第10話 あっくる玉
———亜空のとば口
「オマイらはワタイに言いがかりをつける気か?」
「事実、邪卵を世に放り出しましたからな」
「それがどうした!」
「ですから邪卵から悪さ生物が出てくるんじゃらいよ」
「悪さ生物、その名も《邪運化(じゃうんか)》ですわい!」
「ジャ、ジャウンカやと?」
「はいな」
「人に悪さばっかりする生物なんですわい」
「邪運化は昔から存在しとりました。
亜空界にも現空界にもね」
「邪運化は亜空界も現空界も自由に行ったり来たりするんじゃらいよ」
「亜空界の人は邪運化の悪さから逃れる為に《ツボ地》というところで暮らしております」
「でもねえ、現空界の人は邪運化が見えにくいんじゃらいよ」
「いつの間にか人のそばにきて悪さするから気付かない」
「だから悪さされても、みんな《不運》でかたづけられとるんやでー」
「邪運化はどのくらい、はびこっとるんどい!」
「そこらじゅうですわ」
「そう、昔っからね」
「人間が《不運》と思った出来事はすべて《邪運化の悪さ》ですわい」
「邪運化は気ままに理由もなく悪さするから始末におえないんじゃらいよ」
「困ったもんどいの」
「困ったどころじゃ済まないですわい!」
「そう、そう、あんたみたいに不運のカタマリみたいな人もおるしー」
「ワタイがかあ?
ワタイも邪運化の被害者か?」
「そう、あんたの人生は邪運化に悪さされっぱなしの人生ですわい」
鬼瓦の男が気の毒そうにクマさんの顔を見た。
「だけど、運が良かったとも言えますな」
「何でどい?」
「不運の連続のおかげでこうやって、特別強い念を持てたんですから」
「そやそや、それで図抜け人として亜空界に来たんやからねー」
「変な理屈抜かすな!
ワタイの人生は邪運化に悪さされっぱなし……か」
「ほいほい」
「だからこの世界に来たら戦うしかないですわい」
「なにしろ邪運化は突然……」
「そうやで、突然、どわーと……」
もみあげの男がまたツメをたてるポーズをとる。
“どわーっ!”
「おああああ!!!」
今度はクマさんがまるごと後ろから来た邪運化に飲み込まれる。
“がぶっ!”
今度の邪運化はイモリみたいな姿をしていた。
「あっ!じっじん!」
ユーラとオーラは素早く飛び退いたので難を逃れた。
「ブヒー!」
カサブタはパニックになって、ぴょんぴょん周りを飛び跳ねている。
「あわわわ!」
“ぐああああー!”
“ぱくっ!”
イモリ邪運化は逃げようとする三人組も一気に飲み込む。
“ウンボロロロロ……!”
邪運化のお腹の中でクマさんと三人組が暴れていた。
「どうしよう、じっじんが飲まれちゃった」
イモリ邪運化は四人を飲み込んだまま体をクネクネしだした。
「モリモリーこなせこなせー」
「うああああ、じっじんがこなされてる」
「助けなきゃ」
ユーラはさっき作ったダンゴをイモリ邪運化にぶつけた。
“ぼちっ”
「ふん、痛くもかゆくもないモリ」
「えい!えい!えい!」
オーラもダンゴを続けて投げるが、イモリ邪運化に笑われるばかり。
「オマエらオレが何者かわかってるんモリ?」
「わかったに決まってる!」
オーラが言った。
「オマエはヤモリ邪運化だ!」
「ちがーう!イモリだ!」
邪運化はちょっと修正した。
「早くじっじんを助けなきゃ!」
ユーラとオーラの焦りが伝わったのか、
カサブタがやってきてグルグル回りだす。
「ブヒーッ!」
ひと鳴きしたかと思うと頭の笠が上下した。
“ぷしゅー”
帽子から何かが飛び出した。
「あ、あれは……」
この前と同じワタアメのような物だった。
“ふわふわ……”
ワタアメのような物は意志をもったようにふたつに分かれた。
“シューッ!シュタッ!”
ユーラとオーラの口の中に飛び込んだ。
「んっぐぐ!」
ユーラとオーラになんとも言えず、チカラがみなぎってきた。
「オーラ!もう一回いくよ!」
ユーラとオーラはもう一度ダンゴをとる。
「うん!」
今度はイモリ邪運化をやっつけられる気がした。
「オーラ!ダンゴを固くかためて!」
「うん、わかった」
ユーラはスライムの泥が押しつけるとはじける性質を利用しようと考えた。
“ぎゅっ!ぎゅっ!”
ユーラとオーラはテニスボールくらいのダンゴをゴルフボールくらいに押し固めた。
「じっじんを返せ!」
ユーラとオーラの投げたダンゴはスピードが倍になってイモリ邪運化に命中した。
スピードがあるのでその反発も強烈だった。
“どかっああああああん!!!”
