時が来た。

 ゲートの中は漆黒の世界が広がっていた。辺り一面曇っており、地平線の先まで石ころが転がっているような世界だった。13個もある月が空で輝いていた。


「貴方ならきっと着てくれると信じていました」


 黒髪の乙女はオッドだった物を撫でながら優しい音色で喋った。


「こうなることを期待していたのか」

「えぇ貴方と一対一で話す機会をずっと待ち望んでおりました。いえ、貴方なんて他人行儀な言い方は止めましょう。兄さん」


 翔は一人っ子である。義兄弟の契りをかわした記憶も無い。

 黒髪の乙女は狂っているのだろう。翔はそう判断した。


「この世界は歪んでいます。アストラル王が姉さんを奪い世界を歪めてしまったのです。兄さん早く姉さんを一緒に取り戻し、この荒廃した世界を元の美しい世界に戻しましょう」


「俺は世界の平和とか秩序だとかそんな大きな物は解らない。だから目の前にある小さな幸せを守る事しかまだ出来ない。それでも俺は正しい選択をしていると信じている。さぁオッドを元に戻して返して貰おうか!」


 黒髪の乙女は悲しそうな表情を一瞬だけしたが、すぐにまた冷徹な表情に戻った。


「そうですか。なら愛の為に死んでください。オッドやれ」


 オッドだった物の爪が翔を襲う。

 翔は避けることなく、その爪をトラックに引かれた時と同じような障壁を作る事によって耐えた。


「オッドを守る為に魔法に目覚めたんだけどな」


 オッドだった物は攻撃を止めない。


「俺はオッドを攻撃しない!」


 オッドだった物の殴打によって、翔ははじき飛ばされる。


 連戦による連戦で翔の魔力にも限りが見えてきていた。


 すでに先ほどの攻撃で左腕はボロボロになり、燃え上がるような痛みが翔を襲う。痛みで顔が歪む。


 オッドだった物は翔にトドメを刺すために跳躍する。

 猫がネズミを狩るのと一緒だ。


「俺はもう迷わない―――俺は勇者になるんだ――俺が勇者だ!」


 翔の横にオッドだった物の狙いがそれた。そしてオッドだった物の動きが止まった。オッドの瞳から涙が溢れていた。悲しい雄叫びをあげる。


「お帰り、俺のオッド」


 オッドの腕を翔は撫でる。撫で心地は猫だった時のオッドと変わらなかった


「オッドさっさとトドメを刺せ」


 黒髪の乙女はボウガンをオッドに向けた。

 しかし銃弾が補充されることは無かった。ボウガンはカードの形状に姿を戻した。黒髪の乙女は事態を全く把握出来なかった。


「リリース! リリース! リリース!」


 しかし黒髪の乙女のエーテルフレームは全く反応しなかった。

 黒髪の乙女のエーテルフレームは白く輝きだした。黒髪の乙女は思わずエーテルフレームを落としてしまう。


 そしてエーテルフレームは宙を飛び翔の手元に着た。


 翔は預言書との会話を思い出していた。


『ふむ、まだ時が来ていないと言う事かのぉ』

『あ、あのこれは?』


『エーテルフレーム。魔獣に対抗できる兵器よ。所有者の心と交わり武器として具現化する。しかし通常の武器と違うのは、通常の武器は使い手が武器を選ぶが、エーテルフレームはエーテルフレーム自身が使い手を選ぶと言う事だ』


『俺は救世主では無かったと言う事ですか?』


『いいや、まだ時が来ていないと言うだけ。焦る必要は無い。エーテルフレームはそなたの心を常に見ている。心が通じ合えればエーテルフレームの方からやってくるであろう』


 救世主になる時が着た。


「リリース!」


 黒髪の乙女から逃げてきたエーテルフレームを握り閉め翔は叫んだ!

 エーテルフレームは展開される。


 翔が握り閉めていたのは気体のよう青白く刀身が輝く美しい剣であった。翔はこれが何のエーテルフレームか理解していた。


 マナのエーテルフレーム。


 この世界の根源を司り、豊穣を約束し、災厄を引き起こす、人知を越えた圧倒的なエネルギー。


 そしてオッドを狂わせた原因である。


 翔はオッドからマナを吸収する。オッドの望む猫耳が生えている程度の人間の姿にまで戻した。


 吸い取ったマナで自らの傷と魔力を戻す。


「いけ!ドラゴン!」


 黒髪の乙女はドラゴンを呼び寄せるが、すでに翔の敵では無かった。


 翔はルナから預かっていたマスケットのエーテルフレームを解法し、サブマシンガンの形にしていた。


 銃弾無制限3点バーストなど無視したサブマシンガンをドラゴン相手に連射し、弱った所を剣で一刀両断した。


 黒いゲートを破壊しようとする黒髪の乙女をサブマシンガンで牽制する。


「もう帰ろうオッド」


 翔はエーテルフレームをしまい、オッドをお姫様だっこしながら黒いゲートの中へ戻っていった。

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