第11話 ドロステノブルは甘えと言われるか?
「さあて、話を元に戻してもらおうか。いくらやることないからって、退屈な話ばかり聞かされるのはもうたくさんだからね」
~はい、わかりました~
×
B-01は考えていた。
この世界のルールが段々わかってきた。
まず基本この星、地球という枠組みのみで構成されているようだね。
他の星の生物達とのやりとりは『グレートサイレンス』がはたらいてるお陰で完全に断絶されていて、お互いに干渉することは不可能。
――そしてグレートサイレンスが有効なのはそれだけじゃない。
脳力やそれに付随する力では、直接人を殺す事は不可能みたいだ。
実はさっき一回目にディオニュソスの所に行った時、本当はあのまま手のひらを握り締めるつもりだったんだよね。
でも何らかの大きな力が働いて、それを否定された。それはこの世界のルールで決まっているからだ。
ただ、二回目に彼の『現実世界で死ぬまでの過去』をぶっ潰した時は、裏を返して対象人物を消すのではなく、彼の認識や彼にまつわる全ての認識を全部消してやった。
さすがに骨が折れたけど、それくらい僕はせっかちなんだよ。
それに実際に僕のリアルタイムでは死んでる人間なんだ、理屈がわかれば大したことじゃない。
――それより、ただの暇つぶしで大きな収穫が得られた事が嬉しいよ。
ノブル君、キミはディオニュソスを直接殺したよね。
それはこの世界の『クリエイター』にしかできない事。
やっぱりそうだった。予感は的中した。
「やっと会えた」
そっかぁ、君だったんだね。
少し印象と違うけど、君で嬉しい。
B-01は今までの思い出せない程の長い年月を振り返りながら少し涙を流し、笑った。
×
~そしてその頃、ノブルはというと~
ディオニュソスを始末したあとのことだが、俺は大暴れの限りを尽くした。
主に先進国の主要な都市までひとっ飛びで旅行しては、歴史的建造物から最先端の高層ビルまで気の向くままに破壊した。他人が見ても対して気持ちのいいもんではないだろうからな、誰かの回想話の間を見計らって好き放題してたぜ。
とととととととととととととととと
「もともとこの歴史的建造物と最先端の高層ビルの両方に価値を見出すっていうことが、なんかご都合主義のように聞こえてきて俺としては面白くねえんだよな。
世の中は全体で都合がいいように、気持ちいいように仲良く収まってるようだけどコミュニティを小さくすればするほどそんな事はねえ。
俺は小さい頃から自己主張が苦手だった。向こうから歩み寄ってくれた相手にしか心から接する事は出来なかった。
だから散々いじめられてきたし、歩み寄ってきたやつらにいいように利用されてきた。
でも実際いじめがあろうが、表向きの見栄えさえ悪くなければ、当事者以外の人間なんて見てみぬふりをする事がいわゆる『常識』なんだよ。そう、それを助けるという事はいい事のようで余計な干渉に過ぎないんだ。
それは俺からしたら、俺が所属する小さいコミュニティでのみ該当するルールなんかじゃねえ。全体、この世界の縮図であり全体なんだよ。こういうのドロステ効果って言ったか?絵の中に同じ絵があって、その絵の中にも同じ絵があって……仮にその自分が所属する小さなコミュニティを抜けだせたとしても、結局次も同じような構図の世界だ。
だから損をする立場ばかりだった俺からしたら、何もかもが気に入らねえんだよ!」
そんな事を、先程から思考が止まったままのナナに対してだらだらと話していた。
~懸命な読者ならわかるだろう。完全にただの言いがかりである~
ただ彼もまた、世の中に対してつまらないと思う気持ちが強く、そして無意識にもそれを拠り所にしてきた。
世の中の不条理に対して卑下する事で自分の弱いところや欠点に対してもしょうがないと思ったり、うまくいかない事もこんな世の中だからしょうがない、と腐ってはやり過ごしてきた。
今、彼は今まで無かった力を手にした。優れた力を自覚した。
それによって今まで拠り所としていた不条理に対する気持ちに嫌悪感を感じ、突き放そうとしている。
それがこの『破壊行為』なのである。
一方ナナはそんな姿をただただ見ているだけだった。
まずい状況だ、という事は感覚としてわかるのだが、思考をシャットアウトされてしまったままではどうすることもできない。
そんなナナの前に、サッカーボールくらいの大きさの気味の悪い生き物が寄ってきた。
得体の知れないその生き物は、ナナに向かって声を荒げる。
「ナナちゃん何してんだよだらしないナ! あんなトーシロにいっぱいくわされてるんじゃないヨ! 君の思考は縛られてなんかなイ。はい目覚ましテ」
その気味の悪い生き物がナナの思考停止状態を否定し、ナナは正常に戻った!
「ギャ! 助かったよアマニタ。私とした事が、本当にふがいなくて泣けてくるよ~……」
「そういうのいいかラ。彼暴走しちゃってるネ、ちょっと痛い目見せて目覚ましてもらおカ」
「……。
うーん……うん、確かにそうだね。暴走したきっかけがまだわかってないし、俺君の力の底も知れないから、真っ向から私から俺君に対する脳力勝負も正直しんどそうだし――仮にそれを試みたところでそれによって正気に戻るか、って言ったらわからない。
……不本意だけど、アマニタの幻視を使ってショック療法、試してみようか。強烈過ぎて、トラウマ増やしちゃうかもだけど……」
ナナは妙な苦笑いをして見せたが、その対象はそれを確認する前に即答する。
「よしきたまかせナ」
そういってその気味の悪い生物は念じ始めた。
~この得体の知れない生物は何か~
この妖怪漫画に出てきそうな生き物の名前はアマニタ。
こう見えてナナの信頼するパートナーである。
彼もまた長い年月、人々に服用時のその作用を神格化されたとあるキノコから生まれて来ており、学名の『アマニタムスカリア』がその名の由来。
キノコの持つ幻覚作用を脳力として持ち合せているが、より強力でアクが強い幻視体験は対象相手の精神に無慈悲に突き刺さる。
「……よし準備できタ。大丈夫かなこレ」
「えっ心配ならちょっとは加減し……」
――そこで思わぬタイミングで、思わぬ方向から声が聞こえてくる。
「うわ、さっきからナナがしゃべってるそれ何? キモくない? ってかナナいつから喋れてたワケ?」
「あ……えっ?」
俺君がこちらの様子に気付き話かけてきた。
しかも……
「……うーんト……キモいっテ、俺の事かナ?」
おいおいおいばか、その言葉は!
「あ……馬鹿、それ言っちゃ駄目なん……」
「ナナちゃんゴメン、アイツ、死んじゃうかモ」
――キィィィイン。
「もう……こればっかりは、俺君が悪い」
ナナは呆れた様子で、肩をすくめた。
そして俺君はそのキモイだなんていった対象、アマニタの目の中に一瞬にして吸い込まれていった。
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