第38話 Total and utter cosmic stuff
「うーん……ちょっと頑張り過ぎたみたいだぁ、へへ……」
いまだ状況を飲みこめない俺に向かって、ノイは困り笑いのような表情をして見せた。
「おい、しっかりしろ、ノイ……。にしても、ほんとにあいつらが襲って来たっていうのか? 俺やノイに向かって?」
ノイが嘘を付いているとは思っていない。ただ、にわかには信じがたい……コーリには悪いがあいつはともかくとして、エラまでも?
「そうだよ。襲いかかってきて……戦ったっていうか、攻撃を受ける前に、あたしが吹き飛ばしちゃったんだけどね……はは。
あっそそ、コーリは弾け飛んだはずなのにかろうじて生きててさ~? 死にかけであたしの足首掴んできた。もしそのまま自爆でもされたら困ると思って……へへ、ノン君にならって右足切り捨てて逃げてみた。あの時のコーリ、何が起きたのかわからないよって感じで凄い顔してたな……状況飲みこむより先に、また破裂したんだけどね……あたしもノン君にそうされた時、あんな顔してたのかなぁ?」
そういうノイの右足を見ると、本当に足首から先が無かった。
おい、おい……なんだよ、なんなんだよこれ……だめだ頭んなかぐちゃぐちゃになってきた。
――僕は君達の……味方だよ
友達だと思ってもらいたいとか友達に言わせる程野暮じゃねえんだよ俺と言う人間はよ――
俺は少し意識が遠のいていくような感覚を覚えた。だってさお前、あんときあんなに嬉しそうな顔してたじゃねえかよ……。
俺の顔をじっと見てたノイが――口を開いた。
「ん……ノン君の考えてる事もよくわかるよ。
でも、あのお父さんに認められるって聞いた時のエラ君、私達に見せた事無いくらい素敵な笑顔してたんだぁ。まるで積年の願いごとがかなったみたいで……あたし達なんて天秤にかけるまでもないって感じ。……あたしが偉そうに言ったらノン君いやかもしれないけど、しょうがないよ。人って、その程度の出来なんだよ。あんまり期待したら、ノン君またショック受けて潰れちゃうよ?」
「うーん……ッ」
「それに安心して? エラ君の事は苦しむ事無いように、私が誠意を持って……思いきりやっつけたから」
「ッ……」
俺は言葉が出て来なかった。
その時だった。
――――――バシィッ!!
乾いた音が響くと共に、ノイの体中に大きな亀裂が走った。
「わぁっ……ああっ……ノイ!」
「ッうーん……ここじゃあ、やっぱり届かないんだなぁ。ノン君はこんなに近くにいるはずなのに、ノン君の愛が、あたしまで……へへ、くっそ~……ッ」
「しっかりしろ! そうだよなあ、こんなとこにいたら生きた心地なんてしないよなあ、早く、早く帰ろう。一緒に帰ろう」
俺が慌てて動転する様子を見て、ノイは少し隠した様子で溜息を一つして、そして呆れたような笑顔を見せた。
「もう……。なんだよ、ノン君。まだ思い出してないのかよー。ばか」
ノイはそう言うと、俺の頭に自分の頭をコツっと軽くぶつけた。
――――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ
この出来の悪い星を作ったのは一体誰だって? うるせえよ。
この出来の悪い星を作ったのは何を隠そう、この俺だ。
ただまあ、出来が悪いのは確かだな。たまたま軌道に乗ってうまく生態系が構築されただけで、
俺が優秀なワケじゃないんだよ。全然。言う事聞かないんだよ、みんな。
『同種食禁忌』のプログラムを遺伝子に打ったはずなんだよ、俺は。
それにも関わらず、たまーに共食いしだすんだよなぁ。動物達。種の存続には必要な事だとか言ってそれっぽい理由付けてよ。お前ら俺に意見すんのかよ。これはバグだ、すこぶるイライラする。
『人間』に至っては知恵を付けた癖に、自分達に不可欠な酸素を作る森林を伐採し、そこに空気を汚染する工場を作るんだ。頭おかしいんじゃねえのか? 集団自殺か。
物凄く無秩序だ。
――そんな中、俺は自分の作った星にズルとも言えるルールを作った。それは俺にとっては一刻も早く制定すべきルールだ。その内容はというと、他の惑星から一切の干渉を受ける事は絶対に無い、というもの。
