オリオンの恋人-ファンタジー(星)
寒い。
けれども、寒さと引き替えの澄んだ空気がある。
少しばかり星を見たくなって、南の丘に登る。
家々から少し離れた丘の上には、噴水のある公園があった。家々から離れることで、明かりが減り、星が見やすくなる。また、ベンチもあるので腰を下ろしてゆっくりと眺めることができる。
公園には、先客がいた。
噴水の前に、女性が一人たたずんでいた。
白いロングのワンピースを着て、ブロンドのウェーブのかかった髪を緩く一つにまとめている。淡く光っているような気がしなくもないが、色の所為だろう。
それにしても、ワンピースの生地は薄く寒そうなのだが、平気なのだろうか。
こちらは、がっつり着込んでいるつもりなのに、それでもまだ寒いというのに。
「こんばんは」
怪しいものではありませんよと、声を掛ける。吐く息が白い。
「寒いですねえ」
私がそう言うと、彼女は天を指し示した。
彼女の指の先へ視線をやると、3つ並んだ星がある。オリオン座の腰の部分、オリオンのベルトだ。
「わたしは、オリオンの恋人ですから」
なぜ、返事がそうなるのか。寒くないとでも言いたいのだろうか。
「恋人と待ち合わせですか?」
「あなたがオリオンですか?」
どうしたものか、全く会話が成り立つ気がしない。
なぜ、恋人を確認する必要があるのだろうか。
「いえ。少し星を見に来ただけですので」
「そうですか」
会釈して、その場を離れる。
噴水の反対側に周り、ベンチに腰を下ろした。
噴水の水の向こうに、白いものが見える。彼女がそこにいるのだろう。
目的の空を見上げる。
星を見るのは好きだが、星座に詳しくはない。
北極星を見つける目印となる北斗七星にカシオペア座、冬のオリオン座と夏の白鳥座くらいしかわからない。
神話に詳しいわけでもないので、オリオンの恋人だと言われてもわからない。そもそも、あの3つの星が特徴的で、オリオン座を覚えてはいるものの、オリオンが何者なのかわかっていないな、などと考える。
満月がずいぶんと昇ってきていた。
そろそろ、帰ろうか。
彼女はと、噴水の方を見る。この位置からは確認できない。
恋人に会えたのだろう。
今一度、オリオン座を探してみる。案外、満月と近い場所にあるのだな。
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