6-4.南への行進
何故、そんなことを思い出したのか、シャルハは馬を走らせながら考えていた。
幼い頃から染み付いた馬術は、少しの想起でも揺らぐことは無い。
王国軍を引き連れて、王都の街道を南下する。これまでは国境で戦をするために進んだ道だが、今日の目的地はそれより遥かに近い。
にも関わらず、いつもより遠く思えるのは、緊張感のせいでもあった。
「女王陛下、どうしました」
並走するベルストンを、シャルハは一瞥する。
「なんでもない」
「阿呆卿が仕掛けるとすれば、南の領地に入ったところです。王に成り上がりたい彼が、天使の住まう王都を無下に攻撃するとも思えません」
「もし奴が王になったとして、ウナは奴を認めるだろうか?」
「……それはないでしょう」
馬の蹄が地面を蹴る音が響き、乾いた道に砂埃を巻き上げる。
賑やかだった王都は、今は静まり返っていて、行軍の音が殊更に目立った。
「女王様はもっと自信を持つべきです。貴女が王として相応しくないのなら、甥のルーティは早々に見切りをつけていたでしょう。あいつはそういう人間です」
「ルーティには悪いことをした」
「でしたら、せめて王で在り続けて下さい。そうでなければ、ルーティは納得しないでしょう」
手綱を握りしめた手に、本物の雨が一滴降り注いだ。
雨が降れば視界が悪くなる。シャルハは雨が激しくならないことを祈りながら、自らが跨る黒馬を励ますように、軽く撫でた。
「トリステ。お前は雨が嫌いだろうが我慢してくれ。可愛い恋人が待っているのだろう?」
愛馬は低く嘶いただけで、足取りは衰えることもなく一直線に先を目指していた。
弧を描いた道の先に、南の領地は迫っていた。
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