3-4.暗殺メイドと雇い主
「お前はいつになったら、女王の首を獲れるのだ」
「天使がいる前では殺せません。一人のところを狙っても、妙に察しがいいのです」
ティアは本来の雇い主である、ガーセル卿に対して答えた。騎士団長でもあるガーセルはたまに王城にも顔を出すものの、それはシャルハに用事があるのではなく、ティアの動向を知るためだった。
「シャルハは武勲で鳴らした先王や、その側近に剣術や馬術を仕込まれたからな。女のくせに生意気にも、私より先に戦場に出たほどだ」
「……ガーセル卿はシャルハ女王よりお年は上なのでは?」
言った瞬間にガーセルが血走った眼で睨み付けて来たので、ティアは慌てて口を閉ざした。
「失礼いたしました」
「くだらないことを気にするぐらいなら、女王の隙でも探って来い」
「今日はメイド長と天使様が、今度のパーティのドレスを決めると言って付き添われているので、難しいかと」
「パーティ?」
不思議そうに聞き返したガーセルにティアが説明すると、何やら愉快そうな笑みを浮かべた。
「なるほど。ということは王家の指輪をつけて出るのだな」
「指輪ですか」
「ティア、お前はパーティの際に給仕はするのか」
「えぇ、そのつもりです」
「指輪を汚せ」
「は?」
ティアは相手が言っている意味が分からずに首を傾げた。
「汚す?」
「あの指輪はとても重要なもので、天使が天界から降りてくる際に持って来た金属で出来ている。これまで多くの王があの指輪を継承してきたが、天使に準えて「一度も穢れたことのない指輪」と言われている」
「穢れたことがない?」
「まぁ要するに汚損したことがないということだな。眉唾だが、とにかくそういう物として諸侯や周辺国には知られている。もし女王が指輪をつけている最中に、それが汚れてみろ。面目丸つぶれだ」
「その場合は私の命も危うい気がするのですが……」
「知ったことか。いつまでも女王の首が獲れないのなら、このぐらい役に立て。それとも仕事を途中で放棄して逃げるか」
煽るように言われて、ティアは内心で舌打ちをする。王族の暗殺を請け負いながら、何もせずに逃げ帰ったとなれば商売敵達から嘲笑される。戦争でも起きるとなれば、逃げ帰っても賢い選択をしたと言われるが、今の状態で逃げれば「あいつは王族が怖くて逃げて来た」と言われるに決まっていた。
「汚せば良いのですね?」
「あぁ。手段は問わない」
「わかりました、成し遂げてみせます」
ティアは恭しく一礼すると、心の中でガーセルに呪詛を吐き捨てた。
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