第20話 STAGE4に突入します。引き続き素晴らしい超体験を。

 正直、もうどうにでもなれという気持ちが強かった。

 座席の前のテーブルに左足をドンと乗せ、右足を組んでは偉ぶった。


「いつになったらはじまんだよ! こっちゃもうすっかり退屈してんだけどさァ!」


 俺が悪態を付いているその様子をガイダンスロボは――俗に言うフルシカトを決めた形で、飄々とこっちを見ていた。

 その様子を見た俺のイライラは一瞬にして極地に達した。


「馬鹿にしてんのか!? オイィィィイイイイイイイイああああああ!!!」


 俺が言い終わるより先に今までのステージ開始同様、渦に巻き込まれるような感覚に襲われた。


 ふはははは。そうかそうか。うん、なるほどね。そうだそうだ。

 ロボに対していちゃもんを付けていた自分が、恥ずかしくなった。この渦に巻き込まれ始めてすぐに、そういえば、とすぐピンと来ちまった。

 俺がアマニタと会話している間にも、あのロボットはご丁寧に次のステージに関する『重要な内容』ってやつを話してたんだっけ。

 俺がいちゃもん付けたときにはもう、その話も終わってたんだなぁ。もう少し早く気付こうぜ、俺。


 そりゃあロボットだってあんなリアクションするわな!


 なんてごちゃごちゃ誰に聞かせるわけでもなく、ひたすら頭の中で自分の恥ずかしさをごまかしている間にもう第四ステージに到着するようだった。

「……フン」

 俺がアマニタと話している間、あのロボットがこのステージに関するその『重要な内容』に関する話をずっとしてたかと思うと、楽しみすぎて武者震いが止まらねーっつーの。


 なんて相変わらずの強がりを孕んだお調子者思考で次に訪れるイベントに臨んだ。


 ステージが始まる前に最後にと、俺は再度ナナとアマニタの事を思い出した。

 正直、アマニタが最後に残してくれたってビジョンだが、全く体感が無かった。もしかしてアイツ失敗したんじゃねえかな。ビジョンを渡す直前に消えちまってたりして。

 でもナナ、アマニタ。大丈夫だぜ。

 ……いや、大丈夫なんだよな? アマニタが消える前言ってたよな?

 ……はは。まぁ、お前らがっかりさせるような事だけはしねえから、見守っててくれよな。


 まわりの風景が鮮明になってきた。



 ん……?


 たどり着いたそこは、なんと砂漠のど真ん中だった。

「ふーん。ジャングルの次は砂漠かよ」

 この体験のステージの運び方にだんだん慣れて来ていた俺は、何かしらイベントが起きるのをそこから動かずにただひたすら待っていた。


 …………。

 なんだ、動かねえと始まんねえってかァ? 痺れを切らして、何かアクションを起こそうかと思ったその矢先、目の前に光の柱が二本走った!

「うわ!……な、なんだよ!」


 思わず声が出ちまったじゃねーか。


 その二本の光の柱は、やがて人のシルエットを映し始めた。 もしかしたら、俺もこうやってここに来たのか? だとすると、今からやってくるのは、他の参加者なのか……?


