飴と傘


『飴と傘』


作:イズミ・アッシュブルー

絵:ルービット・サーチャ


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ベッコは不思議なものが大好きで、色々なものを集めている女の子です。今日はハカセのところへやってきました。薄暗い家の中を照らす不思議なランプたち。博士が奥の部屋から出てきます。


「見て見てハカセ!」


「やあベッコ、今日も何か見せてくれるのかい」


自信満々な顔をしてそれからニッコリしたベッコは、透明な瓶に入った何かをお気に入りのカバンから取り出しました。瓶の中には赤黄緑と色とりどりの宝石のようなものがたくさん入っています。


「それは?」


「これは“アメ”って言うの。すっごく美味しいんだよ、ハカセにも一つあげるね」


興味深そうに覗き込むハカセ。ベッコはぐっと力を入れて金属の蓋を回すと、緑の宝石を一つ選んでハカセに渡します。ハカセにそれを渡してから自分の分も取って、先に口に入れて見せました。


「ほらね、食べられるよ」


「分かった分かった、ありがとうね。いただくよ」


ハカセも小さな球を口に入れます。


「なんとも甘い。美味しいね」


「でしょー」


ハカセが喜んでくれたようで、ベッコも嬉しそうです。

ベッコは今日もハカセの難しい話を聞いて、聞きたいことをいくつも聞いて、話したいことを話しました。ハカセは何でも知っていて教えてくれます。



「ところでベッコ、さっきのアメはどこで手に入れたんだい」


「遠い町でパパが買ってきてくれたの! 珍しいんだって」


「そうかあ、優しいパパだねえ」


「うん!」


ベッコのお父さんも珍しいものを時々集めます。ベッコの自慢のお父さんです。



* * * * *



「うーん…」


美味しい美味しいアメはベッコが一つ食べると一つ減ってしまいます。できるだけ全部の色を残すように食べていましたが、もうどの色も一個ずつになってしまいました。パパに聞いてみましたが、またアメのたくさん入った瓶を手に入れるのは難しいと言います。


「うーーーん」


甘く溶けていくアメを食べたいベッコ。でも赤も緑も黄色も他の色も、もう一つしかありません。

ふと窓の外を見ると、空がどんよりと黒い雲で隠れています。すぐに雨が降り始めていました。


「今日は雨かあ。探検はやめようかなー」


少しずつ気持ちも落ち込んでいくような気がして、“いっぱい”ではなくなってしまった瓶をまた眺めます。一つ食べて、元気を取り戻すべきなのかもしれません。


「…あ、そうだ」


何かを思いついた顔のベッコ。アメの入った瓶をお気に入りのバッグに詰め込むと、赤い傘を持って家を飛び出しました。

小さなナダラカ丘を越えて、歩き慣れたヒラタイ草原を進めばハカセの家は見えてきます。雨に濡れた外の景色もベッコは好きでした。



* * * * *



「ハカセー」


「おやおや。雨の日にやってくるとは思わなかった。どうしたんだい? タオルケットを持ってくるから待っていておくれ」


ハカセがタオルケットをとってくる間に、いつも借りているお絵かきボードを見つけたベッコはクレヨンを握ります。思いついた大発明をハカセに教えるために。


「ほーお、これはこれは。よく考えたね」


戻ってきたハカセはベッコの大発明を聞いて目を細めました。


「空からね、雨じゃなくてアメを降らせるの!」


ハカセが名づけるならばアメ降らし機。ヒラタイ草原に降り注ぐ色とりどりのアメが全部のクレヨンを使って描かれていました。


「これならいっぱいアメを食べられるし、無くなってもまた降らせればいいんだよ!」


「その通り、アメには困らないね」


「ハカセ、これ、作れる…?」


「うーむ…。考えてはみるが、難しいと思うなあ」


「えーどうして。ハカセは何でも知ってるのにー」


ハカセは珍しく困った顔をしています。アメを降らせるのはとっても難しいことなのかもしれません。


「考えてはみる。ベッコも一緒に考えて欲しいな。もしかすると、ベッコが作ることになるかもしない」


「分かった、私も考える!」


本当にアメが降るならそれは夢の機械です。それなら頑張れるはず。ベッコはしっかりと頷いて、新しい紙にクレヨンを向けます。



* * * * *



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* * * * *



その日、ベッコはかつてハカセと実験を繰り返したヒラタイ平原跡地に立っていました。目の前の小さな範囲に、いくつもの色と形を持った“アメ”が降り始めています。水が降る“雨”ではありません。甘くて美味しい、本物のアメです。


「ハカセにも見せてあげたかったな。私、できたよ」


草木を失った荒れ地に綺麗な色をした宝石がたくさん散りばめられていきます。少しだけ嬉しそうで、どこか悲しげなベッコ。彼女にはずっと気になっているハカセの言葉がありました。


『アメは威力がありすぎるのかもしれないね。昔々、人間は傘なんて差していなかったんだ。私たちがアメを降らせるなら人がいないところだけにしないと、人間には新しい傘が必要になる』


ハカセはそう言ってまた難しい顔をしました。ハカセの後ろには穴がたくさん開いてしまった傘がありました。それからハカセは今までよりも難しい話をたくさんしてくれました。ところどころ思い出せない話もありますが、今のベッコには、ハカセの言っていたことが分かります。


「もうちょっと出力を調整して、あとは、足りない色にでも挑んでみようかな」


ベッコは空を、“アメ雲”の隠していない部分の青い空を見上げました。



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