第29話 子どものチカラ2

「おい、金平どん!

洞穴のみんなを呼んで来い!」

遇佐絵門が言うまでもなく、クマさん達の後ろには洞穴から出てきた子ども達と母親達がぞろぞろ出てきた。

特に子ども達の気持ちの高まりは大きかった。

みんながあっくる玉に誘われている。

「スジおじさーん!」

「あっくるのおじさーん!」

「あっくる、あっくる……」

亜空の丘一帯に何かを期待する気運で溢れてきた。

草むらからは負傷して、一旦戦いを休めていた侍達も、あっちぞろぞろ。こっちぞろぞろ姿を表した。

彼らも新しい希望の兆しを感じていたのだ。

「誰が来たんだ?」

「わからんが誰か来たらしい」

「この戦国を誰か終わらせてくれるのか」

民衆の期待はすべてクマさんに注がれてた。

“ずい、ずい、ずい”

クマさんはふたつのあっくる玉を左右の手に握りしめて七地下神の前に歩を進めた。

「何が、何ができるんどい!ワタイに……」

当のクマさんには戦う作戦も自信もなかった。

「うおおおおおおお!!!

やけくそどい!

みんなの不運をこれ以上放ってはいかんのんどい!」

邪運化への念の強さがクマさんを突き動かす。


「ケー、ジャコケコ!!!!」

門の輪っかでとどめの攻撃の準備をしていた邪運化の親玉がついに姿を現した。

「出たーーー!!!」

「ケージャッコって言ってる」

「出たな!」

「出たどい!」

その姿は誰にも見えなかった。

クマさんにも見えない。

七地下神は両手を前に出しクマさんに向かっている。

七地下神とその後ろの見えない邪運化の親玉。

誰もが今までにない不運をもたらすチカラを持っていると感じた。

“びりびりびり!!!”

「わとととと、なんどいこのしびれは」

邪運化の親玉は七地下神を操り、クマさんに迫ってくる。

その勢いがすでにチカラとなってクマさんを襲った。

“ばちばちばちばち”

「どんたこ!ここでつぶされてたまるか!」

抵抗した反動でクマさんは宙に浮く。

浮いた状態でこらえている。

「わっ……」

「ケー、ケジャッコ!

オマエひとりではないな!」

クマさんも何か知らない者に包まれているのがわかった。

「これか、あっくる玉か!」

あっくる玉は確かに赤い点滅をさらに強めていた。


“あっくる、あっくる……”

「ワタイにチカラをくれい!みんな」

『あっくる、あっくる、あっくる……』

洞穴から出て来た子ども達。

子ども達の期待を、チカラに変えてクマさんが吸収するようだった。

『あっくる、あっくる、あっく、あっく、あっくっく、あっくっく……』

子ども達の声は凝縮され、ひとつの合い言葉になっていた。

『あっくっく、あっくっく、あっくっく……』

今やクマさんは警戒心も不安もなく、あっくるのチカラに集中しきっていた。

同時にクマさんが亜空界に来た時からずっとまとわりついていた首筋にあったほのかな渦巻きに新たな動きがあった。

“びゅうう!”

空間をねじる強い渦が発生した。


あっくるのチカラが起爆剤になって超自然的な現象が起ころうとしていた。

“びゅううううううううううう!!!”

クマさんは空間の渦に手を取られ、足を取られ、身体ごと包まれる。

「誰だ!ケジャッコー!!!」

邪運化の親玉がひるむ。

七地下神も動揺に体勢が乱れる。

「こ、これは何どい」

クマさんは自分が何かに守られているのを感じた。



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