第5話 亜空神社の骨董品

——クマさんの家

元気になったクマさんを囲むゲンドロウ一家。

「ムラサキのブタがいたんだよ」

ユーラとオーラは興奮しながら身振り手振りで説明する。

「ブタはあの辺にはいないだろ。

ましてムラサキだなんて……」

ゲンドロウは信じようとしない。

「良かったなあ、クマさん。

元気になって……」

神主の歩平もクマさんを見にきた。

「ふひゃひゃひゃ!

そうどい、何十年ぶりどいのお!」

クマさんはあらゆる関節を動かして不具合がないのを確かめる。

「じっじん!よかったね」

ユーラとオーラは純粋にクマさんに抱きつく。

「すっごい元気ねー!

クマ父ちゃん」

「おお、ミドルか、

ありがと、ありがと」

ミドルもクマさんをハグする。

「おいおい、ミドル、ちょっ、ちょっとこら」

これにはクマさん照れる。

「ああ、ミドルちゃん、ワシはいつでも歓迎やぞ!」

歩平が手を広げるがゲンドロウが睨んだので手をぶらぶら、体操をしてごまかす。

「父ちゃん。

父ちゃんははいつもイライラしていたからなあ。

これからはのんびり散歩して暮らせや」

ゲンドロウがねぎらう。

「何言うとるんどい、

ワタイのイライラはちいーっとも減っとらんどい!」

“ブーン、ブン”

「今でもほら、ハエがまとわりついとる」

といいながら、クマさんはタタッ剣を振り回す。

“ビュン!ビュン!シャシャー!”

元気になったクマさんの剣さばきは空気をつんざく切れ味だ。

「お、おい!あぶねえな!まったくー」

「じっじん、かっこいい!」

「まったくよおー!

ヨロヨロ妄想じいさんが元気になって、デンジャラスじいさんになったぞぉ!」

ゲンドロウの嫌みだったが、それは当たっていた。




それから何日かたったクマさんの家。

「ゲンドロウ!ゲンドロウはいるか!」

歩平がやって来た。

「こっちだよ!」

ゲンドロウはミツさんの土間で、ソバの実をひいていた。

「あのな、ゲンドロウ、ちょっと手伝ってくれや」

「何をだよ、歩平おじさん」

「いいから、こっち、こっち」

歩平はゲンドロウを手招きしながら引き返す。

亜空神社の境内。

そこにはトラックが乗り入れてあった。

「おじさん、引っ越しでもすんのか?」

神社の参道にはいかにも古そうな書物や骨董品が運び出されてあった。

業者がトラックの荷台を開けてそれらを運び入れている。

「そうじゃないんじゃ。

来週、隣町で神社組合主催の蚤の市があるんでな。

そこへ出品するやつを選んどったんじゃ」

「蚤の市?

これって、亜空神社の大事な物だろ?

売っていいのか?」

「いいんじゃ、うちの神社もさびれておるしな」

「このやろう、また借金して、どうにか金を工面したいだろ?」

「おい、ゲンドロウ、それを言うなって!」

「しょうがねえなあ、この神主は。

ヒマがありゃキャバクラばっかり行ってるし」

「ワシはな、娘ねえちゃんの運を祈願してやっとるんじゃ」

歩平は祝詞をあげる仕草をする。

「古いんだろ?この神社は」

「古い。何しろ古い。

古いだけが取り柄じゃ。

じゃから、蚤の市に出したら結構良い値で売れると思うんじゃ」

「そいつはどうかな、どうみてもガラクタばかりじゃないか」

ゲンドロウは足下の転がっている骨董品を乱暴に蹴る。

「おいよせよ 何が値打ちものだかワシにもわからんのやから」

歩平はあわてて拾う。

ひとつずつ確かめながらつぶやいた。

「蹴るなんてこのバチ当たりなヤツめ……」

「バチ当たりはおじさんの方だろ!」

「いいからほら、巻物がはいった箱が重いんじゃ。

そっちを持って外に出してくれや」

「わかったよー」

ゲンドロウが木箱の取っ手を持って運ぼうとすると途中で抜けてしまった。

“バラボロバラ……”

木箱がひっくり返り、ホコリにまみれた、巻き物がこぼれ出た。

「うああ、汚いなこりゃ」

“パッパッパッ”

歩平は薄汚れた巻き物をブラシで払い始めた。

「ごほっ、ごほっ すごいホコリじゃわい」

「おじさん、これ相当古いんじゃないか」

「そうだな 全部出そう!」

「待てよ、ここに亜空神社の歴史の手がかりがあるんじゃねえのか」

「いいんじゃ、いいんじゃ車に積んでくれい」

「これで全部ですか?」

“バン!”

業者は無造作にトラックの荷台のあおり板を閉めた。

“ボトッ、コロコロ”

その時、一本の巻き物だけが参道の脇にこぼれて転がる。

業者が拾って持って行こうとした時、歩平が止めた。

「ああーっ!これはだめじゃ」

「どうした、おじさん」

「これだけは売ってはならんという先祖からの言い伝えじゃ!」

「はーん?

今更なんだよー」

「これは歴史の影に埋もれた事実が書いてあるんじゃ」

歩平はあわてて拾って緑色の巻き物をフトコロに入れた。

「ほらあるじゃねえか、大事な物が」

「ゲンちゃーん、

ゲンドロウ!」

家でミツさんが呼んでいる。

「じゃあな、おじさん」

「ああ、ありがとな」

「どうした?母ちゃん」

「父ちゃんを止めてくれんかね」

「止める?」

「父ちゃんがシュロ所に行ったとよ。

恨みを晴らす言うて」

「はん?まったく今度は父ちゃんか、元気になってから、ますます暴走してるな」

ゲンドロウはシュロ所に向かった。


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