空からマウム1

霜霧山牧場での騒動も一息ついてゲンドロウ一家は遊具の広場で遊んでいる。

ユラオラは疲れ知らずの特別な子。

あっちのローラーすべり台、こっちのロングブランコ、巨大ジャングルジムとサーキットしている。

“チチチチ……”

小鳥のさえずる平穏が戻った。

ミドルはベンチに腰掛けて口元に携帯をあてて、なにかささやいている。

背筋を伸ばし、真剣な目でユーラとオーラの手や足の運び方を見ている。

「ユーラはスピードと判断は早いけど、アドリブに欠けるわね。

オーラはバランスはいいけど、まだ思いっきりが足りないわね」

でもふたり共楽しみだわ……」

“ピ、ピピ、ピピピ”

「来たわ、合図が……」

ミドルは携帯を空に向けた。

「……」

“ピ、ピピ、ピピピ”

「ポイントロック出来たみたいね」

空は雲ひとつない。

深く抜けていた。

「あああ、ちょっと休憩ね」

ユラオラにつきあっていたゲンドロウが戻ってきた。

ベンチ横の芝生によっこら腰を下ろす。

「ミドルちゃん、ここ広いでしょ」

「そうね、ずっと先まで牧草地が広がっているのね」

「この広さがここの自慢なんだよ

気球大会もあるんだよ」

「そうね、この広さだったら申し分無いわよね」

「ミドルちゃん、さっきからずっと空見てるね」

「うん、待ってるんだあ」

「え、何を?」

ゲンドロウも見上げる。

「ママー!」

ユーラとオーラも戻って来た。

「ママ、ゲンちゃん、ねえ見える?」

「え、何が?」

「空だよ、見えるでしょ?」

「ユラオラまで、空がどうかしたの?」

「ときどき光るんだよ」

「そう、その光がだんだん大きくなってきているんだよ」

「あ、ほらまた」

「すごいわ、ユラオラ!よくわかったわね。

レーダーでもサーチ出来ないものが見えるなんて」

「あのー、ボク見えないんだけど……

何処なの?」

「ほら、あそこだよ」

ユーラとオーラはゲンドロウにもなんとか知らせてあげたい

「あ、ホントだ!

見えた!ボクにも見えた!」

「見えたでしょ!」

「うん、だんだん黒くなってきた」

「だいぶ近づいてきてるのよ」

「人の形だ!」

点滅を放っていたのは人の形をしていた物体だった。

「誰かが空から落ちて来た!」

「ええ!ホントか!」

「あああ!落ちるー!」

“しゅばっ!”

落ちる直前、人の形をした物体から風船が何個も膨らむ。

“ぼん、ぼん、ぼん……”

“ばううううん!”

“ばううん!”

“ばうん!”        

風船はクッションとなって牧場の中で何回か弾み、転がる。

「モー、モー、モー」

突然の空からの来襲に牧場の牛はパニックになっていた。

「何だ、あれは」

「宇宙人か」

見物人が大勢見守る中、風船は縮む。

“週ううう……”

「また邪運化か?」

ゲンドロウはまた不安になった。

“もごもごもご”

「おい、誰かでてきたぞ!」

“ベリッ!ベリっ!”

縮んだ風船を切り裂いて一人の人物が現れた。

白いヘルメットに青いゴーグル。

全身シルバーのジャンプスーツには肩や腰に黒いライン、胸にはTTの文字がはいっている。

“ざわざわざわ……”

「やっぱ宇宙人か?」

群衆をかき分けてその人物はミドル達の前にやってきた。


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