第40話 エピローグ ~Air on ASC~

「やぁ、諸君。ご機嫌よう」


 突然響く男の声。

 それは少し耳に障る、わざとらしく気取ったようなトーン。


「どうだったかね、このセカイの終焉は。個人的には想像していた以上にドラマチックで、本当に感動したよ。この瞬間の為に生きてきて、そして重大な役目を担ったという事は私の誇りだね」


 その声の主である、タイトなスーツに身を包んだ男は得意気に話を続ける。


「コーリ君の行いはエゴでいて、その反面素晴らしく尊く、正に終焉に相応しいドラマを演出していたね。彼こそ『その世界の神』として、そして『人間』としてともに素晴らしい選択をした偉大な人物だったと言えるだろう。


――しかし、だ。

彼には一つだけ、計算の及ばない所があったようだねぇ?」


 男は会話と仕草に鬱陶しいまでの緩急をつけながら続けた。


「宇宙の進行に対して、それ以上のパワーをぶつければいい、と彼は考え、それを実行した。だが実はそれが、間違いだったんだよ。

宇宙を完全に終わらせるには、丁度ピッタリ『0』になるように力を加えなくてはならなかったんだ。実際それ以上の力を加えられた宇宙は一体どうなったのか。



――それはだ。

素粒子一つ分まで縮まり消え去った宇宙というゼロは次第にくすぶり始め、『ビッグバウンス』を起こしたんだよ。反動による、宇宙の再膨張だ。


それも縮まる時よりも、更に加速度を上げてね」


 男は顎を少し上げて、勢いよく両手を左右に広げ胸を張った。

 ――そうして彼のテンションは最高潮に達する!


「そう!! そうしてセカイは再構築された!! それも終焉を迎えた以前のセカイよりも更なる未来に進んだ状態に、もう既に足を踏み入れている状態だ!

セカイは一つの時代に過ぎなかったのだ! そうして新たな構築者を携えて、セカイは歩を進める――


いいモノを見せてもらったよ。ありがとう、諸君」






 とととととととととととととととととと





「ノイー! いつまで寝てるのー! 今日から学校でしょー!」

「……今起きるよー」

 その少女は気だるそうに体を起こす。

「ママの声はキンキン響くから朝から大声出さないで欲しいよ……」

「なにブツブツ言ってんのよ。今日から中学二年生でしょ、あんたもそろそろしっかりしなさいよね」

「……はいはい」

「はいは一回!」

「はああああああい」


 01000010001111100011110000


「ノイちゃん、おはよう」

「あっエラ君! それにコーリもおはよー!」

「……おはよ……」

「コーリ始業式から元気無いねぇ、も少しシャキッとしなよ」

「えっ……今日くらいシャキッとしようと思って家でたんだけどな……キシシ」

「あはは、コーリらしいや。それにしてもソメイヨシノの花が綺麗だね。

このソメイヨシノって、ほぼ全ての個体が同じ遺伝子によって作られたクローンなんだってね?」

「いや、わかんない……ってか普通の中学生はそんな事知らないと思います……」

「うんうん。しっかし、エラ君は昔っから説明くさいよね……キシシ」

「昔っからって、コーリあんたいくつなのさ……」

「――あれ? ……確かに変だね、シシッ!」


 キーンコーンカーンコーン


「今日から、新しく我が校の生徒になる転入生を紹介する」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「女子? 女子?」

「男子だ」

「んだよおおおおおおお」

「じゃあさっそく紹介しよう。佐田、入っていいぞ」


「あ、あいー」



 ガラガラッ――



「あっ……」

「よし佐田、まずは自己紹介頼む」

「東京から来ました、佐田ノブルです……得意な脳力は幻視と念動力、よ、よろしく」

「幻視かよ! マニアック~!!」

「あははは!」

「お前らうるさいぞ、佐田はまだこの辺に慣れてないから、皆仲良くしてやれよ。さて佐田の席は……」






 ――――――ヒィンッ


「……おっと、よし、そしたら、新の隣に座れ」

「あい」


「よし佐田が席に着いたところで、今日はおしまい! 帰れ!」

「なんだよそれ~!」


 クラスがどっと笑いで溢れかえる。


「えーと、あ、あらたさんだよね、よろし……えっ」



 今日からクラスメイトで、今日から隣の席のその女子は、俺の顔を見ながら大粒の涙を零していた。

 俺の方も胸の辺りがぎゅうっと熱くなって、次第に涙が出そうになる。





 そしてそんな俺の表情を見て微笑んで――――――ノイは、言ったんだ。



「へへ……、こんなに早く会えちゃったね。







         ただいま、ノン君」





              おしまい

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変性意識上のアリア ~Air on ASC~ SATAカブレ @satacable

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