お人形遊び - 現代(ルニア)

「美しい。とても綺麗だ」

 白磁色の頬にそっと手を触れる。

 すべすべの肌、手を掛けただけのことはある。

 数ヶ月掛け、ようやくここまで辿り着いた、理想の女性。我ながら上出来だ。

 惚れ惚れとその肢体を舐め回すように見つめる。

「いけない、裸のままでは風邪をひいてしまうね。どんな服が似合うかな」

 クローゼットを開け、何着か取り出す。彼女の為にと、事前に用意していた服だ。

 いくつか合わせてみるが、どうもこれだという物が無い。

 似合わないわけではない。けれども、理想とは何かが違うのだ。

 やはり、本物を見ないまま、想像で服を用意したのが良くなかったようだ。

 これぞという物を、これから準備する他ない。しばらくは、シーツで我慢してもらおう。


 彼女に似合う服をと考え、生地からこだわってドレスを縫い上げた。彼女は、そこまで手を掛けるに値する、理想の女性なのだから。

 少しくすんだ空色のドレスだ。

 彼女の美しさを引き立たせるのに、華美なドレスはよろしくない。けれども単調すぎる物よろしくない。

 露出は控えて、長袖に。裾も長くした。けれども、美しい鎖骨のラインを隠すのは惜しい。襟元は、少し広めにした。

 裾の広がりは必要ない。ドレープをつけたものの、スカートは広がらないようにした。

 試行錯誤をし、こだわって作りあげた、彼女の為だけのドレス。

 制作中の一月半、ずっと彼女を覆っていたシーツをはがし、ドレスを着せる。

「うん、似合っている。似合っているよ、とても」

 少し化粧をほどこせば、完璧だった。装飾品を足すのは、蛇足にしか思えなかった。

 質素な美しさ、これこそが求めていたものだと思った。


 毎日のように彼女に声を掛けた。今日も綺麗だね、美しいよ、素敵だね。

 けれども、日が経つにつれ引っかかりが生まれてきた。

 本当に彼女の美しさは、自分が求めていた美しさなのか。それ以前に、本当に彼女は美しいのか。美しいと感じたのは、間違っていたのではないか。

 疑い出せば、どんどん信じられなくなっていく。

「キミはどう思う?」

 問いかけても、柔らかな頬笑みをしか返ってこない。

 彼女は自分の理想ではなかったのだ。


 彼女を抱え、普段使用していない部屋へと移動する。

 扉を開ければ、これまで作り上げてきた人形が何体も並んでいた。

「今日からは、ここがキミの居場所だよ」

 部屋に運んできた一体を追加する。

 扉を閉め、考える。今回は半年も保たなかった。きっと、質素だったのが良くなかったのだ。

 ならば、今度は華美な美しさの理想の女性を作ろう。

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