5-5.メイドの宣戦布告

 剣の音が円形状の闘技場に響き、観客達は興奮しながらその行方を見守る。この日のために鍛えて来た数多の剣が、そこで全ての力を出さんとしていた。

 

「素晴らしいですわね。剣を振るう男性は好きですわ」


 賞金を入れた箱の右側に立ったティアが口を開く。

 左側のルーティはその口調を聞いて、少しだけ視線を相手に向けた。


「ドジなメイドの演技は止めたのですか」

「何のことだか、キュルッとわかりません。……私、今日は本気ですから。邪魔をしても無駄ですわよ」

「そうですか」

「貴方、言いましたわね。自分の仕事の邪魔をしなければ良いと。貴方の仕事……この賞金を見張ることは邪魔しませんからご安心を」


 ティアは愛らしい口元で微笑む。


「それに貴方に私は止められません」

「大した自信ですね。ガーセル卿にクビでも宣告されましたか」

「それもありますけど、ドジなメイドの役はうんざりですの」


 剣が弾かれる音がして、観客が湧きたつ。

 熟練の騎士から剣を奪ったのは、地方貴族の庶子だった。思わぬ番狂わせに、騎士団の人間達も驚いた表情をしている。

 その騎士に混じって、ガーセルだけはルーティ達の方を見ていた。


「あんな男のために仕事をするなんて馬鹿げていませんか」

「それについては同感ですけど、私にもプライドがありますから」

「プライドですか」

「私はガーセル卿のためではなく、自身のためにするのです」


 ルーティはその言葉を聞いて、初めてティアの前で自然な笑みを覗かせた。

 それは一瞬のことだったが、ティアの虚を突くには十分だった。それまでティアが見たルーティの笑顔と言えば、最初に正体を看過された時の嘲笑しかなかったからだった。


「貴女のそういうところは、嫌いではありませんね」

「貴方に私を評価してくれなどと、頼んでおりませんわ」

「単なる感想ですよ」


 次の試合が始まり、再び闘技場に熱が籠る。


「貴方、前の騎士団長の甥なんですってね」

「よく調べましたね」

「剣は苦手で執事になったとか?」

「そうですね。私には執事の方が向いています」

「でしたら、余計に私の邪魔をしないほうが良いわ。怪我はしたくないでしょう?」


 気遣っているような、そして同時に馬鹿にしているような声の響きだったが、ルーティはそれに一切答えることはなく、背筋を正しただけだった。

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