下校禁止令 - 現代日常(雷)

サブタイトル - 雷鳴が聞こえてきたら


 部活動の時間も残すところ30分、そんな時に遠くからわずかに雷鳴が聞こえてきた。

 雨はまだ降ってない。空雷というやつだ。

「今日はここまで。片付けて」

 部長の号令に、一年生から不満の声が上がる。まだ30分も残っているのに、と。ようやく一年生にコート練習の番が回ってきたのに、と。


 二年生、三年生は当然のように片付けを始める。普段なら、一年生にやらせておくボール拾いや、ネットの片付けにもおこなっている。

「ほら、一年も動く」

 部長の二度目の指示、いつもと異なる状況、そして野球部や陸上部も片付けを始めている事実に、一年生も渋々動き出す。


 校内放送が入るときのノイズに続き、体育教師の雑音まみれの声が響く。

「雷が鳴っているから、外にいる生徒は速やかに校舎に入ること。帰宅しようとしている者も、雷が止むまで校舎に入っていなさい」

 それでかと、一年生もようやく理解する。

「急がないと、北出先生にどやされるよ」

 急かされて、普段ならおしゃべりをしながらやるところを、さっさと済ませて校舎へ向かう。


 昇降口で、先ほどの放送の声の主である北出先生とすれ違った。

 先生は昇降口を抜けると、グラウンドに向かって怒鳴り声を上げた。

「こら、サッカー部。いつまでやってる! さっさと校舎に入れ!」

 実際の雷より、こっちの雷の方がよっぽど怖い。

 サッカー部はようやく練習をやめ、校舎へ向かっていた他の部の人も自然と早足になった。


 校舎に入った生徒は、好き好きに教室へと向かう。

 外が暗くなりだし、稲妻の光がはっきりと分かるようになる。

 おへそを隠すのどうのという話をしている者もいれば、光ってからなるまでの時間を数える者もいる。


 雷は徐々に近づいてくる。

 光と同時に爆音が響き、何人かの女子生徒が悲鳴をあげた。

 ようやく雨が降り出し、雷は徐々に遠ざかっていく。


 室内の部活動の生徒が教室へやってくる頃には、雷はほぼ聞こえなくなっていた。

 そうして今度は、放送委員の声で放送が入る。

「下校時刻を過ぎています。生徒の皆さんは速やかに下校しましょう」

 それは、雷による下校禁止令の解除であるとともに、まだ音を立てて降っている雨の中を帰れという指示であった。

 これもまたさっさと実行しないと、先生の見回りがやってくる。

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