第31話 子どものチカラ4

クマさんは石の前に呆然と立っていた。

「またもあっくる玉がワタイを守ってくれたどい」

今は赤みも消えたあっくる玉をクマさんはフトコロにしまった。

「あの子ども達はまるでユラオラのようやったどい」

かわいい孫のユラオラが頭によぎる。

「もしかして、《あっくるのチカラ》というのは子どもだけにあるのかもしれんな」

喜ぶ洞穴の子ども達を見ながらクマさんは思った。

「しかし待てよ。チカラをくれたのはあっくる玉と子ども達じゃが、やつらをたおしたのはあの石の竜巻どい」

冷静になったクマさんは振り返った。

「あの時、ワタイを操った何者かがおった。

あれは誰どい」

“ぶるるる”

クマさんは底冷えのする誰かの感触を想いだして身震いした。

「クマさん、クマさん、見たどい!」

「そうじゃ、そうじゃ、クマさんのあっくる玉が七地下神を石に閉じ込めてくれた!」

「あの竜巻は何処行ったんどい」

金平が巻き物を持って行った。

「この巻き物の中に消えたんじゃ」

「巻き物に入ったんか?」

「そうじゃ、邪運化の悪玉をこの巻き物に封印したんじゃ!」

「そうかそうか」

クマさんは納得しようとしたが、また元のように小さい渦となって、首筋にほのかに回っているのを感じた。

遇佐絵門と金平が興奮して抱き合った。

「あっくる、あっくる、あっくっく!あっくっく!」

ふたりは拳を突き上げる。

「皆の衆!もう安心だー!」

「あっくるのチカラだー!」

「まあ、とにかくよかったどい」

クマさんは安心するとすっかり疲れてしまった。

へたっと座り込んだクマさんが巻いていた風呂敷からふわふわした物体が出てきた。

「ん?

メアワータか、いまごろ現れおって……」

“ふわふわ、しゅたっ!”

メアワータはいきなりクマさんの口にはいる。

まるで意志があるかのように……

「うううおおおおお!!!!!」

全身からチカラがみなぎる。

「おおおお!!!きたきたきた!」

「どうした?クマさん」

「遇どん! 金平どん!

ワタイは図抜け人どいー!」

「何?ズルムケとな!

それは最初からわかっとる」

マクラウリにひんむかれたクマさんはまさにスジの入ったズルムケのウリ人間だった。

「ワタイは今のワタイにふさわしい所に戻らなならん」

「クマさん、行くんか?」

「ここに居ればいいとに……」

「いや、そうはいかん。

といってもどうやって戻ればいいんどいか……」

悩んでいるクマさんが後ろを振り向くと、侍がずらりと並んで膝をついていた。

「おぬしの功績,感謝申し上げる」

「拙者らにどうぞ恩返しさせてくだされ」

「何か拙者らに出来る事はありませぬか」

「……」

侍の思わぬ申し出に、クマさんは一瞬、面食らったが、やがて名案が浮かんだ。

「それではお願いがあるんどいが……!」

霜霧山の空は雲が消えてどこまでも真っ青だった。

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