6-2.老騎士の決起

 国を雨が濡らしている。

 目に見えない雨が、国の行く末を嘆いているかのように降り続けている。雨に濡れた王城は、きっとそのまま溶けてしまう。


「若き兵達よ!」


 しかし憂いも悲しみも、老兵の前では実に無力だった。

 王城のバルコニーに立った老兵は、力強い声を張り上げる。


「この哀れな老人を見るが良い! お前達よりも老いぼれて力はなく、剣を持たせれば、幼子のような有様だ!」


 王城の庭に集められた騎士や兵士達は、伝説の騎士団長を前にして、驚けば良いのか笑えば良いのか決めかねていた。

 鎧に身を包み、先王より賜った剣を携えた姿は、その熱弁が語る言葉に何一つそぐわない。


「しかし! この老兵でも矢の一本くらいなら受け止められよう! 貴様らは安心して、この老体を盾にして進めば良いのだ!」


 女王派の諸侯達もその場には揃っていたが、彼らとて自分より身分が低いはずの老人相手に、存在感一つ示せなかった。


「私に従えとは言わない! だがこの国を愛しているなら、女王陛下を愛しているのであれば、あの卑怯なガーセルなどに負けるなどという選択肢はないはずだ!」


 剣を抜き、天に掲げた姿を見て、兵達は一斉に声を上げる。

 ベルストンの傍らで演説を聞いていたシャルハは、感心したように嘆息する。


「流石は伝説の騎士団長。士気を上げるのは得意だな」

「いいえ、女王陛下のお力があればこそ。陛下が本当に王に相応しくないなら、この場に兵などいません」


 ベルストンが身を引くと、シャルハは代わりにそこに立つ。

 見下ろした光景は、即位式の時の華やかさなど何処かに消え失せて、ただ兵士の熱気だけが渦巻いていた。

 こういう光景は、ウナやユスランは苦手だろうと思いつつ、しかし騎士姫と呼ばれてきた彼女を奮い立たせるには十分だった。


「愛するボクの兵達よ。半人前の女王に此処までついてきてくれて感謝する。多くは語らない。だが、ボクはガーセルに王位を渡すつもりはない。例え、ボクの命運尽きても、奴の喉笛を切り裂いてみせる!」


 兵たちが雄たけびに近い声を上げた。

 庭が、城が、全てが震えていた。


「女王様、万歳! シャルハ女王様、万歳!!」

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