第13話 亜空の国の冒険者
ーーー亜空界
ここは素雷土の丘。
クマさんが吸い上げられた不思議なところ。
ふらふら歩くクマさんの先を歩いているのはバープルの弟子と名乗る頼りない男達三人。
「おーい!亜空ちゅうところはなんにもなくて、つまらんところどいなー」
「亜空のはずれやからねえ」
「何もないと思ったらいかんですわい」
「突然どあーっと……」
「こらっ!そのどあーっつうのをやめんか!また邪運化が出るやろが!」
クマさんが生来の威勢を取り戻して怒る。
「あんた、気が短いわー」
「亜空界で生きるには気長にならんとアカンよ」
「しかし、あんたはすごいですな」
「ヨボヨボやったのに、見事にメアワータに適応したんですからなあ」
「こんなじいさんなのに図抜け人とはねー」
「図抜け人なのにじいさんとはねえ」
「じいさんで悪いかーっ!」
「オマイら、何かワタイをバカにしとるな!」
「アンタこそ」
「まあ、いいわい。
これからどうすりゃいいんどい」
「だからいずれわかりますわい」
「いずれっていつどい!」
三人は腕組みをして考えこむ。
「……」
「こらっ!早く答えんかー」
「そう、それですわい」
「あんたはその気の短さを評価されてこの亜空界に招待されたやらいよ」
「その気の短さが亜空には必要なんやろな」
「だからここに来たら自分で亜空の国を冒険してもらわんとねー」
「何どい、冷たい扱いやなー」
クマさんは三人に見切りをつけた。
「ま、いいか。
ワタイは生まれ変わった気分やから、新しい気持ちで冒険するのもいいどい」
“びゅっ!びゅっ!”
タタッ剣の素振りをしだした。
「あぶないですわい!」
鬼瓦顔の男が後ずさりする。
「ヒヒヒ、ワタイのタタッ剣さばきにビビっとるな」
“びしゅっ!びしゅっ!”
クマさんはさらにはげしくタタッ剣を振り回す。
「あぶないらいよー!」
「そうや!そうや!
どあーっとなるんやでー」
“ドタタタタタタ……”
「なにっ!どうした?待て!
こらーっ!逃げるなーっ!」
クマさんを無視してバープルの弟子達は一目散に逃げ出す。
“ずううううん!”
振り返ると邪運化がいた。
「おあっ!出た!」
「じじい!よくもいつも叩いてくれたな」
今度の邪運化はハエによく似ていた。
その大きさはクマさんの倍あった。
“ぬああああ”
二本足で立ち上がって黒い槍のような鋭い爪をたてて向かってきた。
“ドドドドド……!”
「あわわ……」
“ビシッ!ビシッ!……”
「このお!このお!」
クマさんは必死にタタッ剣で叩くが、まるで歯がたたない。
ハエ邪運化はクマさんを捕まえる。
くるくる回す。
“ビリビリビリ”
クマさんの服は槍のような爪でぼろぼろになった。
「くう~、やっぱりここは地獄じゃぁぁぁぁ……」
クマさんはついに気絶した。
「ふん、弱っちーじじいだ」
“ぶううううわわわわわん……”
ハエ邪運化はどこかに飛んでいった。
三人の男達は倒れているクマさんのもとに再び帰ってきた。
「ご老人、だいじょうぶですか」
クマさんに意識が戻った。
「ひどい目にあいましたな」
「ワタイはここに来ても、こんな惨めな運命を送るんかっ……」
「しかし不思議ですな」
「何がですか?」
「この素雷土の丘でこんなに頻繁に邪運化が現れるとは……」
「そうやそうや」
「きっと、この人は邪運化を呼んでしまうんじゃらいよ」
「邪運化は《念》の強い人に引きつけられるからねー」
「あの邪運化はハエに似とったねー」
「この老人のオーラに同調しとるんですなあ」
「ある意味、邪運化と相性いいんやねえ」
クマさんの戦いを見守る三人。
三人は気絶したクマさんを担いで素雷土から亜空の本土に連れて行く。
「よいしょ、よいしょ」
亜空川と呼ばれる流動地帯を過ぎると亜空岸があった。
亜空岸から亜空界独特の自然が始まっている。
三人はその辺の植物を探る。
「あった、あった」
薄緑のシソのような葉っ波をクマさんの口に押し当てる。
「んぐぐぐぐ!
