黒いゲートのその先へ

 冒険者達の活躍によって徐々に魔獣の数が減ってきていた。


 ドラゴンを撃破したローラとルナと冒険者達が城内に突入する。

 ローラの予想ではすでに大部分の討伐は終わっているはずだった。


 しかし現実として目の前にあったのは大部分の冒険者達がたった一つの魔獣によって敗走している姿だった。


 訓練場でその魔獣は鎮座していた。


 諦めの悪い冒険者が魔獣へ襲いかかるが、手のひらで軽くはじき飛ばされた。


 ローラとルナはその魔獣が何者であるか理解出来てしまった。


 魔獣は青みがかった灰色の美しい毛並みをしていた。最大の特徴はその瞳だろう。黄色と青のオッドアイだった。


「これがオッド殿」

「どうして!?」


 ローラとルナはお互いに顔を見合わせてしまった。

 オッドだった魔獣は悲しく遠吠えをあげた。


 ローラとルナを見ても攻撃しようとはせず、ただ訓練場で鎮座し続けていた。


 オッドは窓から飛び降りたがその程度では死ねなかった。


 自ら死ぬ事もできず、かと言えば魔獣として暴れるような事もできず、ただ、悲しみに浸っていた。


 ローラとルナもその正体を理解してしまったが為に、交戦すべきかどうか判断に迷っていた。

 間違い無く魔獣で有り討伐すべき対象である。

 しかしオッドは何もせずに鎮座しつづけている。

 時折悲しい泣き声のみ発していた。


「オッド殿私です解りますか」


 ローラはエーテルフレームを解除し、オッドに一歩ずつ近づく。

 オッドだった魔獣はローラを見つめる。悲しい声があたりに響き渡る。


「オッド私よ、ルナよ、大丈夫。酷い事はしないから。どうにかして貴方を助ける手段を探すから」


 ルナもエーテルフレームを解除し一歩ずつ近づいていく。

 オッドだった魔獣も彼女達に歩み寄っていく。

 

 突如として、オッドに赤黒い矢の様な物が打ち込まれた。


「オッドと呼ばれていた者よ。マナによる祝福をそなたに」


 黒髪の乙女が地上に出てきていた。オッドは彼女の用意していた斥候であり、兵器であり、切り札である。


 オッドの様態は急変する。近づいてきていたローラとルナを爪ではじき飛ばした。


 完全な不意打ちだった。


 ローラとルナは壁に叩き付けられる。


 そのままローラとルナの元まで飛び跳ね、牙で捕食しようとする。

 ローラとルナはその一撃を回避する事は成功したが、エーテルフレームを落としてしまった。


 どうにかエーテルフレームを回収しようとルナは戻るが、黒髪の乙女のボウガンが地面ごとマナで爆発させて行く手を遮った。


 新しい黒いゲートから新たな魔獣達が出現する。


 ローラはその魔獣を炎で焼き払おうとするが、先ほどのドラゴンとの戦いでほとんど魔力を使い果たしていた。


「灼熱のローラもホーリードラゴンの一人娘もこの程度ですか」


 黒髪の乙女はそう言いながら魔獣達を指揮し、ローラに襲わせる。ルナは地面を這いながらエーテルフレームに手を伸ばそうとするが


「これが無ければ貴方も小娘同然ですわね」


 黒髪の乙女が先に拾い上げる。


「リリース」


 漆黒に輝くマスケットが黒髪の乙女の手中にあった。


「私は特別でしてね。エーテルフレームが使用者を選ぶのでは無く、私がエーテルフレームを選ぶのです」


 黒髪の乙女はマスケットの引き金に手を掛けた。


「さようなら、ホーリードラゴンの一人娘」


 突如として稲妻が走り、黒髪の乙女はマスケットを落としてしまう。



 翔である。



 翔は訓練場の状態を見て唖然としながらも今すべき最善の行動を取った。


 なぜオッドがあのような状態になっているのか理解できないが、とにかく黒髪の乙女をとめなければならないと。


 オッド以外の魔獣にも雷を落とす。

 周囲が目も開けないような輝きに満ちる。稲妻の轟音が鳴り響く。

 その雷だけで魔獣達は雲散していく。


「もう終わりだ黒髪の乙女」

「えぇ私の負けみたいですね。ただし貴方の勝ちでもありませんが」


 オッドだった物が黒いゲートの中に入っていく。


「オッドは頂いて帰ります」


 黒髪の乙女も黒いゲートの中に帰っていった。


 ローラはエーテルフレームを拾い直し、黒いゲートを破壊しようとするが。


「やめてくれ!」


 翔は叫んだ。


「俺がオッドを連れ戻しに行く」

「翔ダメよ!無茶よ!危険よ!」


 ルナは翔を抱きしめて静止しようとした。


「無茶でも危険でも良い! 確かに俺が最初にオッドの事を助けた! でもオッドも俺の事を何度も助けてくれた! ここで助けに行かなかったら俺はずっと後悔する。オッドを助けなくちゃ!」


 翔はルナをふりほどいた。


「ならこれ持っていきなさい」


 ルナは自らのエーテルフレームを手渡した。


「お守りぐらいにはなるでしょ」

「ありがとう」


 翔はルナを強く抱きしめた。

 これが最期になるかも知れないと思ったからだ。


「止めなさいよ。恥ずかしい」

「嫌いって言われなくて良かった」

「嫌いになるはずなんて無いわよ」


 翔はルナへの抱擁を止めると、黒いゲートに対峙した。


「ローラさん俺が入って十五分しても出てこなかったらゲートを破壊してください」

「本気なんだな」

「えぇ」


 翔に迷いは無かった。黒いゲートの中に突き進んでいく。

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