! やめてェーッ!! ヒーッヒッヒッヒヒヒヒ!!」


「ハイアーセルフとは、あなた自身の魂の『高次元』に位置する部分の事を指します。ノブルさんの住んでいる『地球』に生まれ落ちた全ての生命は、生まれ変わり死に変わり輪廻転生を繰り返しています。その度に前世とは全く違う人物として都度一生を過ごしますが、ハイアーセルフとはあなたの『魂』そのもの。何度生まれ変わっても永遠に変わらない『普遍』のあなたなのです」


「ククク……マジメか!! うはははは!! はーっはーっ……」

「あなたの真の、ありのままの姿なのです。」

「は、はは……へェ……」

 腹がよじれるくらいの笑いは、話を聞いているうちにだんだんと落ち着いていた。


「あなたは先程の光明真言のマントラをきっかけに第七のチャクラを開き、こうしてあなた自身のハイアーセルフに出会う事が出来ました。改めておめでとうございます。

これから先あなたはハイアーセルフの導きにより、今世に於ける間違った認識や過ち、過去の行いに対する悔い等を全て浄化していきます。究極の悟りを手に入れる為の、チューニングを行うのです。」


 宇宙の話を聞いているうちに段々と目の前の自分が物凄く尊い存在に見えてきた。


 あなたはどうしてそんなに曇り一つ無い笑顔を、こんなボクに向け続けてくれるのですか……俺はボケっと口を開けたまま、感動のあまり思わず涙を流す。


「さあ、ハイアーセルフの導きのままに……お行きなさい」


 宇宙がそう言うと、目の前の俺が俺に向かって手を差し伸べてきた。



 そしてとても優しい声で言った。


「会えて嬉しい。私の輪廻はどうやら、今回で最後になるようだね。さあ、一緒に訂正しに行こう。」


 俺はその声を聞いたあまりの衝撃に、意図せず思考が口からこぼれだした。


「え……おま、なにその喋り方キモ……」


 そうして俺は、目の前の俺に差し伸ばされた手に触れると一瞬空間が歪み、その時空のひずみに二人して一瞬にして吸い込まれていった。

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