異境にて-ファンタジー(星)

 独りぼっちの夜なんていつものことなのに、こんなに心細いなんて。

 ちゃんとしなければと思っていたのが夜になり、気が緩んだのだろう、心細さが少年を襲った。


 幻獣界と世界をつなぎ、一定期間幻獣に手伝ってもらう契約をする召喚士である両親は、仕事で家を空けることが多かった。それでも、幼い頃は母が家に居たのだが、少年が十歳とうになると、母も帰らない日が多くなった。

 だからこそ、一人きりの夜には慣れていた。

 はやく両親のようになりたくて、少年は一人で練習をしていた。

 そして、未熟な少年が作った世界のつなぎ目は、作った本人を引き込み、幻獣界でも元の世界でもない場所に、少年を吐き出した。

 それが、今日の昼過ぎである。


 吐き出された場所から見えた集落に進んだ。誰かに訊けば、どこなのか、どうしたら帰れるのかわかると思ったのだ。

 けれども、住んでいた国の名前を言っても伝わらず、たどり着いた答えは「まよ」だった。

 この世界には、たまに他の世界から迷い込んでくる者がいるらしい。おそらく、それなのだろうと。

 ただ、迷い子がどうなったのか知る人はいなかった。

 この世界で生きたのだとか、元の世界へ戻ったのだとか。


 家の仕事を手伝うことを条件に、泊めてくれる人がいた。

 他にどうすることも思いつかず、言われるままお世話になることにした。

 夜、寝る段になって、両親に会えないという現実が、少年を襲った。

「お父さん、お母さん」

 もう、いくつ数えても会えることはない。

「そうだ、空」

 幼い頃、母と一緒に空を見た。お父さんも同じ空を見ているよ、と。

 窓を開け、夜空を見る。

 この先に両親が……。とてもいそうにはなかった。

 二つの月に、記憶と全く一致しない夜空。本当に遠いところに来てしまったのだと、改めて思った。

 星の瞬きは、優しいものだと思っていた。こんなに不安になるものだとは、思っていなかった。

 もうやめておこう。窓を閉め、寝床に潜り込む。

 眠れようが、眠れまいが、明日はやってくる。

 この世界で生きていくしかないのだ。

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