ホーリードラゴンとのデート1
アストラル王国の円卓議会では早速サーベルレックスが議題に上がった。
「半分魔獣になりかけていたサーベルレックスが、グラシャメラ樹海で発見されました。このサーベルレックスはドラゴンロアー部隊のミシマ カケル ルナ ホーリードラゴンの2名によって討伐されています。今グラシャメラの樹海に住むエルフの一族と連絡を取っていますが、たぶん彼らもサーベルレックスがいたのを知らなかったはずです」
「たった二人で倒しただと!?」
「大戦の時に一体倒すのに何人の兵士が犠牲になったと思っている!?」
議会にどよめきが走る。サーベルレックスは第二次魔王大戦において絶滅したモンスターであり、魔獣に改造されることも良くあったからだ。それに生息圏としてもグラシャメラ樹海には居なかった生命体である。
最大の問題はマナによる魔獣化が進行していた事だ。
モンスターと魔獣を分けるのは体内にあるマナの含有量で決定される。本来ならば、マナは生まれた時から死ぬまで変わることが無い。しかし魔王はそのマナを自在に操り、モンスターを魔獣へと強化することが出来る。
「サーベルレックスの出現はこの後ローラ含む騎士団員によって隠蔽工作を行いました。一般市民にまで知れ渡ることはありませんが、ギルドには流れていると考えるべきでしょう」
「黒いゲートの件と良い。これはもう魔王が復活したと断定して動くべきでしょう。国王様これでドラゴンロアー部隊の必要性を理解していただけたでしょうか?」
「国家防衛における少数精鋭の特殊部隊ドラゴンロアーか……良いだろう。今日から正式に活動を認可する司令官はモーセ アマデウスを任命する。当面はゲートの件についての調査をしろ。救世主の扱いもお前に一任する」
「ありがとうございます」
モーセは立ち上がり、深く礼をした。
部屋が変わっていた。翔とオッドが住むのだから当然大きな部屋の方が良いだろうと言うローラの気配りだ。翔はそのことをとてもありがたいと思った。
そうダブルベッドである事を除けば
オッドはすでに準備万端とばかりにベッドの中に入っていた。
翔に逃げ道など無かった。しょうがないのでベッドに腰をかけて、今日あった事をオッドに話して聞かせた。オッドもオッドでメイドとして修行することになったらしい。
「で、サーベルレックスを倒せたんだよ」
「さすがごしゅじんさまですね」
と言っているオッドはどこか不機嫌そうだった。
「オッドどうかしたか?」
「いえ、ルナさんと大分親しげそうでしたから」
「あぁ、ルナが俺の事を仲間として認めてくれたんだ」
サーベルレックスの後処理はローラに任せて翔とルナはそのまま帰宅した。その合間ルナは地球の事について、ずっと聞いてきていた。翔はしどろもどろになりながらもキッチリ受け答えをしていた。
「で、それで今度ルナがこの世界の事を教えてくれるってさ。市場とかそういうところ案内してくれるって」
「それはつまりデートですよね?」
「あ!」
サーベルレックスを倒せた高揚感や、ルナと楽しく会話出来ていた事で翔はその実態について完全に失念していた。
「あーーーーー!!」
「オッドはごしゅじんさまの事を全力でサポートしたいのですが、オッドがいるのに他の女性に手を出すのは感心できません。もっとオッドにかまってください」
「いや、女の子と話す練習をもっとさせてください」
好意的なオッドと違ってルナとはまだ若干ぎこちない。それにオッドの事をネコと思い込めるからこそ話しやすいと言う側面もある。
まだ翔には女性経験値がたりないのだ。
「いやです」
「オッド様お助けください!」
オッドはネコに変身すると枕元で丸くなった。
「ネコにも戻れたんだ……」
「はい。ごしゅじんさまはもっとオッドの事で困るべきです」
オッドがこれ以上翔の話し相手になってくれることは無いだろう。
翔は寝るしか無かった。
待ち合わせ場所は城の正門前になっていた。どうして良いか解らないが遅刻するのだけは最悪だろうと思い。30分前から翔は正門前で待つことになった。
