木枯らしの中 - 現代(風、猫、髪)

 信号が青に変わるのを待ちかねて、フライング気味に飛び出す。

 駅まではもう少し。

 踏切が警報音を奏でだし、遮断機が下りてくる。

 踏切の手前を左に曲がれば、そこが駅だ。間に合うか。


 息を切らせて駅に飛び込むも、ドアが閉まり、電車は発車した。

 あー、30分待ちだ。

 信号が赤になる前に渡れていれば、余裕で間に合ったのに。


 息を整え、鼓動を落ち着かせる為に、ホームのベンチに腰を下ろす。

 きっちり巻き付けたマフラーを外す。手袋も取ってしまう。少しだけとはいえ、思いっきり走ったから熱い。

 落ち葉が、カラカラと音を立ててホームを滑る。

 涼しいかもと思ったのも最初だけ、走った後でもやっぱり寒い。


 やっぱり、一つにまとめてこればよかったかな。

 手でポニーテールをつくって、パッと離す。

 いつもは一つにまとめているのだけれど、下ろした方が首の後ろが少しは暖かいのじゃないかと、今日は下ろしてきた。

 確かに、少しは暖かいのだけれど、さわさわ顔をなでられるのがくすぐったい。

 リップを塗った唇にくっついて、鬱陶うっとうしい。


 いそいそと、マフラーを再び巻き付け、固定する。手袋も装着した。

 火照ほてりはすぐに消えて、寒くなってきた。

 仕方ない、本でも読んで電車を待つか。電車に乗っている時間がそこそこ長いから、鞄に小説を入れている。朝は満員電車で読めないけれど、帰りはばらけるから、読むことができる。

 鞄から本を取り出してみたものの、ダメだ。

 手袋をしないと指先が冷たいけれど、手袋をしているとページがめくりにくい。電車に乗ってからにしよ。


 チリリン。暇だな、と思っているところに、鈴の音が届いた。

「ミケか。散歩?」

 声を掛けてみれば、止まってこっちを見てくる。

 駅長というわけではなくて、近所で飼われているだけなのだけれど、ちょくちょく見かける。

 ニャー。

「ごめん、なんでもない」

 かわいいねって、撫でている子達がいるのは知っているけれど、私は無理だ。端的に言えば、怖い。爪とか、牙とか。


 ただ、暇なので、どうするのかと見ていれば、ミケもこっちをじっと見ている。

 えっと、こっちに来られたら、私は逃げることになるんだけどな。

 いや、しかし、ここで視線を外すというのはそれはそれで……。

 ミケにとっては、私の思っていることなどどうでもよくて、何もないと分かると、プイとそっぽ向いて、フェンスを跳び越えていってしまった。

 とりあえず、こっちに来なくてよかった。


 人の話し声が近づいてくる。

 時計を確認すれば、もうすぐ私が乗れなかった電車が引き返してくる。

 とりあえず、それに乗って、一つ先の折り返し駅に行って、電車に乗ったまま折り返せばいいか。

 その方が確実に座れるし、寒さもしのげるし。どうせ定期券は一つ先まで持っているのだし。


 もう少し時間はあるけれど、腕をグッと前に出して伸びをすると、腰を上げた。

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