第27話 先祖との出会い4

金平は巻き物に筆を走らせている。

「邪運化か、じゃじゃーんとね」

「七地下神はその邪運化を亜空界からどんどん引き寄せて、ワタイらをさらに混乱させた」

「人と人が不運に落ちて、人と人を信じられず、人と人が混乱していくんじゃ」

「民衆は邪運化の悪さばっかり警戒するようになって、田も畑も手につかんのどい」

「悪の神、七地下神が邪運化を操っとるんじゃからな」

「侍も邪運化のおかげで民を顧みず……じゃ」

「今じゃ、国が乱れに乱れ、不運の戦国時代になっとる」

「それはひどいどいなあ」

「中央の権力もようやく動き出してな、将軍様の命令で七地下神を倒そうと、お上から名の馳せた武将がやって来た」

「天狗のように素早い連中じゃ」

「ほう、それでどうなった」

「やっつけたがな!

こてんぱんに、七地下神を」

「ワシらは祝杯をあげた」

「よかったがな」

「ところが、それはつかの間やったんどい」

「あの、門の輪っかがジンジンと震えだしてな」

「かん高い音がきこえて来た」

「あの音は忘れんぞ!」

「ケジャッコー!ってな」

「邪運化の親玉が現れたんだよ!」

奥から子どもの一人が叫んだ。

「一度やっつけた七地下神が再びチカラをつけてよみがえったんじゃ」

「邪運化の親玉が操っていたんだよ!」

別な子どもが叫んだ。

「最初からその親玉が操っていたんだよ!」

「七地下神はその親玉の後ろ盾で不思議なチカラを使いよった」

「どんなチカラどい」

「《消し炭のチカラ》で家々が一瞬にスミでボロボロじゃ」

「《鉄サビのチカラ》で刀、兜、鍋釜がサビで真っ赤」

「《ヘドロのチカラ》で作物が腐って、臭い臭い」

「《たぶらかしのチカラ》で、男は骨抜きじゃ」

「ケジャコケジャコと言って手がつけられん」

「もう、どんな武将もかなわなかった。

「亜空の丘は再び恐ろしい戦場になってしもうた」

「その、ケジャッコーっていう音もワタイは聞いたような……」

「本当か?」

「邪運化は見えないんだよ!大人には」

子ども達が叫んだ。

「ワシらも、もうこれでおしまいじゃ

もういちど、尼寺に行きたい」

金平は頭を抱えた。

「もう、何も信じられん」

「大人は純真ではないからな、不運で混乱させるのが邪運化の狙いどい」

クマさんの解説にみんなが改まって震えた。

「ドンタコ!まだあきらめるのは早いどい!」

遇佐絵門はそんな金平達に怒鳴る。

「ワタイは奇跡が起きるのを信じとる。

その証拠に朝からあの奇妙な稲妻どい!」

遇佐絵門は人差し指を上に向ける。

「空にネズミ色の重い雲が立ちこめて周りの山も見えん。

今までにこんな光景を見たか?

見とらんやろ!」

上に向けた人差し指を今度はクマさんに向ける。

「そしてクマさん、オマイが現れた」

「ウリのスジおじさん!」

子どもの一人が叫んだ。

「なるほど、そうじゃ、そうじゃ」

金平と洞穴の民衆もうなずいた。

「これは新たな巻き物に記しておかねばな」

金平は緑色の巻き物に書き込んで大事そうにしまった。

「クマさん!アンタが救ってくれるとか?」

みんなに注目されてクマさんは戸惑う。

「い、いや、ワタイはただ迷子になっただけどい……」

クマさんは期待されても何も手だてが浮かばなかった。

「た、大変!七地下神が戻ってきた」

外を見張っていた子どもが声を押し殺して知らせる。

「亜空の門に帰って行くんだな」

「また邪運化を引き寄せる気だ」

「クマさん、オマイも一緒に行くどい!」

「ワ、ワタイもか……

そうどいのお……」

クマさんは引くに引けない状況になっていた。

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