〜2500字

決戦前夜-ファンタジー(星)

 明日は、作戦の決行日。

 寝ておかなければならないことは、わかっている。けれども、色々と考えてしまって、眠れない。


 今回の課題は、水源に居座る魔物を倒すこと。

 雨が降ったら大騒ぎになるこの村にとって、水源は無くてはならぬもの。そこに居座った魔物が、水を止めない代わりににえを要求している。収穫の三分の一と、若い男を一人。

 贄となって魔物に近づき、ねぐらへ他のメンバーを誘導する。そして討伐。

 こういう場合の、お決まりのパターンだ。

 今回のメンバーは4人。うち、男は僕だけだ。贄の役目を負うのが僕になるのは当然だった。

 問題は、僕が魔法要員であること。しかも、敵の魔物は鼻が良く、メンバーが近くに潜めない上に、魔法の発動媒体となる杖を持ち込むことができない。全くの丸腰で敵の懐に入るしかない。

 敵にばれたら、おしまいだ。作戦がおじゃんになるだけならまだいいが、逃げ切れる自信は全くない。


 コン、コン、コン。

「トウヤ、起きてる?」

 ノックの後に、女性の声が続く。

「はい。今、開けます」

 鍵を外して、扉を開けると、栗毛をポニーテールに結った女性がいた。課題を解決するため、共に旅をしている剣士のレーナさんだ。

「とりあえず、中へどうぞ。周りにも迷惑になりますし」

「うん、そだね」

 ランタンを机に置き、向かい合って椅子に腰を掛ける。

「その、明日でしょ。だから、これを預けておこうと思って」

 レーナさんが首飾りを外して、差し出す。気になったのは、首飾りよりも左手に巻かれた包帯だった。昼間は、そんな物はなかった。

「どうしたんですか、その手?」

「ああ、これ? ちょっと矢尻を鍛えてた。弓なら、離れたところから攻撃できるでしょ」

 レーナさんはあっけらかんと言うが、魔物に対して有効な攻撃は、精神力を媒体を通して具現化する魔法と、使用者本人の血で鍛えた金属だけだ。だから、矢のような使い捨てるものは使用しないのが、普通だった。

 いくら魔法の道に進んだとはいえ、そのくらいは知っている。

 僕がただ、どうしよう、どうしようと思っているだけだった間に、レーナさんは矢の用意をしてくれていた。

「こらこら、そんなに考え込まない。丸腰のあんたを敵に送り込むんだから、このくらいはしないと。大丈夫、絶対にみんなで戻ってくるんだから」

「はい」


「で、そろそろこれを受け取ってくれないかな」

 いそいそと手を出して、首飾りを受け取る。石に紐をつけただけのもののようだった。

「これは、なんなんでしょう?」

「お守り。星の石なんだって。お父さんが星が落ちた跡で見つけたものを、お守りにってくれたの。ちょっと重いでしょ」

 確かに、見た目から想像する重さよりも、重い。

「貸してあげるから、ちゃんと返しなさい」

 わざわざこのために来てくれたのだから、ちゃんと借りておこう。でも、

「明日の魔物って、鼻がいいんじゃ……」

「石と紐だから、大丈夫でしょう」

「いや、レーナさんの女性の匂いが染みついてるかなって」

「うーん、贄の準備は性別関係なくするし、女性の匂いがついているものくらい大丈夫だと思うけど。不安なら、やめておこうか」

 じゃあ返してと、右手が差し出される。思っていた反応と、違う。

「そうですね、大丈夫ですよね。しばらくお借りします」

 慌てて、自分の首に掛ける。重みが、安心感に変わる。

「そう。じゃあ、用も済んだし、帰るね。ちゃんと寝ておかないと、明日に響くし」

 扉まで、送る。

「あたしと、あの二人で、絶対にあんたのことは守るから。心配せずに、ちゃんと寝なさいよ。おやすみ」

「はい、お休みなさい」


 大丈夫。僕にはレーナさんがついてくれている。

 作戦通り、ねぐらへの道標をつけることを考えればいい。

 大丈夫。

 大丈夫。

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