 そう思ったら、妙に緊張してきた。


 光の柱の中のシルエットがどんどん色濃くなっていく――そして、人の姿を映し出した。

 二人の人間がほぼ同時に姿を現した。相手より先に相手を認識してやろうと、俺は一人一人順番に顔や姿をまじまじと眺める。


 一人目、俺と同じくらいの歳の男だな。一瞬女かと思う程中性的でキレイな顔してやがる。

 さて、こちらさんは……? と二人目の顔を覗き込んだ時、俺の目玉は飛び出そうになった。


「は、お……おま、おま……え……ノイ? なんで?」


 目線の先の人物も、俺を認識して驚きのあまり瞳孔が広がる。



「え……ノン君? えなんでどうして……? え?」


 こいつはまぎれも無く、俺の彼女、ノイだった。お前も参加者だったの? これは夢? 頭がひどく混乱してきた。


 そんな状態の俺を見つめるノイの目がやがて潤み、大粒の涙をこぼした。


「ノンく~~~~ん!! 怖かった~~~~会いたかった~~~~!!」


 言い終わる前にノイは俺に駆け寄り思いきり抱きしめてきた。


 俺までなんだか感極まって気付いたらうるうるしながら抱きしめ返してた。なんかかっこわりいな、俺。


 ノイは俺に抱きついたまま、ここまでの不安や恐怖についてマシンガンのように喋り続けた。

 ――正直な話、内容については全然頭に入って来なかったんだが、俺はその話一つ一つに対してうん、そうだな、と丁寧に返事をする事だけはしっかりと心掛けた。ノイの気が済む頃には結構時間が経っていたと思う。


 そんな中、先ほどノイと一緒に現れた、もう一つの光の柱の主である参加者は俺らの様子を見てさも微笑ましいといわんばかりに、笑っていた。


「感動の再会ってやつだね。素敵だね。なんだか羨ましいなぁ。」


 俺はその声に見に覚えこそないが、何故かボケボケしていた頭にピシャリと刺激を与えるには十分な何かを感じた。



   ×



 何故だかそいつの声を聞いた瞬間に脳みそがジン、と反応した。軟らかい声質なのに、何か鋭く研ぎ澄まされた刃物のような、ソリッドな冷たさを覚える不思議な声だ。


 ノイに完全に気を取られてボケボケしていた頭がすっと切り替わる。俺はそいつに声をかけた。

「ごめんごめん、そう言えばはじめましての自己紹介もまだだったな。」

 俺がそう切り出すとノイが間髪いれず、

「えっちょっとノン君? 今アタシ話してる途中だったんですけどー……もしかして全然聞いてなかったんだ? 初めっからー……」

 そう言って頬を膨らませる。

 あ……。

「いや! 聞いてたよ勿論聞いてた! でもさノイ? これから行動を共にする仲間との自己紹介は後回しにするもんじゃないだろ!? な!?」


 俺はノイがふてくされないように必死に弁解する。ノイは結局若干ふてくされながらも「わかりましたー」と言いしぶしぶ納得する。助かったぜ。


「さてと。じゃあ自己紹介といきますか。じゃあまずは俺から」

 俺が場を仕切るように話し始めた所で、そいつは笑顔のまま、俺のそれを遮るように口を開く。


「知ってるよ、ノブル君。そしてノイちゃん。はじめましてでいいのかな。せっかくの自己紹介遮ってごめんね。でも、そんなのんびりしてらんないと思うんだ。」


「……はい?」


 そいつの言っている事を理解するより先に、地鳴りと共に俺らの周りの地面が揺れている事に気がついた。それも徐々に大きくなっている。

「僕が喋り終わってから5秒後に真下から飛び出てくるよ。みんな本気で走って逃げて。ほら早く!!」


 そいつが若干声を荒げた事で事のヤバさを感じた俺は、

 ノイを抱きかかえるようにしてその場から本気でダッシュした。


 ――ドバァァァァァァアアアアッ

 次の瞬間、俺らが元いた所の地面が盛り上がり、物凄い勢いで跳ね上がる。

 そこから出てきたのは、身の丈10メートルはあろうかという、コブラだった。

 爬虫類が苦手なノイは、俺に抱きかかえられたまま気絶しちまってら……。



 シュルルルルル……下を出し入れしながら、その荒い呼吸音が不気味に響く。

 そして距離を縮める事も無く、こちらにじっと顔を向けてくる。どうやら向こうも様子を伺っているみたいだ。


「ノブル君、第四ステージが始まる前の話聞いてなかったでしょ? このステージのテーマはバトルなんだって。みんなで協力してその都度発表されるいくつかのミッションをクリアしながら、ボスを倒すそうだよ。

