初めての討伐
城門前ではルナが待ち構えていた。
「よ、よろしくお願いします」
オッドの人間化には驚いたが、それがルナと二人きりで話す練習になったかと言えば全くならなかった。
「あんまり私に手間を掛けさせないでよね」
アストラル連合王国の王城から外壁まで馬車でおおよそ一時間。
その合間馬車の中では特に会話らしい会話は無かった。この世界の事など何も知らないの翔だが、その世界の常識をルナに聞くのはためらわれた。私に聞くな。とそう言った威圧するオーラを感じ取ってしまうからだ。
……これでは教室の時と変わらない。
翔はそう思った。
「じゃあ実際にモンスターを倒して貰うわよ。この辺りの街道のモンスター討伐はギルドに丸投げしているし、そんなに強いモンスターも居ないわ。ただ、ターゲットを壊すのと実際にモンスターを殺すのでは違うの。精神的な部分でね」
「解りました」
「あと、魔法だけじゃ無くて短剣も使いなさいよ。これはローラからも言われてると思うけど一応ね」
「はい」
「……つまんないやつ」
翔とルナは街道からはずれて深い森林の方へ探索を始めた。昔からあるのか日差しがほとんど通らなかった。
「私は見てるだけだから」
探索して五分ほどだった。ゴブリンの群れを発見した。5匹で内1匹が赤い帽子を被っていた。彼が司令塔だろう。
翔は短剣を鞘から抜き取った。その瞬間にはどのような順番でゴブリンを倒していくかが頭の中でシミュレーションが終わっていた。
魔力を足に集め一瞬にして距離を積めると赤い帽子のゴブリンの頭を短剣でたたき割った。いきなりの出来事で驚いているゴブリン達。赤い帽子のすぐ右に居たゴブリンをなぎ払いながら、残りのゴブリン達を指から稲妻を出して感電させて動きを停止させる。
その後ゆっくりと一匹ずつ斬りつけていった。
「あなた!」
「す、すいません」
魔法は極力使わない。そう言う話だった。ゴブリンの力量から考えれば魔法を使うまでも無く倒すことは出来た。しかし直感と効率を考えて魔法を使ってしまった。
「あぁ、ごめんなさいね。怒ってるわけじゃないの。本当に実戦は初めてなの?」
「はい」
正確に言えば不良達と戦ったときやガーゴイルに襲われた時もあるが、あれを実戦と読んで良いかどうか翔には解らなかった。
「頭の中でどうやって動けば良いかすぐに思いつくんです。それで相手がどうやって動くかも」
「未来視レベルの直感かしら? 戦士としては動きにムラがあるけど、戦い方自体は完璧だったわ」
「ありがとうございます」
「でもやっぱり力み過ぎかしら、短剣なんだから棍棒じゃないのよ。あぁでも棍棒とかの方が似合ってるかもね」
「棍棒ですか」
弱そうなイメージしか翔の中では思いつかなかった。
「まぁ次行くわよ」
その後も次々と森の中のモンスターを倒していく。ゴブリンは当然としてスライムやブラッドバッドなど短剣と魔法を組み合わせながら倒していく。
「やるじゃない。少し見直したわ。まぁこの森のモンスターぐらい倒せないとゲートの魔獣なんかと戦闘にすらならないから当然よね。まぁ力量も見れたし今日はもう上がりましょうか」
翔は猛烈に嫌な感覚を全身に感じた。心音が一気にあがる。
「なにか来ます! 凄く強い奴です」
「何言ってるの? この森は定期的に冒険者ギルドで討伐してるのよ? そう強いモンスターなんて居るはずないわよ」
地響きがなり響く。
ルナはエーテルフレームを展開し、狙撃の構えを取った。
咆哮が鳴り響く。
そのモンスターは恐竜のような姿をしており、体長は10メートルを超えていた。その最大の特徴は牙だろう。剣のように長く伸びた牙が上あごについていた。
「嘘でしょ!? サーベルレックスは第二次魔王大戦で滅んだモンスターよ!」
「翔撤退するわよ。私たちだけでは手に負えるモンスターでは無いわよ」
「はい」
翔とルナは全速力で来た道を戻っていくが、サーベルレックスも追いかけてくる。
翔はサーベルレックスの頭に電撃を与えてみるが、少しひるんだだけで終わった。
「無理よ! サーベルレックスは対魔法も対物理もどちらも高いの! 遠距離への攻撃は出来ないからとにかく逃げるわよ」
翔とルナは全速力でサーベルレックスから逃げる。距離は徐々に開いていく。
森を抜けた。
「ルナ! 戦おう!」
翔は叫んだ。怖かった。それでも選択肢など無い事は解っていた。
いや、翔自らがこの選択を選んだのだ。
必要とされる人間になりたいと。
そしてそれが今だった。
「どうして!?」
「街道には馬車が行列を作ってる! このまま逃げたら民間人が巻き込まれる!」
「そんな遠くまで見えるなんて凄いわね! 確かにそれだったら私たちが逃げるわけにはいかないわね! 戦いの指揮は私がする。翔はレックスの注意を引いて。私が後ろから狙撃するから。それで良いね」
「はい」
翔の足がすくんだ。もしも地球に居たら不良共にたかられる事はあっても命の危険は無かっただろう。
しかしここで勝てば、街道にいる人々を助けることが出来る。
自分が生きていると言う意味を見出すことが出来る。
「こいよ! サーベルレックス」
サーベルレックスの動きを直感的に把握して逃げる事に徹した。巨大な尻尾もかぎ爪も当たらなければ問題無い。
少しずつではあるが、レックスの肌に短剣で傷を付けてみるが、逆に短剣の方が刃こぼれしてしまう。
ルナの放つマスケットの銃弾がサーベルレックスに当たっているが、ダメージの反応は見せるが、効果的では無かった。
ルナと翔は長期戦を覚悟した。少なくとも街道に馬車さえなくなれば逃げても問題無い。一度城に戻り討伐隊を編成すれば良い。
サーベルレックスがうなり声を上げて翔を無視する。
目標は街道にいる馬車達だ。
サーベルレックスは街道に向かって走って行く。
「翔!こっちに来い。私の身体に触れることを許可する!」
翔は言われた通りにルナの方に近づいた。
「私のマスケットは魔法の威力を底上げする。そこに私の魔力と貴方の魔法でサーベルレックスへ一気にたたき込む。これ以上街道に近づかれたら馬車にまで被害が出るかも知れない。早くマスケットの銃身を持って」
翔はルナの身体を包み込むようにマスケットを持つ。
「照準は私がやる。打つのは翔、貴方ががやって!」
翔は身体にあるありったけの魔力をマスケットに集める。マスケットにはルナの魔力があるのを感じたそれを複合し、サーベルレックスを射貫く稲妻をイメージする。
「3,2,1」
そして翔はルナと共に引き金を引いた。
銃口を大きく越える稲妻がサーベルレックスを射貫く。稲妻のあまりの明るさに翔もルナも目を眩ませてしまう。
「やったか?」
と言った後にハリウッド映画だと失敗するパターンだと翔は反省した。
しかし実際にはサーベルレックスは倒れたまま動かなくなっていた。
「……やった!やったよ!」
ルナが翔に抱きついて来た。翔が恥ずかしがっているのを遅れて理解して、ルナは翔から離れて咳払いした。
「ルナ ホーリードラゴンが居るのですからこれぐらい当然です」
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