第8話 謎の洞窟

8話 謎の洞窟


——クマさんとユーラとオーラ

三人はしびれるような空気の渦に引き込まれてもまれる。

“ウワンウワンウォオンオンン……!!!”

もまれ、もまれて目が回る。

“シュロシュロッパ“

何回転したかわからない。

“ポーン!”

どこかに放り出された。

“ゴロンゴロンドテッ”

「ううううん……」

クマさんは目を回しながらも意識はしっかりしていた。

視線も定まらないがユーラとオーラが気になった。

「ユラオラおるかーっ」

「じっじん!」

声はすぐ近く、ユーラとオーラも同じように目の前で転がっていた。

「おお、無事か?」

「ここ、どこ?」

どこを見渡しても暗くて静かだ。

「どこだろな」

目を凝らしていると次第に目が慣れて来た。

「うっすら見えて来たどい」

そこは洞窟のような天井の低い空間だった。

「暗くて寒いね」

「じっじん、どこなの?」

「ワタイもわからん……気持ち悪い所どいな」

暗く静かでひんやりとしたモヤが足下にからんでくる。

「足が冷たいよ」

「なんか歩きにくい」

モヤのかかった足下には、コブシ大のごつごつとしたカタマリが無数に並んでいた。

「変わった石どいな」

カタマリは白と黒のまだら模様になっていた。

その無数の石は重たいモヤに包まれて冷やされていた。

「こりゃ普通でないところに迷い込んだみたいやな。

またワタイの生きる道を何かが邪魔しとるんかー!」

クマさんの嘆きが暗い洞窟に響いた。


「じっじん、寒いよお」

「よおし、こっちどい」

クマさんはユーラとオーラを小脇にそれぞれかかえて暗く冷たい洞窟を歩き始めた。

しかし洞窟はどこまでもどこまでも、続いている。

どこにも出口らしいものがない。

焦るクマさんはどのくらい時間がかかったかわからない。

「ユラオラ、どうした?」

クマさんの小脇にかかえこんだユーラとオーラは寒さのため、しなだれている。

「どんたこ!

なんでこうなるとかーっ!」

クマさんは足下のまだら模様の石を蹴飛ばす。

“ごがががーん!”

それは予想以上にはじけた。そして洞窟の壁に当たり、その衝撃で亀裂が入り、わずかな隙間を開けた。

“さあああー”

隙間からほんのり明かりが見える。

「おあああ、やったど!」

クマさんは明かりの方へ必死で歩こうとする。

“ごんがががうーん!”

しかしはじけたまだら模様の石の振動は次第に全体に広がっていった。

“ゴトゴト”

いくつものまだら模様の石が騒ぎだした。

“ゴトゴトゴソゴソ”

クマさんは動く石に引っかかってうまく歩けない。

「くおおおお!

もう少しどい」

しかしなんとか明かりまでたどり着く。

「ユラオラ、ちょっと待っとれ」

“ぐうううぐっ”

クマさんは明かりの穴に頭を突っ込む。

「おおお……

ここはまた何だ?

何もないな」

外と思われる所は、明るく広く、石だらけの中よりは安全に思えた。


「じっじーん!」

ユーラとオーラが呼んでいる。

「おお、ユラオラ気がついたか」

クマさんはゆっくりと首を抜く。

“ドカッ!ドカッ!……”

「それっ!それっ!」

まだらの石をぶつけると案の定、隙間が広がった。

まずクマさんが外に出る。

異常がないのを確認すると

「ほれ、ユラオラこれにつかまれ!」

クマさんは頭の鉢巻きをはずして輪っかにして掴んで手を伸ばし、ユーラとオーラを引き上げる。

「よいしょ、よいしょ!」

クマさん達が抜け出たところは静かな、乳白色の空間だった。

「ここはどこどいのおー」

「何にもないね」

「心配せんでいいどい、ユラオラ。

今にわかる」

不思議な空間は砂丘のように何もない。

でこぼこしたくぼみの下には、ぬらーっとした泥のようなものがただよっていた。

白く粘りがあるが触れるとサラッとしていた。

「妙な感触どいなー」

「これスライムみたい」

ユーラとオーラは無邪気に、足下の白い泥で自由に形を作って遊んでいる。

「じっじん、ほら、このスライム、いろんな形を作れるんだよ」

スライム状の泥は粘土みたいに自由に形を作れた。

ユーラがとりあえずダンゴを作っている。

“ボムッ!”

「どうした?」

「強くにぎるとはじけるよ、じっじん」

強く押しつけると弾ける性質のものだった。

「ああ、そうどいの」

クマさんは生返事だ。

ダンゴより、今置かれている状況を理解するのに必死だった。

見渡しても地面と空との境い目がない。

何もわからないまま、さらに時間がたった。

「なんでこうなるんどいかな。

ワタイは……」

いつものようにクマさんにイライラが湧いてきた。

“ブンブン、ブーン”

イライラが募るといつものようにハエがたかってくる。

「またかー」

クマさんは脇差しにしていたタタッ剣を取り出し、ハエを払い出した。

「こん、どんたこがー!」

クマさんに今までにない躍動感がある。

得体の知れない空間でクマさんは研ぎすまされた感覚を知る。

“びしっ!ばしっ!しゅぱったん!”

「じっじん!あそこ」

「……ドジャーン……」

“どろどろ……”

「なんどい、なんか今聞こえんかったか?」

「うん、聞こえた」

「悪い予感がするどい」

「ドコジャーン……」

今度ははっきり聞こえた。

それはクマさん達が抜け出した洞窟の穴から聞こえてきた。


クマさんとユーラとオーラがツバを飲み込みながら注目していると

穴から何か生き物が出てきた。

“ぬおおおおおおおお……”

赤い体でずんぐりしていて、口が大きく、短い手足がついている。

頭から磁石のようなものを出している。

ドラム缶のような生き物は先ほどの笠をかぶったブタとは雰囲気が違う。

「じっじん、あれなあに?」

「さあな」

赤い生き物は穴から出ると当たりを見渡した。

何かを探しているように見えた。

「マグレッター!」

言葉のような、鳴き声のような、奇妙な音を発した後、

「ドコ、ドコ、ジャーン!」

と叫んでどこかに走って行った。

「はて、何どい、あれは?

郵便ポストのお化けか?」

クマさんは郵便ポストの消えた方向を見る。

「じっじん、穴を見て!」

“ごそごそ”

「石ころが動いてるよ」

“ごそごそごそ”

間もなく、洞窟の穴から次々に石ころが飛び出してきた。

「何どい!何どい!

洞窟にあったまだら模様の石か……」

“ごそっころん”

「痛てっ!」

“ごそごそごそごそころんころん……”

「なんだ止まらんようになってきたどいな」

クマさんはなんとかまだら模様の石の飛び出すのを止めようとするが、止めようがない。

「ど、どうしたもんどいか」

まだら模様の石は容赦なく、クマさんの顔に、体に当たってくる。

「痛てっ!痛ててて!

ユラオラ!気をつけろ!」

「大丈夫……」

ユーラとオーラはまだら模様の石をうまく避けている。

気がつくとそこら中に転がっていた。

「悪い予感がするどい」

クマさんの不安はイライラに変わった。





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