第25話 先祖との出会い2

「オマイはよくあんな危ない場所に立ってたどいな」

といいながら頬被りの手ぬぐいをとった。

素顔の男は見た目もクマさんそのものだった。

「オ、オマイはワタイやないか!

若い頃の……」

「はあ?」

「なんどい、おかしな頭して、ちょんまげか?」

「別におかしくはないどい。

それにアンタとワタイは似ても似つかんどい」

「今はのっぺらだが、元はオマイの顔じゃったんどい!」

混乱するクマさんを無視して、もうひとりの男がつぶやいた。

「ここ連日の亜空の丘での合戦を見とらんのか」

そこには歩平そっくりの人物がいた。

「歩平どん!歩平どんじゃなかか!」

「ホヘイ?誰じゃそりゃ」

「この人はそこの神社の神主でな。

となり村の尼僧さんに手を出しおってな……」

「こら遇さん!余計な話するな!」

「僧兵に追われてここに隠れておるんじゃ」

「そうか、女好きはそっくりじゃが、アンタは歩平どんじゃなさそうどいな」

クマさんはふたりの会話を聞きながら、どうやら自分の住んでいた時代ではないと理解する。

ちょんまげの男がつぶやいた。

「今時、こんな戦場に足を踏み込む間抜けがおったか」

「ここは戦場なのか?

あ、いててて……」

無数の矢の攻撃でクマさんのつるんとした体に無数のスジがはいっている。

「おじちゃん、塗り薬こっちにあるよ」

洞窟の奥から子どもの声がした。

「奥にだれかおるとか?」

クマさんが目を凝らしてよく見ると洞穴の奥にはたくさんの子どもと母親がいた。

「戦場から逃れてここにかくまっとるんどい」

「この洞窟は遇さんが掘ったんじゃ。すごいじゃろ」

「まあ、石を掘らせたらワタイの右に出る者はいないだろうな」

「ほうほう、ワタイと同じどい」

掘った人物にクマさんは親近感を持った。

横に寝かされたクマさんに村の女や年寄りが薬を手に待っていた。

「おじちゃん、大丈夫?」

手当してもらっているクマさんを子ども達がどやどや取り囲む。

「ひどいなあ、はんぱない傷のスジだね」

「スジおじさん」

「つるんとした体にスジがはいってまるでウリのようじゃ」

「ウリみたいだから、ウリおじさん」

「どの時代の子ども達も無邪気なもんどいの。

ここは何時代どい」

クマさんの質問が意外すぎて男達が戸惑う。

「はあ?何時代っていわれてもなあ」

「この時代じゃよ」

「オマイこそ、どこの人間どい」

クマさんはちょっと考えて答えた。

「ワ、ワタイは霜霧山町のクマというもんじゃが、オマイさんは?」

「ん?霜霧山?町か、この辺が霜霧山じゃがな」

「霜霧山にはこの集落しかないんじゃがオマイは見ん顔じゃな」

「ワ、ワタイは《一ヵ八熊(いちかばちくま)》といいますどい」

「イチカバチ?」

「はて?ワタイは《一ヵ八遇左絵門(いちかばちぐうざえもん)》というんじゃが……」

クマさんを連れて来た男が名乗った。

オマイはワタイの親戚か」

「たぶんな……」

ふたりは目を合わせ、不思議な親しみを感じる。


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