3-3.シャルハのドレス選び
メイド達が次々に運び込むドレスや装飾品で、シャルハの部屋はあっという間に満たされた。
「女王陛下、こちらが城にある全てのドレスでございます」
「随分沢山あったんだな」
「陛下が女性の服に袖を通さなかったので、気付かなかったのでしょう」
メイド長は笑いながら、並んだドレスを示す。
「残念ながら、陛下のものはガーセル卿より贈られたドレスしかありませんが、それは今後増やしていけば良いことです」
「これだけあるなら、新しく作らなくたっていいではないか」
「御冗談を」
シャルハは本気だったのだが、メイド長には冗談に聞こえたようだった。
「女王陛下には一つ守っていただきたいことがございます」
「なんだ」
「王家が諸外国との交流を行う際には、必ず身に着けていただくものがございます。それが王家の指輪です」
装飾品の中で、金色に輝く宝石箱を取り上げたメイド長は、シャルハの前にそれを持っていくと丁寧に蓋を開けた。
中には赤いクッションが入っており、その中央に銀色の指輪が収められていた。如何にも王族の持ちそうな重厚感のあるデザインで、王家の紋章が入っている。
「これを身に着けて、パーティに出てください」
「…………メイド長、これは」
「先王達がお使いになっていたものです」
「つまり、それは……」
「仰りたいことはわかりますが、決まりなのです」
シャルハは指輪を手に取ると、紋章を見た。描かれているのは天使の片翼で、それが剣を護るように包み込んでいる。
ウナに由来するものであることは明らかだが、これまでシャルハはウナの翼を見たことがなかった。
「ウナ」
ドレスを見回って鼻歌を歌っている天使を呼び止める。飛びながら戻ってきたウナは、ティアラを頭に乗せていた。
「綺麗なティアラ見つけたの。そなたにどう?」
「ボクには似合いそうにない。髪が短いからな」
「そんなのウィッグで……。銀髪のはないの?」
ウナの問いにメイド長が辺りを見回す。
「そういえば、ご用意がありませんでしたね。シャルハ様の髪の色は珍しいので、専用に用立てないといけないのですが…」
「いいよ。髪が長かったことなど生まれてついぞないから、落ち着かないだろうし。少し女性らしさには欠けるが、今更だ。このままパーティに出るよ」
「ねぇねぇ、我が女王。何色のドレスがいい?」
「別になんでもいいんだが」
ドレスは確かに綺麗だが、シャルハはそれを着た自分のイメージというものが全く浮かばなかった。どんなに思考を巡らせても、ドレスの上に自分の顔を置いただけのチグハグなイメージしか出てこない。
「そもそも、何故ウナがそんなに楽しそうなんだ?」
「だって今まで男の王しかいなかったから、ドレス選ぶことなんてなかったし。それに我が女王のために何かしてあげようと思う、これも愛の天使なら当然のことなの」
「……後半がとってつけたかのような理由だな」
シャルハは圧倒されそうなドレスの色に対して、百戦錬磨の騎士でも相手にした後のような疲弊感を味わっていたが、ウナが楽しそうなので水を差す真似は止めた。
この国の守護天使の機嫌を損ねたくはない。
「ブルーがいいと思う」
「ブルー?」
「そなたの銀髪にはぴったりなの」
「天使様、良いお考えです」
メイド長がここぞとばかりに同意を示し、山ほどのドレスの中から一着のドレスを取り上げた。
腰周りを引き絞って、全体的にボリュームのある裾のあるデザインが多い中で、それは背面にボリュームを出して控え目な印象を与えた。
濃い青の生地を基調としているが、随所に白いレースを使っているために涼し気な雰囲気を損なわずに女性らしさも演出している。
「これはシャルハ様の母上にあたります先王妃が、先王のご生母様より賜ったお品です。きっと似合いますよ」
「綺麗なドレス。これにしなよ、女王」
正直どれでも構わないシャルハは、二人が強く勧めるのに押される形で頷いた。
「そうと決まれば天使様、髪飾りに靴に装飾品なども必要でございます」
「そうだね。メイド長には期待してるの。我が女王の魅力を引き出して、いい伴侶を手に入れられるようなコーディネートをして」
「おい、ウナ。お前本気でボクに伴侶を持ってほしいのか」
シャルハがウナに声をかけると、愉快そうな笑みで返された。
「それもあるけど、そなたには女王にしか使えない権力っていうものを自覚してほしいからね」
「なんだそれは」
「あ、このネックレス可愛い。メイド長、これどうかな」
「恐れながら天使様、サファイアのものもよろしいかと」
もはや二人に丸投げすることに決めたシャルハは、椅子に深く腰を下ろして天井を見上げた。高い天井の隅に小さな蜘蛛の巣が見えた。
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