第16話 7秒間話そう

 アマニタはあまりの衝撃に脳の処理能力がタスクオーバーを起こして固まっていた。

 しばらくして意識が戻っても理解しようすればするほど不可解で、そのまま動けずにいた。



 …………。


 ~誰も話す人がいなくなってしまったので、ここで少し解説を入れよう~


 生き物にとって、自分が体験した事が無いものに関して理解するという事は時に困難を要する。

 脳の作りというものは時に雑なように感じる。


 突然だが、よく漬かった梅干しを頭に思い浮かべていただけるだろうか。

 よく漬かった梅干し……口に入れた瞬間に、強い酸味から口の中には大量のつばが分泌されるだろう。そして、あなたがそれを想像してくれたのであれば、大量のつばが分泌されていることだと思う。実際に目の前に梅干しなんてありもしないのに。

 このように脳は想像と現実の区別すら曖昧な割に、現実に起こっていない事に関しては当然知りえないし、初めて体験した時点ではその体験をうまく処理する事すらも出来ないのだ。脳内の記憶(記録)に基づく処理しかできないからだ。


 閑話休題。

 アマニタはこの世に精神を授かってから、気の遠くなるような時を『神の肉』として人々に崇め称えられ過ごしてきた。

 ナナと共に、脳力を用いた神秘的な体験を通じて数え切れない程の人々にその『神の肉』という存在意義の使命を果たしてきた。

 アマニタの脳力は特化型タイプで『幻視』。対象相手の意思を無視した強烈な幻覚体験は相手の実体験を必ずしも反映しない。


 見知らぬ人間がいきなり自宅に土足で入ってきたらあまりの恐怖に声も出ないだろう。その恐怖を何万倍にも凝縮したものが、ものの15分程で一気に押し寄せてくるのだ。

 被疑者はその体験から、何かを得るか、何かを手放すかを選択する事になる。



 唐突だが、脳力のタイプには大きくわけて2つのタイプがある。

 1つはアマニタのように特定の分野または特定の技に於いて大きく秀でている特化型タイプ。

 特化した脳力は固有のユニークな物が多いが、それ以外の分野に関しては平均的に基準値に満たない場合が多い。

 その極端さは逞しい肉体を持ちつつも運動が得意とは限らない、ボディビルダー等を想像してもらうとわかりやすいだろうか。


 そしてもう一つのタイプは念動力を脳力のベースに持ち、特別個性的な脳力を持っていたりする事は少ないが目立って苦手な分野等もなくなんでもそつなくこなせる万能タイプ。

 今の段階の主人公もこちらのタイプと言えるが、脳力に於いて発展途上の者が経験の中で特別な脳力を開花させる事も珍しくない。


 話を戻そう。

 アマニタは今まで多くの崇拝を受けてきた。そして多くの脳力者、及び自身の与えた神秘体験を下に脳力を開花させた者も数多く見てきたのだが、一度として自分よりも大きな存在というものを認識した事が無かった。

 自分の脳力に絶対の自信があったこともそうだが、実際に優れていたからだ。

 自分よりも優れた脳力者、または自分の力が及ばない存在に出会った事が無かった為、認識しようが無かったのだ。


 故に、今アマニタはいくら脳が処理しようと情報を探そうにもリソースを持ち合わせていないので答えが見つかることは決してない。そんな自分の置かれた状況に、ただ固まってしまっていた。


 以上、次話から本編に戻る。




 (前回の話からここまで大体7秒だってよ! ハァ!?)

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