現在までの構築状況は無茶苦茶、管理も全く出来ていないのに環境ばかりは恵まれてるこの俺の星、他からの干渉があるのは時間の問題だ。だが俺はそんな事を望んでいない。物凄いご都合主義だが、そんな馬鹿らしいルールを可能とするのが、パートナーの『ノイ』の存在だ。人間達には次元を超越した存在かつ俺のパートナーとして、『天使』などと称されていたな。
ノイは異星人からの干渉を全て『武力行使』で迎え撃っては玉砕した。本当に心強いパートナーであり唯一の理解者。それがノイだった。
ノイはいつも口癖のように言っていた。
「あたしは人間をはじめとした地球の生き物たちと違ってお腹が空かない。ただ、それらでいう『食糧』があたしにとってはあなたの『愛』なんだ。それさえあれば他には何もいらない」と。
そう言って、ノイは俺が地球上に振りまく愛をつまんだり、俺に直接要求したりした。
それで、全てうまくいっていたんだ。
――俺が欲をかくまでは。
俺はだんだん自分の思い通りに地球が回らないこと、そして自分勝手に生物達が成長していく事が腹立たしくてしょうがないと感じるようになった。
そうして更に雑になっていく。それが理由で俺に対する地球からのヘイトが溜まっていく。それが積もり積もった結果……
俺は鬱になった。神である俺が、鬱になったのだ。
好き放題してるくせに好き放題抜かしやがって。お前らなんてもう知らねぇと、罪悪感に押しつぶされそうに成りながらも悪態を付き。
そうして、俺は地球に人間として降り立つ事にした。
罪滅ぼしと、若干の羨ましさから。
ノイの事を、置いてけぼりにして。
ああああああぁぁぁぁぁぁッ…………。
――はッ。
目の前のノイは呼吸を乱しながら、俺に笑顔を向けていた。
「ひどいよね~。ノン君てば、急にいなくなっちゃうんだもん。探したよ」
「ごめん、うっ……うぐ、うん、ごめんごめん」
「見つけたはいいんだけど、ここじゃあもう、ノン君の愛が直接あたしまで届いてくれないみたいでさ……せっかく一緒にいれてるのにね」
「勝手な事して、ごめん……ううっごめんな……」
「あっでもさ!? ここでも一緒にいる間、ノン君があたしのこと愛してくれてるんだっていうのは凄く伝わってたんだよ~、ありがとね」
「ごめん、ノイ本当にごめん」
「……ノン君!!」
……ッ!!
俺は少し取り乱していたようだ。ノイの声でハッと我に戻る。
「男の子だろ~、メソメソしてたら情けないけど!」
今にも崩れてしまいそうなノイに気つけられて、余計に込み上げてきそうになるのを必死に堪える。
――その様子を見ていたノイが、俺に優しく声をかけた。
「……ノン君?」
「……ん?」
「最後にあたしのわがままに、付き合ってほしいな」
「ん、なんだよ? ノイ、言ってくれ! なんでも聞くぞ!!」
俺は泣くのを我慢しながら微笑んでみせた。きっとすげえ変な顔だったと思う。
そんなの、知らねえよ。
「やっぱり優しいね、ありがとう! したらさ? あたしの目――しっかり見て?」
「え? お、おう……」
俺はノイと顔を合わせ、お互いしっかりと目を見合わせた。
するとその次の瞬間、俺はノイの目に吸い込まれて行った――
――はッ。ここはどこだ?
…………教会!? えっなんだこれ? さっきまでだらしない私服を着ていたはずだったのに、いつのまにか白いタキシードに身を包んでいる。
えっなんだこれ? 俺死んだのか? 何かと死んだのかと疑うようになった自分に気付いてアホらしいと思っていた所で後ろから聞き慣れた声で名前を呼ばれる。
「ノーン君っ」
――振り返ると、そこには真っ白いドレスに身を包んだ、ノイが立っていた。それは物凄く綺麗で、まるで天使のような輝かしさだった。
俺はその姿を見た瞬間に、大粒の涙が止められなくなってしまった。
「な……なんだよお前、その格好……。最高か……ぐすっ」
これはさ、止めらんねえって。だって綺麗すぎたんだよ、あいつさ。
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