5-3.王の品格
「武闘大会か。忘れていたが、確かにうってつけだな」
「はい。私と一緒に賞金を見張る役目には、執事のルーティが」
「ルーティか。奴は反女王派ではあるはずだが、積極的に関わってこないから、協力は期待できないな」
実際にはルーティは、反女王派を演じているだけだが、持前の無表情とその態度でガーセル達には気付かれていない。
だがあくまで演技なので、ガーセルや他の人間がシャルハへの妨害行為を行おうとしても、それに乗ることはなかった。
「シャルハの首を獲れなければ、今度こそお前は解雇だ」
「……心得ていますわ」
失敗続きのティアに、ガーセルはそろそろ失望していた。
だが、ティアがシャルハに好かれていることや、自然に王城のメイドの中に溶け込んでいることから、渋々見逃してきた。
「シャルハに近づいてきた、隣国の王子。天使が彼を認めたと言う話を聞いた。ということは、天使がまだシャルハを認めていないにせよ、時間の問題だ」
「今度こそ、必ず」
「死んでもあの女の首を獲って来い!」
ティアは下唇を噛みしめる。
殺し屋の仕事は、言うまでもなく人を殺すことである。それが達成できないならば、ティアは現状ただのメイドの成り損ないだった。
自己のプライドのために、ティアはシャルハを殺さなければならない。だがそのために死ぬなんてことは、あまりに不名誉なことだった。暗殺者が命を捨てて他者を殺すことほど、馬鹿げたことはない。
「わかりました」
口先では肯定を返しながらも、ティアは内心で舌打ちする。
命を捨ててまで殺すほど、ティアはシャルハという人間を嫌っていない。あくまで仕事で命を狙っているだけで、あの凛々しくて鈍い女王のことなど、どうだって良かった。
「武闘大会は、どこで行われるのでしょうか。下調べをしたいのですが」
「そのぐらい自分で調べておけ。北側にある闘技場だ」
ティアは反射的に北側を見たが、城の裏庭からだと塀に阻まれてしまって、闘技場はおろか外の景色すらも見えなかった。
ガーセルは苛立った様子で言葉を続ける。
「あの大会は嫌いだ。ベルストンも先王も、私のことを軽んじて、シャルハばかりを持ち上げた。あの女のほうが私より強いなど、冗談ではない。不当な評価を下して、私に恥をかかせたあんな大会など、私が王になったら即刻廃止してやる」
陰険さが滲み出る独白は、ティアを無視して延々と続く。
それを聞きながらティアは、例えシャルハが死んでガーセルが王座についても、王にはなれないだろうと悟っていた。
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