第28話 子どものチカラ1
洞穴の出口のムシロの隙間からそっと覗くと、黒い胴衣に白い羽織を着た四人の人物がいた。
「クマさん、こっちから見てみれ、あれが七地下神どい」
クマさんは遇佐絵門に促されて前に出る。
「あれか、頭に頭巾をしとるから顔はわからんどいな」
七地下神は鳴り物を響かせながら、調子良く足を運びながら進んでいる。
“ドンドン、ピーヒャラ、ジャーンジャン”
一見、平和な行列のようであるが、そうではなかった。
「亜空の門に向かっておるな。
また邪運化の親玉が呼んどるんどい」
遇佐絵門、金平、クマさんの三人は鳴り物の後を付いて行く。
その後ろから邪運化の見える子ども達も付いて来た。
亜空の丘のてっぺんには貫木が楕円の形をした、独特の形状の亜空の鳥居があった。
亜空の門と呼ばれる鳥居の足下は現空界と亜空界の出入り口になっているらしく、陽炎のように空気が揺らいでいた。
門の下にやってくると四人の七地下神は出入り口に向かって手をかざした。
「あれだよ、あの輪っかのところに居るんだよ!」
子ども達は震えながら指差した。
「遇さん、やっぱしもうだめじゃよ」
「ケジャコ、ケケジャコー」
「あの音だ」
「出おったか?邪運化の親玉が」
「あれと似た奴、ワタイも見たど!」
「クマさん、オマイには見えるんか?」
「ああ、なぜかワタイには見えるどい!」
「クマさん、あんた図抜けとるなあ」
遇佐絵門と金平に期待が湧いて来た。
「おじさん達、いよいよあの親玉が姿を現しそうだよ!」
「そうしたらどうなるんじゃろ」
「もう、ワシらはおしまいじゃろうな、残念やけど……」
遇佐絵門の無念の言葉を聞いて、クマさんははげしく邪運化への怒りがこみ上げた。
「くううううくくく!!!」
“あっくる、あっくる、あっくる……”
「ん?金どん、何か聞こえんか?」
「うん、聞こえるぞ」
「ワタイの持ってる、この玉どい!」
怒りに燃えているクマさんのふところだった。
クマさんはふたつの玉をとりだす。
「なんどい!それは」
遇佐絵門には初めての代物だった。
「これはあっくる玉どい、あっくるの子から出たあっくる玉どい」
あっくる玉はクマさんの感情に合わせて、赤い光をはなっていた。
“ぼわーん、ぼわーん”
赤い光は初め、柔らかく光っていた。
しかし、次第にするどい光を放ち始める。
“ぴかっ!ぴかっ!……”
するどい光は以前からひかっていた稲妻とシンクロしだした。
“あっくる、あっくる”
あっくる玉のうなりが次第に大きくなっていく。
そばにいた子ども達もあっくる玉につられている。
「あっくる、あっくる……」
クマさんはふわーっと体が軽くなり、七地下神の前につーっと進み出ていた。
「ど、どうしたんどい!行きたくないのに……」
何気なく現れた命知らずのノッペラな男の登場に七地下神の動きが止まった。
“ごろごろごろごろ……”
いままでネズミ色だった空がムラサキ色に変わっていた。
この異変に亜空の門の七地下神も殺気づく。
門の輪っかが異様に震えながら声を出す。
「ケジャッコー!
何者ぞおおおおおお!!!」
その慌てぶりを見て遇佐絵門は確信した。
「クマさん!オマイはやっぱりワタイらの救い主どい!」
遇佐絵門の声は霜霧山中に響いた。
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