第11話 鉢巻きと素雷土

ここはシュロ所

“ドックワアアアアン!!!”

「鳥居が吹っ飛んだ!」

鳥居は空中でばらばらに砕けながら霜霧山盆地中に散らばった。

同時にクマさんとユラオラも消えた。

「ユーラ!オーラ!」

ゲンドロウとミドルの心臓が凍りつく。

しかしそれはほんの一瞬だった。

「ゲンちゃん、ママー」

ゲンドロウとミドルはシュロの木のてっぺんにいた。

「居たよ!

良かったあ!」

ゲンドロウ達にとっては一瞬だったがユーラとオーラは様々な経験をしていた。

クマさんと鳥居の輪っかに吸い込まれ、冷え冷えとした洞窟にいた。

スライムみたいな亜空のとば口で《バープルの弟子》と名乗る三人組に会う。

何匹かの悪さ生物邪運化に遭遇し、そして戦った。

そして、図抜け人となったクマさんとの別れがあった。

カサブタは亜空のフタを開けてユラオラを現空界に戻した。

ちょうど鳥居が碎け飛んだ時間に。

「ありがとう、ブーちゃん」

「ユラオラ、誰に手を振ってるんだよ」

「鳥居ごとふっ飛んだのに、やけに落ち着いているわね」

ユーラとオーラが亜空界でクマさんと経験した長い時間はゲンドロウ達は知らない。

「とにかく、無事でよかった」

「用心して降りれよー」

「わかった」

「よいしょ!」

木から下ろす。

ミドルと抱き合うユラオラ。

「この子達、熱いわ!

熱気がすごいの!」

「どこか怪我してない?」

「ピリピリ熱いのよ」

「風邪かな……」

「ううん、

なんというか、熱い気持ちが伝わるの」

ゲンドロウはミドルが何を言っているのか、わからない。

「ところで父ちゃんはどこだー!

父ちゃん!出てこい!」

ゲンドロウはクマさんを呼ぶ。

ユーラとオーラが見つかったので、当然その辺に居ると思ったのだ。

「恥ずかしくて出て来れないんだろ!

こんな事故起こしてよー!」

「ゲンちゃん、じっじんは出てこないよ」

ユーラとオーラの声も聞こえない。

「父ちゃん、いいから出てこい」

「じっじんはこの世界にはいないんだよ」

「そうだよ、あっくっくで別れたんだよ」

「何だって?別れたって?」

ようやく耳に入った。

「じっじんは亜空界に残ったんだよ」

「アクウ?なんだそれ」

「亜空界だよ」

「アクウカイ?」

「そうだよ!

ユーラ達は亜空界に吸い込まれていったけど、カサブタの開けた穴で帰ってきたんだ!」

「何だって?

何言ってんだか、ぜんぜん分からないんだけど」

「じっじんは戻って来ないって!」

「どこに行ったの?」

「だから亜空界だよ!」

「アクウカイ?」

「そうだよ!」

ユラオラは声を合わせる。

「父ちゃん!どこだー」

繰り返しの会話だが、ゲンドロウは信じない。

「ゲンちゃん、クマ父ちゃんホントにいなくなったのかも……」

「ミドルちゃん、よしなよ」

「ゲンちゃん、信じてよー!」

ユーラが立ち上がった。

“コロン、コロン”

その拍子にユーラのポケットから素雷土のダンゴが転げ起きた。

「あっ、爆弾ダンゴだ」

ダンゴはゲンドロウの足下に転がった。

「なんだこのダンゴは」

“ぽーん”

ゲンドロウはダンゴを何気なく放り上げてキャッチする。

“ドパーン”

素雷土が破裂してゲンドロウは泥だらけ。

「ワップ!ゲンちゃん泥だらけ」

「それ、亜空界にあったやつなんだ」

「ゲンちゃん、間違いないわ、これ!」

ミドルがユーラの腰を指差す。

「と、父ちゃん!」

そこにはクマさんの丸に『ク』と書いた鉢巻きが巻かれていた。

「父ちゃーん!」

ゲンドロウは亜空の丘から霜霧山盆地に向けて叫んだ。

よどんだ空気に悲しく響くだけ。

ゲンドロウはあきらめきれず、霜霧山盆地中を探しまわった。

「父ちゃーん、父ちゃーん」

クマさんが消えたと同時に吹き飛んで行った鳥居。

それと一緒にクマさんも飛んでいった気がしていた。

しかしクマさんの手がかりはどこにもなかった。


“ポテ、ポテ、ポテ”

クマさんが邪卵房で吐き出してしまった、大量の邪卵……

これが霜霧山盆地にも、しこたま入り込んでしまった。

霜霧山盆地は悪さ生物の不運に巻き込まれていく。

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