第8話 明晰な夢
「おおっなんだナナ、相変わらず喧嘩腰だなテメーはよ?」
何故だか知らないがテンションがすっかり上がっちまってる俺は、ナナに向かって鼻息まじりに言う。
「言ったな? おめーションベンちびんじゃねーぞォ?」
そうして、俺は玄関を出た。そして部屋のすぐ前の、自分が住んでいるマンションの柵を――――飛び越えた。
「え!? ちょ!! おーい!!!!!」
俺の部屋はこのマンションの5階にある。普通に落ちたらまあ、ほぼ即死だろう。だが今まさに落ちていきながらも俺は冷静だった。
ある事を一心に、ひたすらイメージをする。
「重力は忘れる……360度全ての方向に対するエネルギーを意識する……」
イメージが定まった瞬間――体がフッと、落下する事をやめる。
……ほらな。『空の飛び方』は思った通りだった。
俺は地面スレスレで浮かんでいる状態で、意気揚々とナナに話かける。
「おーいナナー! お前が教えてくれたテレキネシスってやつはすげえなー!! 自由意思の解放とエネルギー送出でなんだって出来るじゃねーかよ!」
「……はは、俺君、それはもはやテレキネシスじゃないからねー! イメージで動かす力の道筋を作るんじゃなくて、イメージから直接力を生むのはサイコキネシスだよ! おぼえときなー!」
「んだよそれややこしい! どっちでもいいわー!」
そこからはもう、完全に俺のターン! って感じだった。
俺はネズミが瞬きをする間にも地球を一周して見せた。進む中で邪魔な障害物は全てイメージを送り込む事で爆破できたし、腹が減れば食べたい物を想像する事でいくらでも出現させては食べ放題。
そしていくらそれ程の事をしてみせても、全く眠くもならなかった。そんな状態で、幾年もの歳月を謳歌した。
いくらだってなんだってできる。
――これなら宇宙のかなたの星だって、もう涙なんか流さない。
お前の力にだって、もう頼ったりなんてしなくていいんだよ。
なにを言ってるかわからないだろうが、俺にはわかるんだよ。
要するに、最強なんだ。
×
ナナはなるべく冷静でいることを自分に言い聞かせながら、ノブルの様子を考察していた。
『脳の温度の上昇及びそれによる頭部からの以上な発汗、瞳孔の散瞳、心拍数の上昇及び不整脈。眼圧もかなり高くなっている……副交感神経に対して交感神経が圧倒的優位に立ってる状態。ナチュラルな変性意識状態になるにはどれもあり得ない状況ばかり。
でも、何かおかしいだよね……どうも本人のパワーとは思えない。何か外部からの刺激で強制的に力を得たような不自然な感じ、一体何が……
――――あっ』
その時、別のナナの記憶がふと脳裏によぎった。
『スッゴく魅力的なコが『たまたま』参加する、何て言われたら運命感じずにはいらんないよね』
ナナは全身の毛穴という毛穴が開く感覚をゆっくり、じっくりと味わわされていた。
えっまさか……っ! どうしたらいい、あたし!?
ナナがパニックに陥ってる状態で必死に考えている最中だった。
――俺君が今までより少しトーンを落とした声で言った。
「おいナナ? お前ちょっとお喋りが過ぎるぞ。少しお口にチャックしてろ、気が散る」
充血した目で、そう言うと同時に俺君はあたしに向かって手で横一文字にチャックを閉める動作をして見せた。
――その途端、あたしの頭の中の声が止まった。あたしの思考は止まった。
「さーて力の使い方も大分慣れて来たぞ、よし、そろそろ一仕事するかァ。」
×
俺はイメージを集中させた。対象はそう、このSPACEBABY MEDITATIONが発車する寸前の機内だ。
集中して探してみたら、思いの他すぐにイメージのピントがあった。俺はその瞬間にそのイメージした対象の時間、場所へと飛んでいった。俗にいうタイムリープってやつか、なんでもいいけど。
そして、俺は今にも発車しようとしているSPACEBABY MEDITATIONの機内――添乗人であるディオニュソスの後ろに立っていた。
ディオニュソスが声高らかに宣言する。
「さあ、お分かりですね? 間もなく超体験がはじまります!
私も先程から感動の涙が止まりません!! ああ!! 神様!!! 今日の日をありがとう!!!」
お勤めご苦労なこった。
でもセリフの途中でわりーんだけどよォ、お前さんに生きてて貰うと後々めんどうなんだよ。
頭の中でそう思うとともに俺はディオニュソスの頭に手をかざし、ヤツの脳味噌を握るようにその指を閉じていく。
「SPACEBABY MEDITATIONの発車準備が!! え!!?? 整いました!!??? 嫌だ!!!!」
怪しまれるだろ、そのままセリフを続けろ。喋り続けるんだ。
「それでは私の出たときの頭は元気です!!??
よし!! シュッパああああおおおおおおぎああああああああおあアアアア!!!!」
「よし、ご苦労さん」
俺が手を勢いよくグーに握りしめるとともに、ディオニュソスは断末魔の叫びをあげて息絶えた。
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