合歓は水辺がよく似合う - 現代(梅雨明け、転校生、格子窓)
コツン。コツン。
降り出した雨粒が、格子窓の薄いガラスを時折叩く。
また降ってきたと外を見れば、プールサイドのその外側に植えられた
ようやく、梅雨が明けるのか。確か祖母が「合歓の花が咲いたら、梅雨が明けるよ」と言っていた。
大正時代に建てられたこの校舎には、父も祖父も、そして祖母も通ったはずだ。
あの合歓の木がいつからあるのかは知らないが、祖母もこんな風にあの木に花が咲いているのを見ていたのだろうか。
建った時には、ようやく文明開化の波がこの町にやってきたと、話題になったそうだが、現在の俺からすれば、この古い校舎はなかなかやっかいだ。
風が吹けば、格子窓にはめられた無数の板ガラスがカタカタと音を立て、冬にはすきま風よどうぞいらっしゃいという状態なのだから。
建て替えの話も、時折出るらしい。
けれど、そんな無駄なことするくらいなら、この古い建物を保全する方がいいと俺は思う。
別に、気に入ってるわけじゃない。どうせ無くなることが見えているのに、建て替えるなんて無駄だから。
空き教室だらけの校舎。どうにか保っている一学年一クラス。それも、今年まで。
「転校生っ」
声を掛けられ振り返る。
いったい俺は、いつまで転校生呼ばわりされなければならないのか。
転校してきたのは五年前、この中学校に入学するよりも前の話だというのに。
「何見てたん?」
「あれ」
俺の示す方をのぞき込む。
「プール? 下級生の女子の水着でも覘いてたん?」
やめてくれ、教室中の女子の視線が集まる。
「んなワケねーだろ。用があったわけじゃないのか?」
「いやー、なんか黄昏れてたから、声掛けてみた」
「それだけ?」
「そ。それだけ」
それじゃ、と別のところへ喋りに行く。
本当にあれだけだったようだ。本当に、何しに来たんだ。
ふと、思い至る。俺は、そんなに深刻そうな顔をしていたのだろうか。思い悩んでいるように映ったのだろうか。
席を立ち、追いかける。休み時間はもう少し。
今度は俺が声を掛ける番だ。
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