ルナが来たのは待ち合わせ時間の5分ほど前の事だった。
「翔どうしたの?」
ルナは不思議そうな顔をして尋ねる。いつもはサイドポニーにしている髪型もゆるい三つ編みにしている。
なによりも大事なのは着ている服がDT殺しであることだ。あえて語るまでも無いが、翔は童貞である。
「い、いや似合ってるよ」
「そう、ありがとう」
ルナはひまわりのような笑顔で返事をした。
馬車を使わずにのんびりと城下を歩く。馬車の中で翔はよく見ることが出来ていなかったが、アストラル連合王国は中世のころのヨーロッパによく似ていた。
違う所があるとすれば多種多様な民族が居るところだろう。
エルフ、オーク、ドワーフ、獣人とそれらの種族が何の諍いも無く町をあいている。
「ヨーロッパみたいだな」
「翔の世界にもアストラルみたいな場所があるんだね」
「うん。魔法使いなんて居なかったけどね」
「ならどうやって生活するの? 平民だって魔法ぐらい全員使える。もちろん威力は低いけど」
翔はポケットからスマホを取り出した。
「エーテルフレームみたいね」
ルナは興味深そうにスマホを眺めた。
「こういう電気で動く機械を使っている。ちょっと使って見るからポーズ取ってくれ写真を撮るよ」
「写真?」
「一瞬で絵画を作るんだ。ほら笑って」
どういうことなのか良くわかっていない為か、ルナはぎこちない笑顔を作った。
それも含めてルナらしいと翔は感じたので気にせずシャッターを切った。
「ほら」
今撮ったばかりの写真をルナに見せる。
「す、すごいレガシーみたいね」
「レガシー?」
「第一次魔王大戦前からある道具で、現在ではロストテクノロジーになってる物よ。エーテルフレームや、預言書なんかもそう」
「預言書って人間じゃ無かったのか……」
「そっか翔の世界はここよりも凄い場所だったんだね。ねぇ、どうしてこっちに来たの」
翔は悩んだ。正直に話すべきか、はぐらかすべきか。
「……元の世界で居場所が無かったからかな。魔法に目覚める前まで俺は独りぼっちだった。だから自分を必要としてくれる世界にいたかった。
自分が欲しかった」
結局翔は正直に話すことにした。嘘をついてもそれは結局昔の翔と変わらないからだ。翔は前に進んでいきたいから、この世界に来たのだ。
一歩でも良い。自分は変われると証明するために。
「……なら私たち似ているのかもね」
「どうして?」
翔にはルナと自分が似ているようには見えなかった。
ホーリードラゴン。偉大な五大龍の紋章を持つ家系の一つであると翔はローラから説明を受けていた。
「誰も私をルナとして見てくれないからよ。ホーリードラゴンの一人娘。それが私よ。
私はホーリードラゴンと言う家名の為に生きて、その為に子供を産み、家名を守る為に死ぬ。
そんなの嫌よ。私は私。だからドラゴンロアーに入ったの。ここなら家の名前じゃなくて、自分自身でいられると思ったから」
言い終わった後のルナはとてもスッキリした表情をしていた。
ルナの言う事は本当だったのだろう。ホーリードラゴンと言う家名。それはルナにとって祝福であり呪いでもあった。
「入ってとても良かったと思ってるわよ。ローラは私の事を妹みたいに可愛がってくれるし、貴方はこっちの常識なんて無視してくれるし、アリゲスは戦友として私を見てくれていた。誰も家の名前なんて気にしない。私だって気にしない。だって仲間だもの」
「アリゲス?」
「アリゲス ボーンイーター。第二次魔王大戦での英雄のオークでドラゴンロアーの一人よ。とっても勇猛果敢な人でそれでいて優しかった」
翔はアリゲスの説明をローラから受けていなかった。
リーダーとしてローラ。それにルナと翔。それが現隊員だと、翔は増員予定はあると聞いていたが、その事なのだろうかと勝手に納得した。
「……今言った事秘密にしてくれる」
「どうして?」
「私は……ホーリードラゴンで無くちゃいけないから」
ルナの瞳から何時涙がでてもおかしくなかった。
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