あーーーーすーーーーぱっ!」
「気がつかれましたな」
「うううん すっぺー!」
「気付けの草、亜すっ葉やで」
「またオマイ達か、ここは?……」
「はい、やっぱり亜空の国じゃらいよ」
「ただし、ここは亜空岸やでー」
“わっっしゃ、わっしゃ”
そこには緑広がる古代の植物が大自然を形成していた。
“すかしゃぁぁぁぁーーーーん”
「なんじゃこりゃ」
“ぶゆゆゆゆゆゆーーーーん”
「おおおおおお!」
亜空界の大自然がクマさんの五感を心地よく刺激する。
「すばらしいじゃなかか!この光景!」
「ここはワシらのバープル様が住んでおられます」
「バープル様はですな……」
「ランランラン。ほれほれほれ」
「あのー聞いておられますかの?」
クマさんは亜空界という道の世界に感激して跳ね回っている。
「見苦しいほど喜んでますな」
「亜すっ葉の効き目が強すぎたみたいやねー」
「あのダメージでこの回復力」
「あの老人は戦士の素質があるかも知れんじゃらいよ」
「戦士と言えば邪運化ですな」
「そうや、どあーっと……」
「どあーっていうな!」
クマさんが三人を追いかける。
「オマイがどあーっと言うとまた邪運化が現れるんどい!」
「どどどど、ああああああ」
「言うな!」
クマさんに止められて三人は口をふさぐ。
「うんぐ、ぐぐ、ぐぐ」
そのクマさんの後ろには邪運化が迫っていた。
“ずうううううううん!”
「オマイら、ビシッとせい!」
“びばしゅったん!!!”
三人を説教している間に無意識に振り回したタタッ剣でクマさんは邪運化を倒してしまった。
「うん?何か今当たったか」
(戦士やらいよ!)
(亜空界に君臨する勇者!)
(本物の戦士やでー!)
「ワタイは強いな
ワタイはここが気に入った!
しばらくこの国を冒険するどい!」
「……パクパクパク……」
三人は声を出さずまだ身振り手振りをする。
「こらー、もうしゃべっていいど」
“ぷはあああああ!”
「アホかオマイらは!」
「おわっ!」
「どうしたんどい!
また邪運化か!」
「いや、それですがな」
三人が驚いたのはクマさんの周りに控えめに時々渦巻く空気の渦だった。
「あん?何どい」
「い、いや、これ差し上げますわい」
三人の一人があわてて風呂敷で包んだ品物を差し出す。
「これは戦士のチカラの素ですわい。
困った時に体に取り入れてくだされ」
「ワシらとバープル様が作った《メアワータもどき》じゃらいよ」
「ワテの手作りのワラジもどうぞ」
「そうか、そうか、いろいろ世話になったのお。恩にきるど」
“くるくるくる”
“ぐい!”
クマさんは風呂敷を肩から背中に斜めに回して結んだ。
「オマイらはどうする?」
「アタシら?
アタシらはバープル丸という館に帰りますわい」
「そうか、じゃあワタイは冒険してくるどーい」
“すったかすったかすったか……”
元気よく旅立っていくクマさん。
それを見送る三人はちょっと心配顔。
「あの老人の周りに渦舞いとったのはまちがいなくあれでしたな」
「あの老人はあれに導かれておったんじゃらいね」
「どうりでカサブタ無しでこの世界に来れた訳やねー」
「もっと詳しく教えんでいいんじゃろかい この亜空界を……」
「いいわい、いいわい、あれが導いてくれます。
その時、身をもって知るハメになるわい」
「運良くいきますようにー」
亜空を知らないクマさんの冒険は自分探しの旅でもあった。
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