第37話 牧場での対決1
ーーー霜霧牧場
ゲンドロウ一家はピクニック気分で霜霧牧場にやってきた。
“チチチ……”
高原に小鳥が鳴いている。
ここは霜霧山の中腹にある高原の牧場だ。
「モオオオオ……」
ここの牧場にはたくさんの牛がいる。
今日は天気のいい日曜日。
“ワイワイワイ……”
子供連れの家族がいっぱい来ている。
「わーい!」
“タッタッタッ……”
ユラオラが手にプラスチックのソリを持って走っている。
向かった先は草スキー場。
「あっあー!待て待てユラオラ!」
「ゲンちゃん無理しないで!」
「いや、先ず、ボクが見本を見せるから」
「大丈夫だよ、ゲンちゃん」
「いやいや、子ども達が怪我しないようにボクが試走してあげるんだ」
「相変わらず心配性ねゲンちゃん」
ミドルはユラオラに手招きする。
「なあに、ママ」
「ゲンちゃんの顔をたててあげましょ。
だけど、ゲンちゃんきっと失敗するわよ」
「うん、うん、どうだね」
「そうに決まってる!」
ミドルとユラオラは見物をきめ込む。
「いくぞ!」
“ザザザ……”
ゲンドロウは子供達にかっこいいところ見せてやろうと、勢いをつけて滑り出した。
だが、案の定、途中でバランスを崩して転んでしまった。
“どてっ!ごろころ”
「あいたー!」
あごにアザを作る。
「ギャハハハハ……」
「やっぱりねえ!」
「なに笑ってんの?こっちは痛んだけど……」
心配性のくせに不器用なゲンドロウがミドル達にとってはおかしくてたまらない。
“シャシャシャー……”
「やっほー!」
ユラオラはスイスイ滑って行く。
「よし、ボクももう一丁!」
“どてっ!ごろころ”
ゲンドロウは何回かトライするが、どうしても転んでしまう。
「ゲンちゃん、運動神経ないんだからあきらめなさい」
ミドルはゲンドロウに缶コーヒーを手渡す。
「ボクはあごだけ、何回もすりむいてるよお……
くううう……」
“チチチ……”
「モオオオオ……」
「ユーラ!オーラ!
お昼だよー!」
「ゲンちゃん!お腹空いちゃった」
「ボクも!」
「よおし、さあ、みんなお弁当食べようか」
「牧場の近くがいいなあ」
「はいはいはい、ちょっとどいてー」
“ばっ”
ゲンドロウがレジャーシートをぱっと広げる。
ゲンドロウの顔はあざだらけ。
「いただきまーす」
ユラオラがゲンドロウの作ったおにぎりをほおばった。
「もぐもぐ、おいしいよ!
ゲンちゃん!」
「サンキュー!早起きして作ったんだ」
“プシュッ!ゴクゴク……」
「ぷはーっ!ああ、おいしいよ。
ゲンちゃん」
「でしょ、たっぷり冷やしておいたよ」
「こう言う広いところでお弁当食べるとおいしいわね」
ゲンドロウはアゴのあざをさすりながら不思議に思っていた。
「おかしいな、いつもは転んだりしないのになあモグモグ……」
「ゲンちゃん、今日は運が悪かっただけだよ」
ミドルが慰める。
「運と言えば……
ところでユーラとオーラ」
「なあに?ゲンちゃん」
「邪運化ってまだ見えてる?」
ゲンドロウが周りを不安そうに見回しながら聞く。
「うん! さっきゲンちゃんを邪魔していたのは邪運化だったよ」
ユーラが平然と答えた。
「うん、牛に似ていた」
オーラも頭に指をあてて角に見立てながら答える。
「ゲンちゃんがソリですべるたんびに悪さしていたよ」
「なにーっ!」
ゲンドロウは立ち上がって拳をにぎった。
「やっぱりねえ!
ボクがいくら不器用でもあんなにひっくり返るのはおかしいと思ったんだよ」
ちょっと安心したゲンドロウ。
「じゃあさ、ユラオラはボクが邪運化に転がされるのがずっとわかってたの?」
「わかったに決まってる!」
オーラが元気よく答えた。
「何で黙ってたんだよー!」
「ゲンちゃん大人げないなあ」
「だってえー、言ったらゲンちゃんまたパニクるから」
「ユーラはよくわかってるわねー」
ミドルがビールを飲みながら笑う
「ミドルちゃん、よく笑っていられるな!」
ゲンドロウの不満は募るばかり。
「ユーラ!その邪運化はどこに行った?」
「あっちの売店の方に行ったよ」
「売店は人がいっぱいじゃないか!そんな所で悪さされたらみんな迷惑するぞ!」
「そっかー」
ユーラが納得。
「そうね、それはまずいわね」
ミドルも気にする。
「よおし、ボクが止めてやる!」
ゲンドロウ腕まくり。
「やめなよゲンちゃん、ゲンちゃんには無理だから」
ミドルのその言葉でゲンドロウの闘争心に火がついた。
「言ったなあ、よおし!倒してやろうじゃないか」
「さあ、ユラオラ行くよ!」
ゲンドロウがさっさと売店の方に歩いて行く。
「う、うん」
仕方なくユラオラが立ち上がる。
「あら、よけいムキになって 逆効果だったわね。
しょうがない ワタシも行くか」
ミドルも重い腰をあげた。
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