“どごっ、どてっ、あぱっ”
「うううっ……」
イモリ邪運化は三回転して破裂してしまった。
後に残ったのはスライムをかぶったクマさんと三人の男達。
“どろーーー”
「助かったですわい」
「ふう、悪さ生物の腹でたっぷりこなされたどいな」
「まさか、《素雷土》にあんな使い方があったなんて、驚きらいよ」
「ねえ、オジちゃん達、このブタさんの笠から飛び出したのは何?」
「おう、よくぞ聞いてくださった」
「これぞ図抜けた人のパワーの
「メアワータ?」
「そや、そや、適応できなかったら亜空の
「現空界でカサブタから飛び出したやつを食らいましたやろ?」
「それでこのご老人も元気になったんやなー」
「この子ども達とご老人はメアワータにみごとに適応したわけじゃらいよ」
「この子ども達も特別な人やでー」
「何?ワタイの孫のユラオラも特別どいか!」
クマさんはハエたたきの材料を取りにシュロの木に向かった時、ムラサキのブタが現れたのを想いだした。
「そういえばあの時、ワタアメを口にしてしもうたどい」
「それですわい」
「その後、ワタイは気絶した」
「メアワータがアンタの体に合うかどうかの適応反応じゃらいよ」
「そやそや、アンタはみごとに適応して元気じいさんになったんやでー」
「うーん、そうか。
理屈は合っとるな」
クマさんは三人の男達の話を信じかけた。
「あ、こら待てい!
ワタイに適応反応があったならワタイの孫のユラオラはどうなんどい。
メアワータを食べてもめまいさえなかったどい」
「はあ、それは……」
「なんで、じゃらいよ……」
「そや、そや」
三人の男達は答えに困っていた。
“……くる、……っくる”
「ん、何か聞こえるな」
“あっくる、あっくる”
「……あっくるって何どい」
そう言ってお腹を触るクマさんの手に何かあたる物が……
「おん?何じゃこれは」
クマさんの手にふたつの半透明の玉があった。
“あっくる、あっくる……”
その玉は何かささやいている。
「ごあっ!」
「それはもしや?もしや?」
男達が驚きのような、歓喜のような声をあげた。
「なんどい、不細工な反応しおって……」
「やっぱり伝説は本当やったね!」
「純な心を持つ子供の未知のチカラの玉ですわい」
「あの子達は《あっくるの子》だったらいよ!」
「ワタイの孫がアヒルの子って、何どい」
「アヒルじゃのうて、あっくるですわい!
もうろくさん」
“びしっ!”
タタッ剣がとんだ。
「もうろくとは何どい!」
「これはスマンです。
とにかく、アンタなんか及びもつかないチカラの持ち主なんですわい」
「ワタイのユーラとオーラが?」
「そうですわい」
「それでアンタらが邪卵房から出て来れた訳がわかりましたわい」
「あっくるのチカラがあったからなんやねえ」
三人男は納得して肩を揺らした。
「すると、ワタイはユラオラに守られておったのか」
「よく理解できましたな、ご老人」
「よかったじゃらいよ、ご老人」
「よっ!幸せじいさん!シワじいさん!」
「やかましい!」
“びしっ”
再びタタッ剣がとぶ。
「何やったかな?なんちゅう玉どい?」
「《あっくる玉》じゃらいよ “あっくるあっくる”って言っとりますから……」
「あっくる玉? ホントか?」
クマさんが耳を当てるとはっきりと“あっくる”と聞こえる。
「ユラオラのものなんどいな。
じゃあ、ユラオラに戻さねば……」
「大丈夫ですわい。
《あっくる》はこの子達、そのものやから」
「この子達が《あっくるのチカラ》を持っとるんじゃらいよ」
《あっくる玉》はいわば副産物やねー」
「副産物?
ユラオラのか?」
「本物のあっくるの持ち主がアンタを守りたいと思う気持ちの玉じゃらいよ」
「なるほど!」
クマさんはようやく理解出来た。
そして、感激した。
「オマイら見かけによらず物知りどいなあ」
「じゃらいよ、ワシらはあっくるの専門家らいよ」
やっと老人と三人男の場が和んだ。
怪しくも不思議な素雷土の地で……
それもつかの間……
「ケジャッコオオオオオオ……!!!」
「何どい!」
色のない素雷土のどこかで声がした。
「ケジャコケコオオオオオオ……!!!!」
妙に甲高い、スピーカのような機械的な声だ。
うん、また現れたな邪運化が……」
「もしかして、あれは!」
三人組がこれ以上ないような不細工な顔と、みすぼらしい仕草で震え上がる。
“がたがたがたがたがた……”
「ケジャコジャコ!」
「こら!姿を現さんか!奇声をあげよって!」
“ずぼぼぼぼぼうううう!!!””
クマさん達の前に素雷土が盛り上がって形を作った。
不思議な空間で、さらにまた恐ろしい怪物に襲われるのか……
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