第14話 SPゲンドロウ

ゲンドロウ家の朝、ユラオラのあどけない寝顔。

ゲンドロウは朝早く起きて、自分の部屋で便利屋の工具箱を広げている。

「ゲンちゃんおはよう!

どうしたの?仕事?」

“カチカチ、カチャカチャ”

机の上で細かな部品をいじっている。

「ちょっと待ってねー。

今最後の調整しているから」

“ピー!ピー!ピー!”

「よし、完成!

ミドルちゃん、リビング来てみて」

“どん”

ゲンドロウは黒いリュックをテーブルに置いた。

「シュロ所の大きな事件があったでしょ」

「うん、驚いたわよね」

「やっと落ち着いて、これからどうしたらいいか考えたんだ」

“カチッ”

ゲンドロウは手元のリモコンの電源を入れる。


「あの子らにはボクらには見えないものが見えるようになったって言ってたよね」

「ああ、邪運化っていうやつね」

「そう!その邪運化!」

「邪運化かあ どんな姿しているのかな 見てみたいわあ」

「ちょっと!話をそっちに持ってかないでよ。

そんなあこがれの目をする前に心配しなよ!」

「ごめん。

ところで、このリュック、中に何が入っているの?」

「ユラオラを守るやつだよ」

リュックからふたつの装置をとりだした。

「ライフジャケットをコンパクトにしたんだ。

中に小型カメラと小型スピーカーとGPSが入っている」

「ワンタッチでセット出来る ボクのオリジナルなんだ。

あっくるの子が着けるプロテクターだから、

名付けて《アクテクター》だよ」

「こんな防弾チョッキみたいなの、ユーラ達が嫌がるよ。

犬じゃあるまいし」

「いいや!無理にでも付けさせる!

ユラオラの話だと、邪運化が大量にこの霜霧山に舞い込んでいるって言うじゃないか!」

「そうね」

「危険じゃないか!」

「まだ危険と決まった訳じゃあ……」

「ミドルちゃんはあの子達が心配じゃないのかい?」

「全然」

「えええーっ!」

「いいじゃない、ワタシ達に見えないものが見えるだけだから」

「よくねえだろ!」

「私も見てみたいなあ、きっと世界観が変わると思う」

「またそっちかよー!」

心配性のゲンドロウのアイデアはラテン系のおおらかなミドルには通じなかった。


“トン、トン、トン”

