3-2.女王の愚痴とメイドの粗相
「というわけだ」
「大変ですねぇ」
ティアは笑顔で言いながら、女王の愚痴に相槌を打った。城のバルコニーは塵一つ落ちていない代わりに、昨日まであった筈の花瓶もなくなっていた。
今朝、ティアの手によって哀れな末路を迎えた花瓶は、メイド長が呆れるのにも飽きたといわんばかりの表情で片付けて、以後行方知れずである。
「ティアは親御さんに見合い話などは持ち込まれないのか」
「うーん、末っ子なのであまり親も本腰は入れてない感じですね」
「なるほど、地方貴族の末子では結納金も少ないからな」
実際は地方貴族どころか真っ当な人間でもないティナは曖昧に微笑んだ。女王を殺す任務を、女王の従兄でもあり騎士団長でもある男から引き受けて一ヶ月。未だに掠り傷一つ与えることが出来ていない。
「パーティだと忙しくなりますね。バシッとお掃除します」
「いや、出来れば掃除をしないでくれるとありがたいな……」
「最近わかったんです。箒が長いからいけないんだって」
「ん?」
「箒の柄が長いので、振り回しちゃうのです。というわけで、今日の朝に箒を真っ二つにしました」
「……真っ二つ?どうやって?」
「斧で」
シャルハは片手で頭を抱える。その脳裏には、明け方の散歩の途中に見た石像が浮かんでいた。無残に砕かれた石像を見て、何が起きたのかと思ったシャルハだったが、どうやら理由は隣に佇むメイドのようだった。
「斧を持つのはやめたほうがいい」
「えー、スルンッって出来ましたよ」
「出来ていないからやめてほしい。……ん?」
バルコニーに小さな影が差す。シャルハはそれを見て、半歩後ろに下がったと思うと、ティナの二の腕を掴んで代わりに前方に押し出した。
「着地ぃっ」
「うひょあぁあああ!」
上階の窓から落ちて来たウナは、倒れたティナの上に華麗に着地していた。
「なんだ、ウナか」
「ねぇ女王、メイド長が沢山ドレス出してるの。試着しよう」
「……ドレス」
「この前のドレスも悪くなかったよ。私は危うく窒息死するところだったけど」
「天使が窒息死するものか」
苦々しい表情でシャルハが言っても、ウナは意にも介さない。
「するかもしれないでしょ。試してみる?」
「遠慮する。……はぁ、しかしドレスか。流石に婚約者を決めるパーティで騎士装束などしていてはお話にならないだろうからな」
悠長に話をする二人の足元で、未だウナに踏みつけられていたティアが声を上げる。
「いい加減に退いて下さるとありがたいのです、天使様」
「あ、ごめんね。でも避けないティアが悪いんだよ」
「ウナ、そういうことをいう物じゃない」
ティアから離れた天使は、空中に浮かび上がる。金色の髪が風に舞って揺れた。
「ドレス見ようよ、ドレス。愛され天使のウナ様が、そなたのを見繕ってあげる」
「それはありがとう。嫌な予感しかしないけど」
「なんで」
口を尖らせるウナに、シャルハは半眼気味の視線を向けた。
「毎日白いワンピースしか着ていない人外のセンスを真に受けるほど馬鹿ではない」
「酷い。人生経験は豊富だよ。あ、天使だから天使生経験」
謎の言葉を生み出して、天使は何が楽しいのか笑い転げる。シャルハはそれを見てますます不安が募った。
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