2-4.執事の警告
計画が失敗しても諦めないのがティアという暗殺者の長所だった。シャルハが脱ぎ捨てて行ったドレスを片付けながら、次の計画に頭を巡らせる。
シャルハを油断させるのは問題ないことがわかった。あとはウナに邪魔されなければ、あるいはシャルハの少々神がかった運の良ささえ合致しなければいい。
「ボート遊びとか……。いや、泳げるなら駄目ですわね。入浴時を狙うのも手かもしれませんわ」
自分だけに聞こえる声量で呟いていると、衣装室の扉が開いてルーティが顔を出した。
「ティア。ここはもういいです。自分の仕事に戻りなさい」
「はーい」
元気よく返事をして、部屋から出ようとしたティアだったが、なぜかルーティがその場を退かなかったので、怪訝な表情を作って首を傾げた。
「感心しませんね」
「え?」
「メイドが女王の格好に口を出すなど」
「出してないですよぉ。ドレス着てみたらどうかって言っただけです」
「姫がお優しいからよかったものの、そうでなければただでは済みませんよ」
「次から気を付けます」
「次は何をするつもりですか」
意味ありげな質問に、ティアは目を瞬かせた。
ルーティの表情は相変わらず無表情に近い。
「お茶会に毒を仕込みますか」
「何のことですか?すきゅんっとわからないです」
「ガーセル卿の雇った暗殺者でしょう」
今度は直接的な物言いだった。ティアは一瞬動揺するが、口元の笑みは崩さずに笑い声をあげる。
「何言うんですか、ルーティさんたら。変なの」
「別に貴女が姫の命を狙おうと、私にはどうでもいいことですが、こういう後始末が面倒なので控えていただきたい」
「だからぁ」
「イルヴィナティの領主を殺したのも貴女でしょう」
ティアは眉を寄せて、ルーティを見上げた。
「殺し屋だと思うなら、何故それを女王に進言しないのかしら?」
「どうでもいいからです」
「クビにすれば面倒な後始末もないでしょう?」
「たまにならいいですよ。私も暇をしていますし」
「よくわからない執事ねぇ。貴方から始末したほうがいいと、何処かの殺し屋とやらに伝えましょうか」
ルーティは挑発的な言葉を鼻で軽く笑ってあしらった。
「どうぞ、ご自由に」
「余裕じゃない」
「だから、私にはどうでもいいのです。私の執務に影響がなければ、貴女が女王を殺そうと、王がガーセル卿に代わろうとどうでもいい」
「影響があったら?」
「貴女を処分します」
互いの目の奥に、一瞬だけ火花が散った。
ティアは暫く睨み付けていたが、やがてそれを止めると、いつものドジなメイドの表情に戻って笑顔を浮かべた。
「メイド長に怒られないうちに、サスッと行ってきます」
「急いだ方がいいですよ。大目玉を食らうでしょうから」
ルーティが道を開けると、ティアをそこを小走りに通り抜ける。一度も後ろを振り返らないまま廊下に出ると、顔の笑みには似つかわない舌打ちをした。
「変な執事ですわ。まぁ彼の邪魔をしなければいいようですし、私はこのまま女王の命を頂くとしましょう」
面倒な条件が増えたという事実からは目を逸らして、ティアはメイド長の元へと急いで去って行った。
END
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