試練の日 - 現代(寒い夜に何かを待つ少年)
夜が明け切らぬ、午前 6時 32分。
田舎の小さな駅の短いホームに、少年が一人立っていた。傍らには、小ぶりのスーツケースが一つ。
1日のうちで、最も気温が低くなるのは、明け方。
良く晴れた夜に、地上のわずかな熱は逃げ、すっかり冷え込んでいる。
それでも、雪が降らなくて、それだけは良かったと思う。
駅までは、父に自動車で送ってもらった。
最寄り駅とはいうものの、家からは 10km以上離れている。田舎では、ざらにあることだ。
通学時は自転車で通っているが、今日は朝が早い。荷物も多い。父にも早起きしてもらい、送ってもらった。
鞄には、母がより早く起きて、作ってくれたお弁当が入っている。
道が凍てついているからと、早めに家を出た。
その結果、少々早く着きすぎた。列車が来るまでには、もう少し時間がある。
駅前に自動車が止まり、少女を降ろす。
送ってもらって、自転車で、徒歩で、少年少女が駅に集まってくる。
彼らの目的は一つ、県内で唯一のセンター試験会場の大学へ向かう、その為の列車に乗る。
試験開始は 9:30、1本遅いと最寄り駅に着くのが、9時になる。
大学の正門までは、徒歩で 20分。しかしそれは、すんなりと歩いた場合。
また、正門に着けば良いわけではなく、そこからそれぞれの会場となる建物の教室へ、慣れない広い構内を移動する。
もう少し、時間に余裕が欲しい。その結果、この時間になってしまう。
「
少年が名を呼ばれて振り返れば、中学から友人が向かってきていた。
亮の荷物は多くない。
「おはよう、寒いな」
喋れば、白い息が言葉とともに出る。
友人がスーツケースに目を留める。
「荷物多いな」
「今日は、ホテルに泊まるから」
笑って、答えた。
「明日、早いん?」
「いや、数学からやけど」
泊まることにした、経緯を説明する。
英語のリスニングまでを受けて帰れば、駅まで戻ってきた時点で 21時を過ぎる。
家まで帰り、夕食、お風呂と考えれば、就寝は 23時を過ぎてしまう。
明日に備えてしっかり寝ることを考えれば、少し厳しい。
その上、何があって遅くなるか分からない。
雪で、全体的に後ろ倒しになるかもしれない。
リスニングで不具合があり、再試験になるかもしれない。
1本後の列車になれば、全体的に 1時間ずれる。
できるだけ万全の状態で 2日目に挑もうと思えば、会場近くで宿泊した方が良いという結論になった。
ようやく、列車がホームへと入ってきた。
少年少女を吸い込んで、発車する。
普段の土曜なら、ガラガラの列車が、この日は多くの受験生を運ぶ。
家族の想いも載せて。
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