城門のドラゴン
城内が混乱に陥っていく中、オッドは一人部屋でベッドの中にうずくまっていた。
それは二つの恐怖からだ。
一つは魔獣への恐怖。
もう一つは自らが魔獣になる恐怖。
カーディフの末路をオッドは知ってしまっている。自らの身体から力があふれ出ている事も理解している。
すでに全身に体毛が生えていた。力も魔力も強まっている。体格すらも以前の自分よりも大きくなっていた。
部屋の中に蜘蛛の魔獣が入ってくる。
オッドはがむしゃらに殴るが。それだけで魔獣を倒してしまった。
オッドはその現状を嘆こうとするが、人の言葉にならなかった。
急いで城へ戻ると城門は閉められていた。ギルドから派遣されてきたと思われる冒険者達もいる。中にはエーテルフレームを使用する物もおり、戦力として期待できた。
「どういうことだ!早くあけろ!」
ローラがそばに居た門番を恐喝する。
「ローラ様、しかし城門近くにドラゴンが占拠していて城に入ることが出来ず、逆にこちら側がやられてしまっています」
城の周りには水堀がしてあり、城門以外から侵入するのは厳しい。
本来ならば敵の侵入を阻む水堀が城内から侵入するゲートによって逆に侵入を阻んでいた。
「ドラゴンぐらいで泣き言を言うな! 私が先陣を切る! ルナ殿は負傷者が出たときの手当の準備をしておいてください! 翔殿は私の後に着いてきて地下の広間に向かってください。モーセ殿の発言。嫌な予感がします」
城門がゆっくりと開かれる。徐々にドラゴンの姿が見えてくる。
赤い皮膚に二本の角トカゲにコウモリのような羽の生えた生命体。
典型的なドラゴンであった。すでに口からは炎を吐く準備をしていた。
「皆の物! これからドラゴンが灼熱の炎を吐く。自分の身ぐらい自分で守れ! それすら出来ない物は来るな!」
城門が開ききったと同時にドラゴンが炎を吐いた。
ローラは自らのエーテルフレームに炎をまとわせ炎で炎を切り裂きながら前へ進んでいく。
翔はその後ろを歩いていたが、ドラゴンが炎を吐き終わるタイミングを見極めてローラの前へ出た。
ドラゴンはそれを見過ごさなかった。巨大な尻尾で翔の行く手を阻もうとするが、その行動はルナの砲弾によって阻害される。
翔は尻尾を飛び越え城内へ急いだ。
「ドラゴンってもっと知的な生命体だと思っていたわ」
ルナのさらなる狙撃。ドラゴンの眼を狙った狙撃であったが、打ち損じ角に当たる。
「伝説上のホーリードラゴンは人語を話し、人々に魔法を授けたと言いますけどね」
「所詮伝説って事かしら」
ドラゴンは翼を広げ一度上空へ退避する。城内へ潜入するための邪魔が消えた瞬間である。
「ドラゴンは構うな! 冒険者達は城内にいる魔獣の殲滅を優先しろ! 腕に自信のある物よ! 第二次魔王大戦時に灼熱と呼ばれたこのローラと共にドラゴンを狩るぞ!」
一部の冒険者達が声を上げる。多くの冒険者は城内での魔獣討伐の為に城へ攻め込む。
そこを狙ってドラゴンが再度炎を吐こうとするが、失敗する。
「私はそう何度もミスしないわよ」
ローラの機械のような精密な射撃がドラゴンの口を正確に射貫いた。
ドラゴンが自らの炎にもがき苦しんでいる合間に冒険者達は無事城内に潜入する。
「ドラゴンを討伐する者達よ! まず翼を落とせ!」
冒険者達がおのおの魔法やエーテルフレームによって翼への集中砲火が始まる。
ドラゴンが空中へ逃げようとするが、それを先回りするかのようにルナが砲撃をして行動を阻害する。
ドラゴンはバランスを失い急激に落ちていく。ローラは空を飛ぶかの用に舞い上がり、ドラゴンの背に剣を突き立てた。エーテルフレームで出来た剣はドラゴンの皮膚を突き破り、真っ赤な鮮血を辺りに散らす。
ドラゴンの悲鳴。
「私の事は気にせず攻撃を続けろ!」
それをかき消すようなローラの怒声。冒険者達は各々の攻撃でドラゴンを空から地上へ叩き落としにかかる。
ローラは突き破った皮膚から直接爆発を起こす。1000度を超える炎に耐えられるドラゴンですら、その体内に至っては他の生命体と変わらない。
ドラゴンとローラに冒険者達の攻撃が届くエーテルフレームから魔法に矢、一斉射撃である。
ローラはドラゴンの背から飛び降りる。
「エーテルフレーム! シフトチェンジ! シールド!」
剣の形状をしていたエーテルフレームは形を変えてローラよりも大きな盾に姿を変え、冒険者達の攻撃を全て防いだ。
ドラゴンは巨大な振動を辺りにまき散らしながら墜落した。
こうなってしまえば、ドラゴンも肉塊と変わらない。冒険者達はドラゴンを討伐したと言う名誉の為に我先にとドラゴンへ群がっていった。
オッドは我慢できなかった。
急激に増していく力、失っていく思考。
自らが化物に変貌していく実感。
こんなことならば、黒髪の乙女の事について話しておけば良かったと今更になってオッドは後悔した。
今となってはその後悔すら翔に伝える手段など無かった。
喋ろうと思えばそれは獣の咆哮になった。
灰になってでも翔にオッドの真実を伝えることこそが本当に役立つ事だったのでは無いのか。
部屋に隠れようとして入ってきたメイドが、悲鳴をあげながら飛び出していった。
もう人の姿でも獣人の姿でも無い事をオッドは理解してしまった。
オッドは遅すぎる選択をするしか無かった。
窓硝子を突き破り、地面へとまっすぐに落ちていく。
さようなら、ごしゅじんさま。
しかしそれはうなり声でしか無かった。
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