そこへユーラとオーラが起きて階段を降りてきた。

「おはよう!」

「ふにゃー」

「おう!おはよう!ユラオラよく自分らで起きられたね」

「だって昨日、いろんな変な邪運化を見たから、今日も早く見たいなあと思って」

「ボクも!」

「そうか、ワクワクなんだね」

ミドルが話に合わせる。

「ちょっと!それまずいよ」

ゲンドロウはますます心配になる。

「歩平おじさんによると邪運化は人を不運にする悪さ生物なんだぞ!」

「そういえばどれもこれも意地悪そうな顔してた」

「だろ?ご飯食べたら今日はこれを付けて出かけなさい」

「なあに!これ」

「みんな聞くね。

だからこれはユラオラの身を守るアクテクターだよ」

「やだよこんなのー」

「ダメダメ!付けていきなさい」

ゲンドロウは父の愛で無理矢理装着する。

「ほらかっこいい

だろ?」

「うん、そんなに悪くない。

ね、オーラ」

「うん!」

意外にも着心地が良くてユラオラは気に入った。


「なんか戦う気分になってきた」

「いや、アクテクターが守ってくれるから!」

「ユラオラ良かったね」

ミドルも納得した。

みんなが出かける時間。

「じゃあ、私出かけるわ」

ミドルは先に家を出た。

続いてユラオラが玄関を出る。

アクテクターが邪魔でランドセルがきつい。

「行ってきまーす……」

「ユラオラ!邪運化に気をつけてね。

わかった?」

「わかったに、決まってる」

オーラが小さく答えた。


「よし、ボクも準備するか」

ゲンドロウもSPスーツを身に着ける。

黒いつなぎのスーツ。

黒いニット帽にサングラス。

黒の手袋とブーツ。

黒いリュックにはGPS位置検索装置、催涙スプレー、防犯ブザー、ヌンチャク。

黒尽くめでユラオラの後を追いかける。

「よし、これからユラオラ追跡作戦を開始する」

「モニターオッケー!インカム、オッケー!」

子供を思うゲンドロウの行動は周りからみればかなり過剰に見える。

「ユラオラはオレが守る!」

ゲンドロウは記録を始めた。

「アクテクターはもっとスリムに改良する必要があるな」

通学路は住宅の塀にそって歩道を歩いていく。

一見、何事もなく平和に感じられた。

「交通量多し、怪しい動きなし。

このまま追跡を開始する」

ゲンドロウ、すっかりSP気取り。

ゲンドロウは電柱や塀に隠れながら移動しているので周りの人がだんだん不審に思い始める。

それにまったく気付かないゲンドロウ。

何気なく歩いていたユラオラだが、ピピッと一瞬髪の毛が逆立った。

最近、邪運化が現れる時に起きる現象だった。

「オーラ、来たね」

「うん、来た来た」

ユラオラは立ち止まり、周りをキョロキョロしている。

「うん?ユラオラに何かあったか」


ゲンドロウは警戒する。

「ユーラ、いたよ。

あそこ」

宅配便のトラックが停まっている。

邪運化は普通の人には見えにくい。

気付かれにくいから、悪さする。

邪運化はシャケに同化してシャケに似た姿をしている。

配達員がいっぱいの塩シャケの箱をトラックの荷台から出しているが、次から次に荷物が勝手に積み重なっていく。

「あれ?オレこんなに積んだかな?」

シャケの箱はバランスが悪く、ぐらぐらしている。

配達員には見えないが、邪運化が悪さしていた。

ユラオラはトラックに近づいていく。

邪運化と目が合った。

邪運化も“まさかオレが見えてないだろうな”という顔をしている。

しかし、ユラオラにはそれを見ているだけでどうやって助けてやればいいかわからない。

「おじちゃん、あれが邪魔しているんだよ」

「やっつけなきゃだめだよ」

急に子ども達がやって来て、意味不明の話しをするので配達員は理解できない。

「はあ?何、どうしたの?君達」

まるで通じない。

その行動をゲンドロウは見ていた。

「うん?ユラオラに異常あり、警戒!警戒!」

ユラオラの忠告は無視された。

邪運化は充分ぐらぐらして積んである荷物をちょいと押してひっくり返す。

“がたがたがたがた!”

“どさどさどさっ”

壊れた箱とシャケが散乱した。

「あちゃー。しまった!

なんだよもう、今日は運がないなあ」

配達員は自分のせいと思い、ため息まじりで片付ける。

それを見て笑う邪運化

「おじさんを助けなきゃ」

ユラオラは邪運化と対決しようとした。

「こらあ!ユラオラ、早く学校行かないと遅刻するよ」

ユラオラのアクテクターからゲンドロウの声がした。

ゲンドロウに止められて、ユラオラは仕方なく学校へ向かう。

「じゃあね、おじちゃん」

「ぜったい勝手にくずれたよな。

もう配達遅れちゃうよ」

配達員はブツブツ言いながら片付けしている。


「ここが現場か!」

その現場にゲンドロウが慌ててやってくる。

配達員はゲンドロウの姿を見て、完全に勘違いする。

「おい、こらっ!お前がオレの邪魔をしていたのか!」

「い、いや、違う!

いるんだよ邪運化っていう悪さ生物が!」

「あん?」

「邪運化っていうのは、つまり、魔物だよ。

魔物!」

「まもの?……まもの……

生もの?

そうだよ!シャケは生ものだ。

やっぱりオマエ怪しいぞ!」

「生ものじゃなくて魔物、わ、悪さ生物、じゃ、邪運化だよ!じゃじゃーん!」

ゲンドロウが説明しようとすればするほど、怪しく見えてしまう。

「わかんねーよ!このやろう!」

“どん!”

「あっ!」

うろたえるゲンドロウを邪運化が押す。

邪運化は普通の人には見えにくいのでゲンドロウが自分で一歩踏み出した様に見えた。

「おっとっと!」

“がしゃーーーん!”

ゲンドロウはシャケの箱をくずしてしまう。

「やっぱり!オマエじゃねえか!」

配達員は確信した。

「違う、違う」

ゲンドロウは荷物に足を引っかけて転んだ。

“どてっ!バラバラ!“

「あ、SPグッズが……」

ポケットから怪しげな道具がバラバラと出て来る。

道具は歩道いっぱいに散らばった。

「きゃっ!この人、変なもの持ってるわ!私、ストーカーされてる!」

歩いていたブスな女性が勘違いして叫んだ。

「うるせえ、ブス!お前なんか知らねえよ」

しかし運悪く、そばの電柱にはゲンドロウそっくりの服を着たイラスト付きの張り紙があった。

《最近、出没の怪しいストーカーです》

と書いてある。

「お前ストーカーか?シャケとブス専門の!」

配達員がゲンドロウを押さえつけた。

「おまわりさーんこっちです!」

誰かが通報した。

「どこですか?

ストーカーで営業妨害男は……」

警察官がやってくる。

周りに人が集まり大騒ぎ。

邪運化はそれをみて大笑いしている。

それとは知らず、ユラオラは学校へ。



「シャケ買うならカンベンするって言ってるけど、どうします?」

「買うよもう!

オレ何もやってないのに!」

「大体そんな格好してるからいけないんだよ」

机を挟んで警察官にたっぷりしぼられるゲンドロウ。

ゲンドロウの後ろにはさっきの邪運化がいる。

邪運化は普通の人には見えにくい。



わからない、見えない、訳わかんない。

そういう現象をなに者かが仕掛けている。

特別のチカラを持った子ども、ユーラとオーラ。

そんな状況にワクワクするミドル。

不安でしょうがないゲンドロウ。

ゲンドロウ一家を中心に《運つながり》の物語が始まった。

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