ホーリードラゴンとのデート2
市場は活気に溢れていた。その中を地球とこの世界での差について話しながら翔とルナは歩いていた。
「ちょっと待ってて」
ルナは急に立ち止まると、花屋で大量の花を購入した。
「アリゲスの所に持っていくのよ」
「俺も何か持っていった方がいいかな」
「ううん。翔はそのままで大丈夫だから」
そう言われ、翔はルナの後をついていった。
ルナは徐々に人通りが少ない方へ歩いて行く。暴漢に襲われた所で、ルナも翔も返り討ちにするだろう。しかし町を案内するにはマニアックすぎやしないかと翔は不思議に思った。
路地裏を通り、光が急に差し込んだ。
辺り一面には石が整列されて積まれている。石には文字が描かれている。そう、その光景は。
「アストラルの戦士達の墓地よ」
ルナは階段を降りていく。翔もそれについていく。ルナは迷うこと無く一つの石にまでたどり着いた。
見たことも無い文字であったが、翔は不思議とその文字を読むことが出来た。
「アリゲス ボーンイーター」
「そう、彼のお墓。ローラが貴方を探しているときに黒いゲートが出現したの。私とアリゲスの二人で出陣したんだけど、アリゲスは子供をかばって死んでしまったわ……」
ルナは石の前に花を手向けた。
「俺の事を恨んだりしないのか……」
ローラが居るときだったなら彼は死ななくて済んだかも知れない。翔が魔法に目覚めローラが迎えにさえこなければ。
「それは筋ちがいよ。恨むなら私の実力不足よ。私のアシストがもう少し早ければ……でも彼は待ち望んだ運命だったと言うでしょうね。いつも死ぬなら戦場で死にたいと言っていたもの。第二次魔王大戦の時に死ぬべきだった。神は俺に死ぬタイミングを奪いやがった最悪の野郎だって」
「本物の戦士だったんだね」
翔にもアリゲスというオークの生き様が脳裏に思い浮かぶ。傷だらけの身体に、巨大な斧を持ち、それでいて片手では子供を抱えているような。屈強な強さと、父親の様な優しさを併せ持つそんな男の姿を。
「えぇ彼は本物の英雄よ。家名にふんぞりがえって平民達から重税を課して、それでいて自分たちは第二次魔王大戦の英雄だ。なんて、どんな頭をしているのかしら、私には信じられないわ」
ルナは瞳を閉じて祈り始めた。
翔もそれに合わせて祈り始める。しかし翔はこの世界の神の事など全く知らなかった。なのでアリゲスに祈ることにした。
ルナの事をお守りくださいと。
少々の沈黙の後、ルナと翔は目を開いた。
「翔には知って貰いたかったのドラゴンロアーであると言うことがどれだけ危険か、そして本物の英雄が居たと言う事も」
「俺はまだアリゲスみたいになれないかも知れないけど」
「違う。翔は翔で、アリゲスはアリゲスよ。私は翔にアリゲスみたいになって欲しいわけじゃないの。翔は翔の望む選択をすべきよ。そして私も……今までの事ごめんなさいね」
ルナは急に翔へ頭を下げた。
「救世主でも何でも、私はこれ以上仲間が死ぬところが見たくなかったの。
だから実力の無い奴や、ムカつく貴族みたいな奴だったら私自身の手でドラゴンロアーから排除しようと思ってたの。
だから出会った時に貴方を試すようなマネをしたの。本当にごめんなさい。貴方は素晴らしい人よ。貴方からは確かに強い運命のような、未開の荒野を開拓していくような力を持っているわ」
「いや、謝るような事じゃ無いよ。いきなり、他の世界の奴が来て、救世主だの何だの言われてるんだよ。それはそっちだって都合が悪かったりすると思うから」
「貴方って謙虚なのね」
「自信が無いだけだよ。俺はもっと自信を持ちたい。もっと自分に誇りを持ちたい。自分が自分でも良いと思えるような。そう言う自分になりたい」
「貴方ならきっと成れるわよ。私が保証する。一緒にこの国を守りましょう」
ルナが手を差し出した。翔はその手を握った。ルナの手はほんのりと温かった。
墓参りも終わり、ルナと翔は来た道を戻っていく。
翔は自分の情けなかった地球での話をした。ルナはそれをくすくす笑いながら聞いていた。市場で小さな子供が走ってくる。
話をしていたルナは避けきれず。よろけて翔に身体を預けるようなかっこうになってしまう。
ルナの大きな胸が翔に当たる。未体験のやわらかな感覚が翔を興奮させる。
ルナはすぐさま翔から離れる。
「ご、ごめんなさい」
「だ、大丈夫?」
翔は心の底から怒られなくて良かったと安堵した。
「えぇ大丈夫よ。子供はあれぐらい元気な方が良いのよ。私も注意不足だったしあの子も怪我して無いみたいだし良かったわ」
「何やってる糞ガキ!」
貴族らしき若者が先ほどルナにぶつかった子供を蹴り飛ばした。翔と目線が一瞬あうが、すぐに外れてルナと視線を合わせた。
「おやおや、ホーリードラゴンのお嬢様ではありませんか。こんな所で奇遇ですね。あの糞ガキは私が成敗しましたのでご心配なく」
「私は……」
ルナはうつむき視線を逸らした。
「子供相手にやり過ぎだろ!」
自分になる。それは正しいと信じる事を全うすることだと翔は思っている。卑屈な自分から脱却する為には正しさを実行しなければならない。
「ホーリードラゴンのお嬢様、この下品なのはどなたで?」
「……ミシマ カケルよ」
「となると、例の救世主とやらか、こんな貧弱そうな男のどこが救世主なんだかな。僕はカーディフ エイヴン。ホーリードラゴンのお嬢様とは許嫁だよ。つまりこの子は僕のだ」
カーディフはルナの身体を強引に引っ張った。顔と顔が近づく。ルナは顔を背け続ける。
「止めろ!」
「何が悪い? ホーリードラゴンのお嬢様は僕の物になるんだ。少しぐらい先取りしたっていいだろ?」
「ルナは物じゃ無い! ホーリードラゴンって家名でもない! お前の持ち物でも無いぞ! ルナは国民を守る騎士だ」
カーディフはふふんと笑った。
「それはカーディフ エイヴンに対して決闘を申し込むと考えて良いのかな」
翔は息をのんだ。今ならまだ、間に合うかも知れない。
しかしそれだけはしたくなかった。
それでは地球に居た頃と何も変わらない。自分は変わる。誇れる自分になると。
ルナは嫌がっていた。ホーリードラゴンと言う家名では無い。自分になりたいと。
そして仲間だと。
「そうだ!」
「良いだろう! 一週間後城内で決闘しようではないか。救世主を倒したとなればこのカーディフ エイヴンの名も随分とあがるだろう。今の所はホーリードラゴンのお嬢様をお預けしておこう」
そう言うとカーディフは人混みの中に消えていった。
翔は俯いたままのルナを見ていた。もしもルナがカーディフの事が好きだったのならば、今すぐにでもカーディフに会って謝ろうと思っていた。
これはルナの問題で有り、自分の問題では無い。ルナが問題でないと言うのならそれは、でしゃばりでしか無い。
「翔。ありがとう」
ルナは涙を流しながら笑っていた。
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