こいつはインド神話に登場する、アスラのナーガと言うんだ。八部衆に属するコブラのバケモノだよ。地底界パーターラから、わざわざお出ましいただいたようだね。

……まぁ、八部衆は下級神だなんて言われるし、最初の敵としては妥当なんじゃないかな?」


 お前この状況でよくそんなマイペースに長々と話せるな……。


「あ……ああそう!? ……ってかさァ、一番最初に出てくる敵っつうのはさ、もっとこう……クリボーとか、スライムみたいなかわいいやつなんじゃねえの!?」

 なんて、俺は目の前の恐怖に動転して、変な事口走ってた。



    ×



 ナーガの威圧感はそれはもう大層なものだ。

 シュウウウウウウウシュルルルルルルルル……

 正直言って……マジで怖い。

 そこで名前も分からないそいつが言う。

「ノブル君、どうする? 脳力、実践で試してみるかい?」


「ば か い わ な い で く れ 。 現実ではペットボトルすら満足に扱えなかったんだぞ!!」

「あはは、そうなの? 君が? はは。そうなんだ~、それは君がちゃんと力を労ってあげないからだよ。 力は繊細で素直なんだ。君がいらないとか、邪険にしたらひっこんじゃうよ」


「いやゴタクは後にしてくれよ~! 目の前のヤバい奴をなんとかしないとさァァァ!!」


 この『アスラのナーガ』ってやつは目が悪いのか? 目の焦点がはっきりこちらを向いて無いような違和感を感じる。

 どうやら視覚以外の、気配か何かでこっちを察知しているようだ。 ただそのセンサーは中々出来がいい様で、俺らが少しでも動くと、それに対してまるで分かっているぞと言わんばかりに、首を振ったり舌を出したりして圧をかけてくる。


 ふと横のまだ名前も知らないそいつに目をやると、ナーガに手を向けて何かを探っているようだった。


「おい、どうしたんだよ一体。何をしてんだ?」


「おっかしいな。めんどくさいから僕がやっつけちゃおうと思って心臓の場所を探してるんだけど……見当たらないんだ。見つからないんじゃなくて、どうやらないみたい。おかしいね、これじゃ殺せない」


「嘘だろ!? 不死身だってえのか? じゃあ一体どうしろってんだよぉぉぉ!?」



 俺が絶望に打ちひしがれ声をあげた所でいきなりその場の空間は色を失い、時が止まった。そして突然頭の中に『ピンポーン』というチャイムが鳴り響く。


 一体何が始まるんだ。

 そんな不安な気持ちでいたところ、脳内に直接ガイダンスロボの声が聞こえてきた。


「スタート前にも説明しましたが、チャイムが鳴ってから説明が終わるまでは回りの時間は完全に止まりますので、ご安心ください。それでは皆さん、一つ目のミッションをお伝え致します」


 ほおお?俺は初耳だぞ、そんな話。

 やっぱり人の話はちゃんと聞いておくべきだな。


「目の前の巨大蛇、ナーガが大事に抱きかかえています壺を奪いだしてください。手段は問いません。ただ、既にお気付きかと思われますが、目の前のナーガは殺す事が出来ません。ユニークな方法を考えて、クリアを目指してくださいませ。では、引き続き検討をお祈り致します」


 ロボが話終わると同時に、空間は色と時間の流れを取り戻す。


 ――ハッ

 「……何? 壺? どこにあんだよ!?」

 思わずそう言ってすぐさまナーガに目をやった所さっきまでは全く気付かなかったが、ヤツがとぐろを巻いている中心に大事そうに抱きかかえている壺の存在をすぐ認識した。


 …………。あいつ不死身なんでしょ? あんなんどう考えたって無理でしょ。


 絶対無理。

 あぁ、短い人生だった……ノイ、死ぬ時は一緒だぞ。



 変性意識上のアリア 完「いやちょっと勝手にあきらめないでよ!」


 名前も知らないあいつにドロップアウトを阻止された。


 ――俺は溜息を付いてみせた。

「んなこと言ったってよ、どう考えたって無理だろ。死にたくねえけどよ……」


 そいつは何かを企んでいると言わんばかりの笑顔を見せ、俺の問いに答える。

「みんなで役割分担すればなんとかなるよ。作戦を伝えるからよく聞いてね」

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