3-5.パーティには天使を添えて

 パーティの当日、シャルハはコルセットの締め付けに耐えながら、笑顔を浮かべて玉座に座っていた。

 ドレスに皺を付けない座り方や、裾を踏まないための立ち振る舞いはメイド長により数日かけて叩き込まれたが、正直コルセットのせいで既に半分ほど忘れ去っていた。


 身に着けた数々の装飾品を、つい毟り取りたくなるのを必死でこらえながら、次々にやってくる来賓と挨拶を交わす。左手の中指につけた指輪が殊更気になって仕方なかったが、それを触ろうとする度に遠くからメイド長が鬼の形相を見せるほうが気にかかる。


「ねぇ女王」


 玉座の右の肘掛けに座ったウナが声をかけた。

 平素の白いワンピース姿ではなく、シャルハの着ているドレスと似たものだった。ご丁寧にティアラまでつけているが、足元はいつも通り裸足である。


「もっと自然な笑顔は出来ないの?」

「無茶を言うな」

「まぁいいんだけど。ねぇ、いい人いた?」

「わからないが、有名な将軍の息子や騎士は、流石に体格も振る舞いも立派だな」

「あー……」


 何故だかウナは煮え切らない声を出して、首を傾げる。


「そういうのは女王には合わないと思うなぁ」

「何故だ」

「女王にはあぁいうのがいいと思うよ」


 ウナが指さした先には、如何にも軟弱な男がいた。先ほど、隣国の第五王子として紹介された気もするが、影が薄くて殆どシャルハの記憶には残っていなかった。


 武術などお稽古感覚でやっていたのだろう、筋肉も殆どついていない体。背丈だけはあるが、そのせいで逆に貧弱さが目立つ。

 武術派ではない王子や諸侯の息子は他にもいるが、その場合は大抵芸術家なり学者なりと、それなりの立場を持っている。だが視線の先の第五王子はそういう類にも見えなかった。


「本気で言っているのか」

「そなたには騎士や将軍は駄目だね。絶対に上手く行かない」

「何故だ」

「同類だから。勇ましき王には淑女を与えよと言うでしょう。勇ましき女王には大人しい男児が丁度いい」

「ボクは軟弱な男は嫌いだ」


 その時、別の国の来訪を告げるラッパが鳴ったので、シャルハは深呼吸をして座りなおした。

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