第26話 先祖との出会い3

「ワシは神主の《色羽金平(いろはきんぺい)》というんじゃが、アンタはどこから来なさった?」

「……」

クマさんはじっくり考えて答える。

「どうやらワタイはアンタらのずっと先の時代から来てしまったどいな」

遇佐絵門の顔をしっかり見て言った。

「ワタイはオマイさんの子孫どい」

「子孫?」

クマさんの首筋にほのかにまた渦が回った。

「こりゃまた、おかしな事を言うのお」

遇左絵門は不思議そうな顔をして首をひねる。

のっぺらのクマさんと首筋の渦巻く何かを目を見て、もう一回首をひねった。

「今、ここでは何が起こっとるんどい」

「クマさんとやら、ほんとにこの時代を知らんようどいの」

金平の傍らにはいくつかの巻き物があった。

「ちょっと待っちょれ、ここにこの地の歴史があるんじゃ」

いくつかの巻き物を見ながら金平が説明する。

「話せば長いどんが、この霜霧山は神の国でな。

人々はあらゆる生活の場所に神様を奉っておった。

特に、火の恵み、土の恵み、水の恵み、食の恵み、音の恵み、精の恵み、華の恵み。

この七つは重要とされとった」

「ふうん、そうけ」

クマさんは説明を聞くのが苦手なのか、間が持たず、キズをさする。

「五穀豊穣、延命長寿、商売繁盛、千客万来、家内安全……」

「わかった、わかった!

それでどうしたんどい」

クマさんは気が短いので、じっと聞いていられない。

「七つの恵みの神は《七地下神(ななちかじん)》と呼ばれておった」

「七地下神?」

「そう、七年に一度、地下から現れるじゃ」

「だから七地下神か!」

「民衆が信心すればするほど、七地下神は応えてくれる」

「五穀豊穣、延命長寿、商売繁盛、千客万来、家内安全……」

「だからそれはもういいどい!」

「しかし、ある時、この地が水枯れになってしもうてな。

何年も何年も続いたんじゃ」

「ワタイらは七地下神が現れるのを心待ちにしとった」

「そしてまた七年目に現れたんじゃ。

亜空の門から」

「亜空の門か」

「ワタイらはシュロ所に集まって神様に雨乞いをお願いしたんどい」

「しかし、七地下神はワシらの願いを無視しおったんじゃ」

「それどころか、ますます日が照りつける」

「結局、困った時の神頼みは無駄だったんどい」

「運が悪かったなあ」

「ワタイらは神様を信じなくなった」

「あきらめてシュロ所を離れようとした時じゃ」

「な、なんと七地下神が急に《悪の神》へと変わっちまったんどい!」

「悪の神?」

「そうどい!亜空の門から悪さ生物を引き寄せたんどい」

「悪さ生物は目に見えにくいやつでな、いつの間にはワシらの近くで悪さをしおる」

「知っとるどい!」

「知っとるのか?」

「その悪さ生物は《邪運化(じゃうんか)》というんどい」

「じゃ、邪運化か!」

「そうどい、ワタイの宿敵どい」

“ふつふつふつ……”

クマさんの血が、またたぎってきた。



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